第4話 旧勇者パーティ

「号外! 号外!! 聖女セイラ・キヨテルの反逆だ!」


新勇者御一行が旅立った後のシロン王国は大混乱に陥っていた。


「どっ、どうしましょう! 国王! 勇者の剣が奪われあろう事かセイラ様がバックれました!!」


「なっなにぃ!?」


「うおおお!! セイラあああ!! うおおおおお!」


セイラに剣を盗まれた旧勇者は怒りと悲しみで叫んでいる。


「あーうるさいうるさい。セイラが居なくなってイラついてるのは私も一緒なのにさぁ、一人だけ悲劇のヒロインきどりかしら」


「おいおい、言い過ぎだぞデオン。それに雅人も落ち着けよ」


「落ち着けるかシリウス!! 俺の最愛の女神が!」


雅人以外のパーティメンバーは『女神じゃなくて悪魔だろ』と思った。


セイラの二つ名は悪魔の聖女。

お嬢様言葉とチンピラのような言葉を使い、実力を持って人を黙らせる女だった。

戦いにおいては、自分の杖を槍や鎌に替え振り回したり、高度な魔法をバカスカ撃ったり、自分にバフをかけて強化したりと、やりたい放題。

それ故に勇者としては剣に認められなかった。

聖剣もこれ以上強すぎるこの女に力を与えてはならないと思ったのだろう。


そんな所に地球からチート能力を持ってやって来た吉田雅人。

神に選ばれた彼は当然聖剣にも認められた。

勇者になりたかった彼女にとって、何処の馬の骨か分からない奴が剣を抜いた事は屈辱的だった。


その事情を知っているのこの世界の住人は『やりやがったあの女』と思っただろう。


「ぐぬぬぅ、セイラが雅人を嫌っていたのは知っていたがここまでやるとは·····しかも新しい勇者なんてワシは聞いとらんぞ! でもまぁ、新たな勇者が世界を救ってくれるならそれでいいのじゃが·····」


「何言ってるんですか! 2人目の勇者なんて気味が悪い!! 世界を救わず滅ぼす可能性もあるでしょうに! よく考えてください国王! 我々の伊吹がかかった駒と、突然現れた得体の知れない奴! どう考えたって前者の方が安全でしょうに!!」


ヒソヒソ声で話す国王と大臣。


「ご心配なくぅ~ゾエル大臣とフィミット陛下。おーい勇者諸君こっちにいらっしゃい」


奥の部屋から出てきた、紫髪の小さな眼鏡をかけた糸目の男がニコニコしながらやってきた。


「「「リコール博士!」」」


「やぁ、雅人にシリウスにデオン。大変な事になってるねぇ」


「そうなんです! あの女が!·····相変わらずあいつは!!」


「はは、セイラは凄いことをするよなぁ·····まぁそれは置いておいて、雅人勇者の剣がないと困るだろ? だからこれあげるよ」


リコールが後ろに隠してた剣を雅人に渡す


「えっ!? これって聖剣!?」


「いや、聖剣のレプリカさ。本物は勇者以外が使うと使用者にペナルティが課せられるからねぇ。ほら僕だって握れるだろう?」


ゲノム・リコールは勇者に関する研究者だ。

選定の石に刺さっていた聖剣を研究し、もしもの時の為にレプリカを作っていた。


「誰でも使えるけど、勇者が使えば本物と同じ力が使えるはずさ。僕が使ってもただの剣と同じでねぇ·····駄目だったら駄目だったで2人目の勇者から返してもらえばいい。多分君の方が勇者に向いてるからね」


優しく雅人に笑いかけて彼は聖剣のレプリカを渡した。


「おぉ·····」


雅人がそれに触れると剣は眩い光を放った。


「凄い、博士こんなもの作ってたなんて!」


「なぁに研究の一環だよデオン。それより、君達ももう出発した方がいい、ローズ帝国で災厄が現れたという報告があってね」


「なっ、何っ!? それは一大事だ! 雅人、デオン、シリウス! 早く出発せよ!」


こうして、旧勇者パーティも旅に出ることに。

シノン達とは別ルートではあるがいずれ彼らは、彼女達とぶつかる事になる。

でもそれは少し先のお話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る