第8話 麻薬
多くの使い魔を引き連れて災厄が一人、
彼女が「パン」と手を叩くと使い魔たちは一斉に私達に襲いかかる。
「とりあえず様子見じゃ、こいつらごときに倒されるなよ?」
悪役の彼女は期待するかのようにニンマリと笑う。
「甘くみてんじゃねぇですわよ! ぶっ潰してやりますから覚悟しなさい!」
その笑顔を見た瞬間これまで見た事ないくらいの嬉しそうな顔でロザリオステッキを構えるセイラ。
なっ、なんか、凄くやばいオーラを出してるんですけど·····
「聖なる雷よ、悪しきものを祓いたまへ!」
クルクルと杖を回し、高く掲げると杖の先から魔法陣が現れる。
それを彼女はビュンと鬼達の上に放り投げた。
『セイクリッド・エターナルヘブン!!』
バチバチと音を鳴らして聖なる雷は彼らに降り注ぐ。
「へい、災厄使い魔なんか使い物になんねーんですから、その身でかかってこいですわ!」
災厄に何言ってんのこの人!!
「かっかっか!! 聖女がいきがるなよ!! お主にわしは殺せぬのだから!!」
「わあってますのよ、それくらい。だから最強のウルトラ可愛い勇者を連れてきたんですわ!!」
手を広げて後ろにいる私を災厄に紹介するセイラ。
やめて! 紹介する時に自分でバーンとか言わないで!
期待をあげるなアホ聖女!
「·····ほぅ」
意味ありげに笑わないでドープさん!!
「大丈夫かシノン、なんかすげぇハードル上がってんぞ」
「大丈夫なわきゃないでしょ!!」
·····どうしよ、あの時は努力して頑張ったとか言ったけど·····私、田舎のアカデミーでは1番強かった自信はあるけど、セイラや上の実力者よりは絶対弱いし·····本当に勇者になる実力あるがある訳じゃないと思うし·····
多分、元の勇者と同じラッキーガールなんじゃないかなって思うもん。
「·····シノンたん、大丈夫ですわ。何があっても私は貴方を最強の勇者にします。だから安心して剣を振るうんですわ」
「せっ、セイラ·····」
震える私の肩に手を置いて彼女はそう言った。
「貴方には世界一の聖女とオマケの盗賊がついていますわ」
「オマケってなんだクソ聖女」
自信満々のセイラを睨みつけるアシュラ。
「とりまシノンたん、何とかなるから、悩みなんて捨ててその剣で思いっきり大暴れしなさいな!」
「·····そうだね、ありがとセイラ」
不思議と彼女に励まされると肩の荷が降りた。
やっぱり私単純だなぁ·····あんなに不安だったのに今の言葉でやる気出るんだもん。
「災厄! 全てをかけて私と戦いなさい!!」
「いい目をしとるな! 勇者! 口だけじゃないことを願いぞ!」
ぎゅっと剣を構え私は、薄ら笑いを浮かべる敵に斬りかかった。
「たああああ!」
「そう、急ぐな楽しみながらやり合おうぞ勇者」
私の剣を亜空間から召喚した禍々しい触手のような手で受け止めるドープ。
「なっ、なにそれ!」
「わしの手」
そういう事じゃないんだけど!?
「·····じゃが、あまり使わん方が良いか、それを触るだけでちと痛いわ」
彼女は恨めしそうに聖剣を睨んだ。
「聖剣に触れればダメージが通るみたいですわね·····それなら!」
私達の攻防を見ていたセイラは杖を掲げ魔法を唱える。
『聖女の慈愛、戦乙女の加護、風精霊の贈り物!!』
一気に支援魔法3連発!?
やばい、一瞬で力が湧き上がってくる!!
「てやあああ!!」
「ぐぎゃああ!!」
一撃の威力がエグっ!?
私の剣を受け止めようとした黒い手を一瞬で真っ二つにしちゃった!
