隙間話 化物の姿が嬢王の理由

退屈だ。

使命も遂行できないのに生きている。

·····死ねないのも辛いものだ。

この国の皇帝に結果に閉じ込められ何百年経ったのだろうか。

劣化していく街並みを見ると自分がどれだけ惨めなのかが思い知らされる。

魔王様は復活したのだろうか、あの勇者は甘かったからな·····どうせ他の奴らの封印も解けているのであろう。

なんの情報も入ってこない、時間もどれだけたったのか分からない。

たまに、人間が入ってくるが私に攻撃して自滅して死んでいく。

擬態した方がいいのか·····攻撃を受ける度に煙が出るせいで直ぐに人間が弱るのも面白くない。


「·····うわっ、でっけぇ芋虫」


「あっ?」


何も無い毎日に突如現れた変な女。

私の姿を見て、恐れもせずに思ったことを言ったこの女。

キモノを着た黒髪の軍帽を被ったギラギラとした目付きの少女だ。


「·····貴様勇者か」


「そういうお主はもしかして災厄か?」


「質問をしているのはこっちだ」


「あーすまんすまん、わしはふつーの人間じゃ」


頭を掻きながら平謝りをする少女。


「で、お主は災厄?」


指を指してふてぶてしく聞いてくるか普通。


「·····いかにも、倒しに来たわけじゃないのか?」


「そんなわけなかろう、お主は勇者でないと倒せんのじゃろ? わしはクレナイ・カゲツ、ツクヨミ町の嬢王じゃ」


この人間は何を考えているんだ?

私に会っても、恐れもしないし殺そうともしない。

煙を吸い込んだか? いや、そうしたらもっと壊れているか。


「災厄のドープわしはお主を倒しに来たわけじゃない。お主と話に来たんじゃ」


本当に何しに来たこの女。


「父上が組長を引退するゆーてのぅ·····、わしが紅月組の組長に任命されてしもうたのじゃ。んで旧ツクヨミ町を取り戻したいと思ってのぅ·····、ここから別の場所に封印されてくれんか?」


「いやふざけるな」


「でっ、ですよねーたはは」


彼女はヘラヘラ笑って誤魔化した。


「やっぱむりか·····」


無理って分かってたのになんで来たこいつ。

この結界、私の毒霧が充満してるんだが?

なんでこいつピンピンしてるんだ?


「·····私が言うのもなんだが、災厄のいる結界に生身でよく入ってこれたな」


「まぁ、わしすぐ帰るつもりだったし。生身じゃなくて一応魔法も掛けてるんじゃよね」


それでも単身で乗り込んでこないだろ!


「·····これでも人類を滅ぼそうとした災厄なんだが」


「ははは! 殺されたらそれまでよ! いやでもマジでやばかったら土下座して逃げ出そうと思ってました」


この子が長で大丈夫か?

いや、殺気がないから話しかけた私も災厄としてどうかとは思うのだが。


「そっそういうわけじゃから、殺さんでくれたもー·····」


気まずそうにそう言ったカゲツ。

何だこの沈黙は。


「すまん! わしかえる! だから殺さんで!」


「えっちょ!?」


この沈黙が耐えられなくて、慌てて帰る素振りを見せてきたぞ!?

·····思わず突っ込んでしまった。

なんか懐かしいな、魔王様といた頃を思い出すな。


「なぁ、カゲツとやら、少し待ってくれ」


「なっ、なんじゃ!? わしはその、無害じゃ!」


「言われなくても分かる、お前は殺さない」


「えっ?」


「だから代わりにその姿を貸してくれ」


「貸すぅぅぅぅ!! 」


「理由も聞かないで即答するのか!?」


「うんうん! 死なないならいい!」


「はははっ! お前、面白いやつだな! 急いでないなら少し話し相手になってくれ」


「なるなる!! 何時間でも付き合ってやる!!」


彼女と話した時間は、久しぶりに楽しかった。


「ほえーお主ら人滅ぼす気ないの?」


「今はな、昔はあったが、今はそこまでは思わん。まぁ、多少苦しんでる姿を見て楽しみたいとは思うが·····」


「うわーえげつな、人類滅亡よりたち悪ぃじゃんそれ·····こえー」


「どう思われようが関係ない、多分魔王様の悪感情から生まれたから、それを見る事に悦を感じるんだろうよ」


「きっしょいのう·····やべーしこえーし」


「ははは、まぁ私はそれが少ない方よ。どちらかといえば、強者との戦いの方が心躍る、そして相手が私の毒で苦しんで死ぬのなら最高だ」


「·····さいですか、お主も色々とヤベー奴じゃのう。ここから出すと危険じゃ」


「ははっ、違いない」


「じゃから、強敵が現れるまでここで大人しくしておれ。恐らくじゃが近いうちに勇者が現れる」


「ほう、そうか」


「それまでわしの姿ではしゃいでおれ」


「あぁ、そうさせてもらおう」


触手で彼女に触れると私の姿は彼女と等しくなる。

それを見たらカゲツは「じゃあな」と言って元来た道を戻った。


ははっ、これで退屈な世界にちょっと楽しい色が付いた。

この姿は気分が晴れる、何をやっても上手くいく気がする。


「どれ、わしも勇者を待って修行でもするかのう」


あの勇者が現れるまでの間、私はこの姿で結界内に入ってきた人間を蹂躙した。


「カゲツぅううう!! 何やってんのぉおお!? 何勝手に入ってんのよ!」


「げぇっミッチー、なにコユキ皇帝にちくっとんじゃ」


「すみません、マイロードが戻ってこなくて心配で·····」


その後私は彼女に会うことはなかった。

·····もし人類が滅びることがあるのなら、その時は勇者を1発殴って彼女を笑顔で迎えに行こう。


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