第17話 夜更かしのつけ

いかにもヤクザ風な部屋に通されて、イカついソファに座る私達。

正面には皇帝とカゲツと呼ばれる女性が座っている。


「わしが、ツクヨミ町の嬢王、クレナイ・カゲツじゃよろしゅうな」


「もっ、モリカワ・シノンです」


「アシュラ・ホッパーです」


「知っとる、そしてそのゲロ吐き女がセイラ・キヨテルじゃろ?」


「ういー、そーですわー·····」


1人豪華な椅子にだらしない格好で座るへべれけなセイラ。

ほんと、大丈夫になったらお説教しないと。


「色々言いたいことはあるが、まず災厄を倒してくれてありがとうな。あの土地が使えなかったら困ってたのよねわしら、昔災厄と交渉しようと思って入ったが、アイツらの考えがきしょすぎてのぅ·····姿だけ取られて帰ってきちまったのじゃ」


「·····今なんと?」


あまりにも衝撃的なことをサラッと言われたので思わず聞き返した。


「ん? あぁ、わしが紅月組の組長に就任した時にちーっと旧ツクヨミ町を見に行ったんじゃよ、あわよくば災厄と交渉できればなーって思って」


とんでもない事するなこの人!!


「あの場所は、紅月組にとって大切な場所じゃ。ツクヨミ町は世界一の花街と謳っているが、最近似たような街が至る所にできてのう·····、じゃから旧ツクヨミ町の土地を手に入れて新たな施設を作ろうとしてたんじゃよね」


「なっなるほど·····」


「かと言って、組長就任したテンションで結界の中に入るんじゃなかったのぅ·····災厄怖すぎてまじで寿命縮んだわー」


ケラケラ笑いながら話すカゲツ嬢。

この人本当にとんでもないな·····


「本当にびっくりしたんだから! ミチザネ君も心配してたし!! 勝手に結界解除して入るとかマジで有り得ないからね!」


「悪かったって言っておるじゃろ·····」


しゅんとする嬢王とプンスコと怒る皇帝。

いや、それで済む話なのか!?

姿取られたとか言ってたけど、大丈夫なの!?


「なっ、なぁ、嬢王様よ、あんた災厄になんかされたりしてないのか? 災厄に会ってピンピンしてるってにわかに信じられないんだが·····」


「されとらんよ、わしに殺意がないと分かっとったからなあいつ。まぁなんか気に入られて、姿コピーされちゃったんじゃが」


「なっ、なんか、すごいっすね嬢王様」


「無鉄砲なだけよ」


「あはは、手厳しぃなコユキは」


苦笑いをするカゲツ嬢。


「まぁ、わしの話は置いておいて、ここからが超重要な話じゃ」


彼女が真面目なトーンで話始めるので、ゴクリ唾を飲む私達。


「聖女の会計が足りん」


「「はっ?」」


·····今なんと?


「あやつの頼んだタワー代、あれのぅ、別の系列店で飛ばれたものを持ってきたんじゃが、金貨1000枚のものでのう、彼女が用意した金貨500枚じゃたりんのじゃ」


「「はあああああああ!?」」


グロッキーなセイラを睨みつけるアシュラと私。


「おい起きろ!! お前! なんちゅーもの頼んだんだ!!ふざけんな! 謝れ! 土下座しろ!」


「金! お金!! どーすんの!? 私達無いよ!?」


「うぇーっぷ、やめ、具合、悪·····おえー」


グロッキーなセイラをガクガク揺らす私とアシュラ。


「加えてゲロ吐いたせいで取り替えることになった、超高級カーペットと清掃代も請求したいのじゃが·····どーする? 金ないならうちの店でちょっと働いて欲しいんじゃが·····三人とも金は取れそうな顔はしとるし·····」


