第10話 希望の光は信じる者へ

「そのでかい図体、切り刻んでやりますわ!」


剣を構え私は虫の体に近づいた。

当然向こうも弱点を突きつけられるのは怖いのでキモイ触手で反抗してくる。

第2形態で巨大化は負けフラグとよく言いますが、その通り。

的はでかいほど当たりやすいんですわ。

魔力を込めて1振2振り、何度かやれば虫の体には傷が付く。

でも向こうもタダじゃやられない。

その傷口から天国へ誘う白煙を出してくる。


「げほっ! ·····あーこれ、浄化しきれねー濃度のやつですわコレ」


風のフィルターを通って空気を吸い込んだが、ダメだこれ。

私じゃ浄化できない領域の魔法ですわ。

痛覚を遮断してるから苦しさはないですが、やっぱり受けるもんは受けてますわねこれ。


『ヒール』


震える腕に回復魔法を掛けて体制を持ち直し、ポーションを飲み空瓶を捨てる。


「やるじゃないか、聖女」


「そういうの攻撃しながら言わないで欲しいですわ」


互いに撃ち合いながらそんな軽口を叩く。

ぶっちゃけ、こっちはそんな余裕ねーんですけど。

叩けば叩くほどお前から嫌なもんが出てくるせいで、視界も悪くなるし、浄化も追いつかないし。

ギリギリで戦ってんだからもう少し手を抜いてくださいます?


「大したものだ、勇者以外の人間が、私にここまで傷をつけることが出来るとは·····聖女、なぜ勇者になれなかった 」


「それは私が1番聞きてーですわ」


疲れてきてるのに心の傷をエグる事いうんじゃねーですわよ。


「実に嘆かわしいな、その実力があるのに、剣の力を真に発揮できないだなんて」


「·····それがどうしたんですの!」


彼の挑発を気にしない素振りを見せて、さらに剣を振るう。


「聖女、お前がその剣のあり方を知らないはずがないだろ?」


·····分かってますわ、災厄が言わんとしてることくらい分かっておりますわ。

お前らを浄化するにはこの剣だけの力じゃ出来ないと言いたいのでしょ。

それくらい理解しておりますわ、だから私が悔しい思いをしたんですもの。

この方法はアイツが剣を抜いた時から考えていましたわ、でも試したけど駄目だった。


だけど私はそれを覆すフリをしなきゃなんないんですの!!


「はぁ? 何を抜かしてますの? 神に愛されたこの私が! この剣に認められなかったくらいで、真の力が発揮できないとでも!?」


·····もうそろそろ頃合でしょう。

私の身体も魔法を使いすぎたせいでボロボロだし、お相手もかなり聖剣のダメージが蓄積された。

最強のお膳立てはできましたわ。


「何っ?」


『スティール!』


シノンとアシュラのポケットから全てのポーションを奪う。

全て飲んだら、手首に触れて呼吸を落ち着かせる。

オーバードーズ気味になりますが仕方ない。

使用方法なんて知ったこっちゃありませんわ。


「主よ、敬虔なる信徒の祈りを叶えたまへ」


剣を強く握り詠唱を施す。

その瞬間大きな魔法陣が結界を覆う。


「なっ何いっ!? ばっ、馬鹿な!! それはアイツと同じ!」


私の魔法に焦った彼は自分の防御を固める魔法をかけ、自分の最大魔法を放とうとする。


「真なる力を目覚めさせ、勝利の祝福を!! 」


「くらえ!『ドラッケル・オピニゲイン』」


詠唱の続きを聞き彼はさらに焦り先に自分の最強魔法を発動。

真っ黒い煙を放ち、私に向かって毒々しい触手を飛ばす。


『ホープウィル・ブレッシング!』


少し遅れて私が魔法を唱えると、魔法陣は聖なる光を放ち、全ての悪しき煙を浄化する。

聖剣の攻撃は触手に阻まれ、残った彼の手は私に絡みつき、ズタボロの体にとどめを刺す。

手に持っていた聖剣はどこかへ吹っ飛ばされ、私は地面に倒れ込んだ。


なんとも間抜けな顔を見せるブサイクな芋虫。


そりゃそうでしょう、凄いオーラを放って先代勇者とほぼ同じ詠唱をかましたんですもの。

災厄を葬り去った先代勇者の剣技。

そんなもん私が使えるわけねーですわ!

これは私のオリジナルのありとあらゆる魔法を無効化する最強浄化魔法!

文献を読んで、詠唱はオマージュしましたが効果は全く別!!


だーっはっは!! すげぇブッサイクな顔!

おめー私に本当に殺されると思いましたの!?

騙されてやーんの!!


「なっ、なにが·····」


横たわる私を見て災厄は混乱している。


『ヴァルキュリア・スラッシュ!!』


だから、後ろにいた彼らの気配を感じ取れるわけがなかったんですわ。


「しまっ!?」


その一撃でひっくり返る芋虫。


『キラーチェーン!』


そしてそのまま鎖に拘束された。


「ナイス、アシュラ!」


「シノン! そのままやれ!!」


「なっ、何故!貴様らが!! 殺したはずじゃ!·····まっ、まさか! ずっと!」


ザッツラーイト、その通り。

お前とやり合ってるってる間、回復魔法を発動してたんですわよ。

煙から二人を守るように半円の膜を張って、安全安心に回復!

回復が終わりゃ勝手に魔法がきれて、感覚的に分かるからそのタイミングで皇帝から貰った端末を起動!

して、私の状況をみんなに中継、後は2人を信じて待って聖剣を上手い事放り投げるだけ。

まじで超絶パーフェクトな作戦!


「シノン·····後は、任せましたわああああああ!!」


振り絞った力で叫んだエールは彼女の決意を更に強くさせる

·····あぁ、よかった、やっぱりあの子は勇者に相応しい。

私頑張ってよかった。

あの瞳を輝かせる為に頑張ったなんてとっても誇らしいですわ。


「聖剣抜錨」


仲間の想いを込めて私の勇者は覚醒する。


「喰らえ! 『サントゥクス・レクイエム』!」


全てを包み込む光の剣。

私はそれを見て先に眠りについたけど恐らく災厄をうち滅ぼしてくれたのでしょう。

それじゃ、後の話は宴にでも聞かせてくださいな。

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