第16話 酔っぱらいは面倒臭い
「たっく、あのアホ聖女どこいった」
あの後、兵士からツクヨミ町に行ったとの報告があり俺達はそのままツクヨミ町に向かうことにした。
兵士からは申し訳なさそうに『お願いします』と言われたが、明らかに悪いのはアイツである。
シノンと皇帝ペアと俺に別れてこの煌びやかな街を散策中。
「にしても、すっげー人だな流石世界一の花街」
ここからセイラを見つけ出すとか無理だろ。
どうせあの女の事だ夜が明けたらふらっと帰って·····
「おそいぞ! キビキビ動け! お客様が待ってんだぞ!?」
「はいっ!」
なんだあれ·····すげー。
シャンパンタワーを荷車で運んでるじゃん。
崩れねぇのあれ?
「災厄を祓った聖女様のタワーだぞ! 迅速丁寧に運べ!!!」
·····ん?
··········今なんつった!?
「おい! ちょっと待て! あーくそっ! 聞こえてねぇ!」
ガラガラとスピードをあげる荷車を追いかける俺。
結局彼らの目的地まで一緒に来てしまった。
「うわ、でっか、何だこの城」
赤いライトで照らされた和風の城。
1階から6階まで全部飲み屋じゃん·····さっきのヤツらどの店に行ったんだ·····?
とりあえずアイツのことだ1番高い店に行ってるだろう。
エレベーターに乗って最上階の店に向かう。
チーンと扉が開いたら、凄いきらびやかな空間が目の前に拡がっていた。
「いらっしゃいませー男性1名様ですか?」
「違いますセイラ・キヨテルいますか」
「あのーお客様? 失礼ですがその方とはどういった」
受付のボーイは俺を怪しげな目で見る。
「パーティの仲間です」
「ご案内します!!!」
そう言ったら申し訳なさそうに直ぐに俺を中に入れてくれた。
いそいそ歩いていくボーイ、VIPと書かれた扉を開くとそこには脚立に登ってタワーにシャンパンを注ぐ聖女の姿が。
「オーッホッホッホ! ご覧なさい! これがシャンパンタワーですわあああ!」
「「「セイラ様素敵ー!!」」」
女の子達に囲まれてご満悦な彼女は高らかにまた笑う。
「シノンー、セイラいたわ」
腕時計型端末に話しかけるとすぐにシノンが反応する。
『ホント!?どこ!?』
「クラブ紅月城ってとこ、あのバカ、女に鼻の下伸ばしてる」
そう言ったら、シノンのため息が画面越しから聞こえてきた。
『今すぐ行くわ』と言って彼女は通信を切った。
「ううっ、なんだあの女!」
「くそう! 金が払えん!」
「頼みすぎた、やりすぎた、明日からどうしよう」
·····シャンパンタワーの近くで項垂れてる男達。
うーわ、あのバカいくら使ったんだよ、このおっさん達結構な金持ちだぞ?