「ふふーん回復力、攻撃力、機動力、超絶アーップ、シノンたん! 剣に魔力ぶっ込んで、そいつの心臓に突き刺しなさい!!」
「うっ、うん!!」
「アシュラ! 私達も突っ立ってないであの化け物を押さえつけますわよ!」
「おう!」
攻撃を仕掛ける私達を見て、災厄は血を吐きながらも笑みを浮かべる。
「いい、いいのぅ! 最高じゃ! 何百年も年ここに閉じ込められた甲斐があったわ! もっともっと、わしを楽しませろ!」
『千寿白煙世界』
傷口から白い煙を出し、彼女は更に黒い手を増やす。
「ふっ! 毒攻撃は無駄ですわ! 風のマスクで無効化できますもの!」
「·····それがどうしたのじゃ?」
セイラの挑発などどうでも良さそうに彼女は無数の腕を猛スピードで私達に向ける。
「やべっ! 『サンド・ウォール!』」
アシュラが慌てて地面に触れると、その場所から土の壁が飛び出した。
「ふん」
セイラは鎌を一振して黒い手を弾く。
「うわっと!」
私も剣でその手を防いだ。
その様子を見ても、災厄は何にも反応を見せない。
「へっ! 大したことねーですわね! ちゃっちゃとあいつを拘束してシノンたんを楽させてやりましょ!」
セイラがそう言って杖を掲げた瞬間だった。
『蓬莱乱舞』
彼女の一声で無数の腕は銃火器に変わり、その銃口が私たちに向けられた。
「はぁ!?」
壁で弾いた腕も、剣で避けた腕も、形を変えて再度私達に敵意を向ける。
にひっと彼女が笑うと、それらは眩い光を放ち窮屈な体から鉛玉を放出した。
視界は真っ白だし、身体も動かない、このまま蜂の巣にされるしか私達に未来はない。
『機械神の加護!!』
銃弾が飛び出したのと同じタイミングで、白い光に私の体は包まれる。
かきん、がきんと鈍い音を立てて弾かれる鉛玉。
「えっ、あっ、あえっ?」
「うっ嘘だろ? はぁ!? 生きてる!?」
自分達が生きている事に驚く私とアシュラ。
「動け!! 野郎共!! 驚いてる暇ねーですわよ!!」
所々焼け焦げてボロボロなセイラが私たちに向けて声を張り上げる。
「あいつが調子こいてる今のうちに聖剣決めてこい!」
「「はっ、はいいい!!」」
剣を構え直して私達は走り出す。
「やべー·····魔力使いすぎましたわ、くそっ即時発動したせいで残りの魔力持ってかれましたわ」
腰にぶら下げた袋からポーションを取り出して口に含むセイラは走り去る彼女達をゆっくりと追いかけた。
白煙と銃弾が混じり合うこの空間を駆け抜け、無意味な攻撃を行い続ける油断している彼女の元へ。
「見えた!」
足を貯めて思い切り彼女に飛び掛る。
剣を大きく振りかぶる私を見てギョッとした彼女は慌てて後ろへ距離をとる。
「甘いっ! 『スティール・ウィップ!』」
彼女の背後を取っていたアシュラは鞭で彼女を拘束する。
「くそっ! はなっ!」
「これで、終わりだああああ!!!!」
大きく剣を振りかぶり、災厄の頭から真っ直ぐに振り下ろす。
一刀両断された彼女は目を見開きながら、呻き声をあげる。
「あっ、あっ、ああ!! まっ、なっ、なああああ!!」
最後の叫び声をあげその切れ目から白い光が溢れ出す。
「·····なーぁんてな!」
「「へっ?」」
その光は邪悪な煙となり思い切り放出される。
勢いよく切れ目から吹き出したガスはマスクの浄化機能を麻痺させ私の体の中に侵入する。
「かあっ!? あっ、あああ!!」
煙に体を蝕まれ私は首を抑えながら地面をのたうち回る。
「シノン!!」
アシュラは慌てて私を助けようとしたけど、
「バカか?敵に隙をみせるな盗賊」
その隙を憑かれて、黒い手に拘束されてしまった。
無数に伸びた黒い手の1本が注射器のように鋭く尖り、彼を刺す。
「ぐぁああああ!!!!」
その針から直接入れられた液体は彼を壊れさせるのに充分なものだった。
悲痛な叫びを上げたあとアシュラは目を淀ませて地面に倒れ込んだ。
「·····はぁ、あの姿気に入ってたのだがしかたない、暫くは不細工なこの姿で過ごすか·····」
醜い芋虫の姿に戻った災厄は残念そうに重い体を引き摺ってその場を去ろうとした。
「なんなんですの·····これ」
だがしかし、彼は聞こえてきた彼女の声で歩みを止めた。
「なんで、クソ不細工な害虫がこんな所にいるんですのおおおお!!!」
空気の読めない彼女の発言は、災厄の怒りを買った。
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