第2話 盗賊が盗まれたもの

俺の名前はアシュラ、ひょんな事からやべえ聖女と勇者と旅に出ることになったしがない盗賊だ。


「あの、セイラさん」


「セイラでいいですわ、歳も3つしか変わんないですし」


「えっ、お前俺とタメ? もっと年上かと·····」


「おめーは私をどれだけキレさせんですの? 一変死んでみます?」


十字架の杖をガシャンガシャンと地面に叩きつけて威嚇するセイラ。

彼女がなぜ聖女になれたのかが分からない。

そもそも、なんでこいつは勇者の剣を持ち出したんだ。

普通に考えておかしいだろ。


「あの、アシュラさん流石に失礼ですよ! せっ、セイラも落ち着いて!」


オドオドしながらセイラを鎮めるシノン。

·····彼女が勇者になったことも信じられない。

俺が黙そうとした相手がまさか勇者だとは、しかも俺を仲間にしてくれるとかどれだけ甘いんだよ。

ぶっちゃけ俺の事嫌いっていうか、嫌だろこの子。


「へへっ、もーアシュラさん女の子の扱いは気をつけてくださいねー」


この薄ら笑いは絶対そうだろうな。


「それで、シノン私に聞きたいことは?」


「あっそうだった! その、セイラはどうしてあの時剣を持ってたのかなーって思って」


「それは俺も聞きたかった」


「·····あぁ、言ってませんでしたわね」


そういえばそうだったとセイラはポンと手を鳴らし、淡々と語り始めた。


「簡単に言うと、旧勇者が嫌いなんですわ」


「そんな理由で!?」


思わず声に出てしまった。


「まぁ、お前様にとってはクソしょうもない理由ですけど、私にとっては重たい理由なんですわ」


「あー気を悪くしたらすまん」


「いいんですわよ、だって普通の人が聞いたらお前頭おかしいんじゃねーかと思いますもの」


自分でも思ってるんかい。


「·····少し長くなりますが昔話を、私は昔から勇者に憧れてましてね。勇者になるまで努力してきましたわ。武器の使い方、魔法の勉強、肉体改造、強くなる為何でもやりましたわ」


「凄い!」


「ですが、その努力を聖剣は認めてくれませんでした」


「あっ·····」


何か思うところがあったのかシノンは気まずそうな顔を見せる。


「そんな顔しないで下さいまし、私は貴方のことは勇者として認めていますから。貴方も辛い過去を乗り越えてここまで来たんでしょ、それは誇りなさいな」


それを聞いてシノンはホッとしたように暖かな笑みを見せる。


「·····なぁ、セイラ。シノンはよくて前の勇者はなんでダメだったんだ」


「単なるラッキーボーイだったからですわよ。転生者っていう神からの加護を付与されたチート野郎ですわ」


「·····!」


転生者と聞いた途端シノンは険しい顔をした。


「なっなぁ、転生者ってなんだ?」


「アシュラきゅんは知らないんですわね、この世界以外で死んだ者が女神アルクェイドの力によってこの世界に生き返った者の事をいいますわ」


「女神アルクェイドだって!? 聖剣伝説の!?マジで実在すんのかよ·····」


「えぇ、その加護を持った旧勇者は剣に無理やり自分の力を認めさせる事ができるのですわ。·····私がなぜ認められなかったのかそれは剣に聞かなきゃわかんねーですけど、ズルしてなった奴よりは相応しいと思いましたわ」


出会ってからずっと自信満々だった彼女の顔が少し曇った。

それほどこの事件は彼女のプライドを傷つけたのだろう。


「·····セイラ」


「それに聞いてくださる!? そいつマジでムカつくんですの! 剣に選ばれたからって私に『俺がオマエを守るから』とか!『一生幸せにするぜ』とかきっしょい言葉をかけてくるんですの! 調子乗んじゃねーよ! 女神のエコヒイキで勇者になったくせに私の前でイキるな!と思いましたわ」