それをこんなに惨めな顔させるってお前·····
「さぁ、飲めや歌えや今宵はパーリナイですわ!」
そんな事を気にせず彼女はシャンパンを注ぎ続ける。
「オーッホッホッホ!! そこにいる男達今どんな気持ちですの? 見下していた私に、惨敗完敗無念大敗! 聖女なめんじゃねーですわよ!がーっはっは!! あーっはっは! あーっはっ·····は」
調子よく項垂れていた男達を煽っていた彼女だったが、人混みの中にいた俺を見つけると、真顔になって青ざめる。
「なんでテメーがいるんですのおおおお!?」
「そりゃこっちのセリフだ! 生臭聖女!」
ハシゴの上であたふたして降りてくるセイラ。
「セイラ様だれー?」
「彼氏?」
降りてきた彼女に、不思議そうな顔で問いかけるキャバ嬢。
「んなわけねーですわ!!私貴女方のようなキュートで可憐な女の子にしか興味ありません!!」
堂々と宣言したセイラ。
おいおい、女の子の目がハートになってるよ、お前この短時間で何したんだ。
「おいアンタ、あの女の知り合いか!?」
「たっ、頼む! 俺達の仇をとってくれ!」
「かっ、金ならあるだろ!?」
「すまんなおっさん達俺は無一文だ」
立ち上がったおっさん達が直んぐにまた沈んだ。
「アシュラぁ! こっこんなとこになんの用ですの! おめーシノンたんを裏切って、ボインなねー様にパフパフして貰おうとか思ったんじゃねーですわよね!? がっかりですわ! つーかそんな事しようとしてるなら私にシノンたんくれ! 私の嫁にするぞこのムッツリスケベ!! おぇー」
·····完璧に酔ってんなこのアホ。
早口で喋りすぎたせいでゲロ吐きそうになってんじゃねーか。
「落ち着け、なんでそんなハッピーな頭してんだお前」
「うるせー! シノンたんと初めての共同作業したくせに! あれ本来なら私のポジぃ!! あーん! 羨ましいー!! 私もシノンたんとイチャイチャしながら災厄倒したいー!!」
·····あーもうダメだこの酔っぱらい。
あんなにかっこいい戦い方したのに、全部台無しだよ。
「つーか、凄いことやったのに、シノンたんによしよしされなかったんですけど!! いや! 私がよく頑張ったねって撫でたかったァ! 私聖剣使った意味あるゥ!?」
「あるわボケ! 何酔って自分のやった偉業をなかったことにしようとしてんだよ! お前がいなきゃシノンも災厄倒せなかったんだぞ!」
俺がそう言うと彼女は目をキラキラさせてにっこり笑う。
「そーですわよねぇ!!! 私やっぱり最強の聖女、おろろろろろ」
「ぎゃー! ゲロ吐くな!」
調子に乗ったせいでゲロを吐く聖女。
「·····えぇっ、本当に聖剣使ったの?」
「がちでヤバい聖女じゃん」
「本当に俺たちに勝ち目なかった·····」
「「「なんて世界は残酷なんだ!! うおおおおおん!」」」
「おえっ、マジ無理、おええええええ!!」
泣く男達とゲロ吐く聖女、俺の目の前では地獄のような光景が繰り広げられている。
「じゃかしい!!! なんじゃこの騒ぎは!!」
「かっ、カゲツ様!?」
「おっ、オーナー!」
げっ!? 偉い人!?
玄関から入ってきた、赤い肩出しの着物を着る軍帽を被った黒髪の女性。
その姿を見て俺は目を疑った。
「さっ、災厄!?」
「てってめー! 復活しやがりましたの!? おえええええ!」
「ゲロ吐くな! あーもう、キャスト陣は男共を慰めてやれ、ボーイ達それ片付けとけ!!」
「「はっ、はい! カゲツ様!」」
彼女の一言でキビキビ動くこの店の従業員達。
「おい、赤髪と酔っぱらい、お前らにも迎えじゃ」
くいっと親指で後ろを指すカゲツ。
「あー!! いた! セイラ!」
「げぇぇ!! シノンたん!? おろろろろ!!」
シノンを見た瞬間、焦って吐くセイラ。
「ぎゃーす!! 貴様また吐きおって!! コユキ!! なんじゃこの聖女!!」
「あらあら、大変そうですね」
シノンの後ろにいたコユキ皇帝がその光景を見て微笑んでいる。
「笑っとらんでこいつ回復しろ!!」
「はいはい、ボーイさーん、彼女をカゲツちゃんの部屋に」
本日二回目の聖女様の搬送作業。
ついでに皇帝様もついていく。
「たくっ、本当になんなんじゃ·····あーそこの勇者と赤髪お主らもわしの部屋に来い、話すことがあるのじゃ」
やれやれと気だるそうに彼女は俺たちを手招きする。
「なぁ、シノンあれ本当に人間か?」
「うっうん。コユキ様の知り合いみたい」
「おいー早う来い」
ドアからひょっこり顔を出す彼女。
少し早歩きで俺達は部屋に向かった。
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