「バカゲツ!! 何言ってんのよ!!」


スコーンといい音で頭を叩かれるカゲツ嬢。


「もー!! そんなのが超重要な話とかにしないでくれる!?」


「そっそんなのっておめー、ツクヨミ町の経済的に困ることなんじゃが!? ほぼほぼ独立国家みてーなこの街にとっては超重大なんじゃが!?」


「はいはい、報奨金から差し引くからこれでいいでしょ! 絶対あんたの店では働かせません!!」


「ちぇっ、ケチじゃのー」


「もういいわ、カゲツちゃんがちゃんと言わないから私が言うわね」


ため息を付いたコユキ様は真面目な顔で私達を見つめる。


「シノン、アシュラ、セイラ。災厄を滅ぼしてくれてありがとう。カゲツちゃんも言った通りあの土地は私達にとって重要なものです。あの土地を取り戻すため私達もシロン王国に剣を抜きに行ったけど、結果はこの通り。何も出来ない無力な私達王様の代わりに災厄を滅ぼしてくれた三人に、私達からお礼をさせてください」


「いえーしゃれーですわーおえー」


「真面目にやらんか!」


ローテンションで素直に喜ぶセイラにげんこつを食らわすアシュラ。

それを見て苦笑いを見せるカゲツ様と微笑むコユキ様。

二人はアイコンタクトを取ると、私達に向けて言葉をかける。


「シロガネ帝国は貴方々、三人を新たな勇者パーティとして支援すると世界に公表致します」


「しっ、支援?」


「そっ、指名手配されてるんじゃろお主ら」


·····そっ、そういえばそうだった!!!

この国ではコユキ様があの知らせを放置してるから知られてないだけで! 他の場所に行ったら終わりじゃん!!


「じゃから、うちの恩人に手を出したら痛い見るぞっていう忠告をするっちゅーわけじゃ」


「ちなみに、三人に不当に手を出した場合、シロガネ帝国への入国禁止及び支援停止措置を取ります。まぁ流石に我々と敵対したい国なんておりませんでしょうが」


「まぁ! なんせうちには世界最大の花街があるしの! 各国のお偉いさんのオキニがおるツクヨミ町に来れないのは困るじゃろなぁ!」


「えぇ、そうですね」


満足そうに笑いながら話す二人の王。


「すげぇ、シロガネ帝国の後ろ盾だってよ」


「·····本当に凄いよね」


「何言ってますの·····正当な評価ですわ、これで安心して旅ができますわね·····安心したら余計にゲロが·····うぼ」


「ミッチー!!」


「はいロード」


ゲロを吐きそうなセイラの元にバケツを持って、どこからともなくやってきた執事服の男性。


「うぼろろろろろ、ふぁー助かりましたわおえっおろろろ」


「大丈夫ですか?聖女様」


「ノープロですわ執事様。えっなにこのパーフェクト執事は顔よし声よし対応よし、うらやまですわ」


執事をみていつものテンションに戻るセイラ。


「そいつはわしの執事じゃ」


「ついでに夫です」


「おろろろろろろ!! 爆破しろ! おえー!!!」


·····嫉妬した瞬間吐くなよセイラ·····でも凄いなミッチーさん即座にせいらのゲロをバケツでキャッチした。


「主従コンビとか現実世界で初めて見た·····推せる」


「·····シノン?」


私の発言に首を傾げるアシュラ。


「なっなんでもない!」


やっば、うっかり危ないワード出しちゃった。

セイラに聞かれてなきゃいいんだけど·····


「こっこんなパーフェクト執事がイロモノ嬢王の夫なんて·····恋愛対象とは別ですが、なんか負けた気になりますわ·····」


「誰がイロモノ嬢王じゃ、アホ聖女。失礼なやつじゃな」


よかった、カゲツ様と話してて聞いてなかったっぽい。


「話も終わりましたし、そろそろ帰りましょうか。明日もやること色々ありますしね」


「あぁ、そうじゃなってもう今日じゃが」


時計をちらりと見ると、針は午前四時を指していた。


「ちょっと寝たら、シロガネ城にいくわ。勇者達、夕方の宴にはちゃんと起きてこいよー」


ヒラヒラと手を振るカゲツ様を見送って私達はシロガネ城に戻った



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