「·····そりゃ、剣も盗みたくなるわな」


俺は初めて彼女に同情した。


「だから、シノンが剣を持てた時に驚きましたわ。しかもシノンには剣に認められる素質があった。何より私の頼みをオーケーするとかマジで惚れそうになりましたわ、心広すぎまじ勇者ってね」


「えへへ、そんなこと言われたの初めてだよ照れるなぁ·····」


顔を赤らめてデレデレするシノン。

改めて見るとやはり勇者らしくない。

こんな普通の少女が、伝説の勇者なんてにわかには信じられない。

·····いやでも、俺を仲間にするのをオーケーする懐の深さは勇者の器なのかもな。

セイラは気に食わない奴と旅ができないから剣を盗んだのに対して、シノンは俺を何も言わずこのパーティーに入れてくれた。

そう考えると少しは納得する。

ぶっちゃけ彼女の方が聖女だもんな·····


「デレデレするシノンたん可愛いですわ! 勇者な上にベリィ~キュート! まさに私好みの勇者!」


「·····キモっ!お前、前の勇者の似たような事言ってんぞ!?」


雷に撃たれように驚いた顔をするセイラ。


「オーマイガッ! でも、そう思いませんことアシュラ! 敵だったオメー様を快く許すなんてマジ天使!オメー様が一番彼女を慕わなきゃいけねーんですわよ? そこんとこ分かってらっしゃる!?」


「言われなくても分かってるよ」


「リアリィー?」


「優しい可憐な天使いや女神様だな」


この聖女絡み方が面倒臭いんだよなぁ·····とりあえず怒らせないようにシノンを褒め称えよう。

まぁ、嘘は言ってないしな、本当に彼女はいい人だよ勇者にふさわしいとも思う。

まぁだけど、彼女が俺の事あんまりよく思ってな·····


「·····ほっ、ほんと?」


「えっ?」


少し上ずった声が聞こえて思わず後ろを振り返る。

シノンは真っ赤に頬を染め、目をぱちぱちと泳がせている。

よくよく見たらアホ毛も犬のしっぽみたいに動いてるぞ!?

えっ何この子、俺に褒められたから顔赤くして照れて喜んでんの!?

うっわ、チョロっ!? 危なかっし!

何!? もしかして、好感度めっちゃ上がったの!?

たったこれだけの事で!?


「えへへ、ありがとう、アシュラ」


よっ、呼び捨てにされたーーー!!!!

あんたあんだけさっきまでオドオドしてたのに、なに懐いてんの!?

えっ、まってこの子大丈夫?

·····凄い心配だ!


「なぁ、シノン」


「んっ? なっ、なぁに?」


「俺はお前に一生ついていく、忠誠心はお前にしか捧げねぇだから俺を信じてくれ」


この子を他の悪い大人から守らねえと!!

黙そうとしてた俺が言うのもなんだけど!

何処の馬の骨に誑かされて勇者辞めますとか言ったら洒落になんねー!!


「はっ、はい·····」


「てめー何調子こいて勇者口説いてんですの」


「ぐぎゃっ!?」


ロザリオが付いた杖でセイラは俺の股間を刺した。


「ぐおおおお!!」


「はぁ、シノンたんが可愛いからって手を出そうとしましたわね、パーティー追放するぞこら」


「くぉら! 俺はツルペタは興味ねぇ! ただこの子が危なっかしいから見守ってやらねばと思っただけだ! 単なる親心っていうか兄貴心で心配しただけだ!」


「つ、ツルペタ·····おほほ、あはは、シュン」


あっやべ、シノンが落ち込んだ!


「いや! シノンこれはだな!」


「アシュラさんいいんです、どうせ私ツルペタなんで成長中とはいえ魅力ゼロですよね、知ってます、知ってますから」


さっきまでカンストしかけていた好感度が一気に下がった。


「あっ、ちがっ! 違うから! 大丈夫成長するさ! ごめん!謝るから!許してくれシノーーーン!!!」

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