第26話 主人公ではなくライバルです

話はセイラがオペラを鑑賞していた時間に遡る。


「はぁー、何で捕まっちゃってんのさー」


王様達に捕らえられた、雅人とシリウスを助ける為にデオンはノエル城の地下牢に来ていた。


「「デオン!! なんで!?」」


「·····あんたらの姿が見えないから、魔法使って動物達にに探させたのよ」


チョロチョロしていたネズミを指さしてため息を吐くデオン。


「さっさすがデオン! 頼りになるぅ!」


目を輝かせる情けない雅人。


「頼りない勇者きゅんとポンコツナイトのせいで私が有能に見えるだけよ。ほら、立って立って、脱獄するわよ」


「誰がポンコツナイトだ!」


「ポンコツじゃない、勇者と一緒に何捕まっちゃってんのよ」


反論するシリウスを他所に、デオンはコートの内ポケットから木の杖を取り出してポンポンと手を叩く。


『ブレイク!』


杖を前に出して魔法を唱えると、折は一瞬で粉々に破壊される。


「さぁ、行くわよ! 身を隠せる拠点は用意したし! 暫くは身を隠しながら情報収集して、シノンちゃん達より先に災厄倒すわよ!!」


「あぁ! ·····って! あのエセ勇者に会ったのか!?」


「エセって·····まぁ、いいけど。可愛かったわよ、素直でいい子だったわ~セイラがあの子選んだのちょっとわかるわ~」


デオンがニヤニヤしながらそんな事を言うものだから、唇を噛み締める。


「黙れ、あのアホ聖女が誰を選ぼうが関係ない、俺らの勇者は雅人だ」


「シリウス~!!」


嬉しそうにシリウスに抱きつく雅人。


「デオンむしろ、あの勇者に会ったのならなぜ剣を返してもらわなかった」


そう言われて、デオンは少し汗をかきながら作り笑いを見せる。


「いやーうちにレプリカあるからいいかなーって思ってさ!」


実のことをいうと、雅人の為に動くのが面倒臭かったのと、シノンとアシュラの組み合わせが最高すぎて奪う気にならなかったのである。

あの酒場で二人を見た時、彼女は『何この子カップルビジュ最高エモ』と思った。

詳しい事を言うと『はぁーやばい、低身長×高身長+水色髪と赤髪で妹系と兄貴系じゃないですかやだぁー!萌える』と思った。

それで、聞き耳を立てていたらたまたま勇者とその仲間ということが分かり話しかけたというわけだ。

つまり、彼女もセイラとは違った類のヤベー奴である。


「何言ってんだ、レプリカじゃ完全に倒せなかっただろ。やはり聖剣を覚醒させなければ、真の力は使えない」


笑って色々誤魔化したデオンにため息をついて頭を抱えるシリウス。


雅人達はこの国に来る前、環境破壊の災厄を封印していた。

研究者ゲノム・リコールに渡された聖剣のレプリカは完璧なものではなく、シノンと同じ聖剣の力は引き出せなかった。


「まったくお前は勇者を支える賢者なんだぞ!」


「はいはい、わーってますよーだ。でもシノンちゃんから剣奪うとか私のする事じゃないし。やるなら同じ勇者の雅人でしょ?」


「その通りだ! デオン!」


指をビシッと指して大声をあげる雅人。


「うおっ!? ビビったぁ·····急に大きな声ださないでよ!」


「すまんすまん、やっぱりさぁ、俺の敵は俺で倒さなきゃいけないと思うだよね。やっぱこれって主人公の運命って感じだしさ」


「·····主人公ねぇ」


『どっちかっていうと、噛ませ役っぽいのだけど』


そう思ったが言葉を飲み込むデオン。


「奪われたら奪い返すまでだ! 聖剣もセイラもあの忌々しい女から全て取り返してやる!!」


メラメラとシノンへの闘志を燃やす雅人。

それを苦笑しながら見つめるデオンと生暖かい目で見つめるシリウス。


「よーし! デオン! さっさと出口に案内してくれ!」


茶番に付き合うんじゃなかったと後悔しながら、デオンは彼らを引連れて来た道を戻った。

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