第1章 勇者と聖女と盗賊と
第1話 シノンの旅立ち日に
「·····わぁ、すっごい、人多いなぁ」
ここはシロン王国、王都ヴィレンシア。
そして私モリカワ・シノンは故郷から出稼ぎで王都にやってきた冒険者である。
田舎町で苦労してはや14年!
ようやく独り立ちできる歳になった私は誕生日を迎えた今、冒険者になる為、王都へ飛び出した。
早く稼いでお母さんとお父さんを楽させなきゃ。
そして同年代で誰よりも稼いで、私をバカにした田舎からでれない奴らを嘲笑ってやるんだ!!
そんなことを思いながら王都に来た私だったが·····
「·····ど、どうしよ、ギルドの道が分からない」
冒険者になる為には、冒険者登録をするためギルドに向かわなければならない。
地図を見ているが、入り組んだ王都の道は分りずらく、何処にいるか分からなくなってしまった。
「おや、お嬢さんどうかしましたか?」
あたふたしている私を見かねたのか、この街の人が話しかけてくれた。
「あっ、あの、冒険者ギルドを探してて·····」
うわー、すっごい美形、凄くかっこいいかも·····
しかも珍しい格好、西の国の民族衣装だ。
ターバン巻いてるとかカレーのパッケージに乗ってる人しか見たことなかったから、新鮮·····
「どうした、お嬢さん」
「いっ、いえ! なんでもないです!」
「冒険者ギルドなら俺が案内してやるよ、この街入り組んでるから道が分かりにくいよな」
「はっ、はい! ありがとうございます!」
良かった~親切な人にも会えて、よしこれから私の冒険者人生が始まるんだ!
「ちょっと、そこどいてくださいましー!!!!!」
「「えっ?」」
吹っ飛んできた台車を掴んだ女の子。
台車の上には石に刺さった剣。
「「「ぎゃー!!!!」」」
ドンガラガッシャーン!
音を立てて私達にぶつかった彼女と台車。
滅茶苦茶痛くて泣きそうになった。
「いってえな!! 何やってんだお前!」
「すみませんですわ! 後で詫び金はやりますから、どうか見逃してくださいまし!」
変な帽子を被った白い服の女の子が慌てた様子でそう言った。
「うわー! 私の剣! どこですの!? っう! 足いった!!!
ヒール! ヒール!!」
·····大丈夫かなこの人·····心配だから台車持ってきてあげよう。
あーあー、石も落ちちゃってるよ。
「うわっ! おもっ!!」
大変そうだったから、代車から落ちた剣が刺さった石を抱き抱えて乗せてあげると驚いた様子で私を見つめる彼女。
「ちょっ、貴方、それもって何ともないんですの!?」
「えっ、えぇ大丈夫です」
剣の柄の部分と台座部分を触っている私がそんなにおかしいのか、彼女は信じられないといわんばかりの顔を見せる。
「·····貴方、名前と職業、これまで頑張ってきたこと大変だった事を話しなさいな」
「えっ、ええ!?」
「いいから! 早く! 人助けすると思って教えてくださいまし!」
なっ、何これ面接!?
やばい人に絡まれちゃったな·····まぁでもいいか、さっさと答えてギルドに行きたいし。
重たかったから石を置いて、彼女の質問に答えることにした。
「私の名前はモリカワ・シノン。14歳。職業は冒険者になる予定、頑張ってきたことは冒険者になる為の特訓、大変だった事はそうだな·····住んでたところで虐められてたことだよ」
それを聞いて彼女は目を光らせた。
「·····もうひとつ聞いてもいいかしら」
「はい」
「貴方の夢は?」
「私をバカにしてきた連中を見返して、巨額の富と最高の名誉を得て親をらくさせる事です」
その言葉を言った瞬間、彼女は私の手を握って更に瞳を輝かせた。
「イッツオーライ!!! 最高ですわ貴方! 私と同じ匂いがする! 貴方なら私の勇者に相応しいですわ!!」
「えっ、あえっ?」
ゆっ、勇者? 何言ってんだこの人、これやばい人じゃね!?
ちょっ、助けて赤髪のお兄さん!
さっき助けてくれたお兄さんをチラッと見ると目をそらされた。
ほえっ!? なんで!?
「シノンと言いましたね、貴方その剣抜いてみなさい」
「えっ!? それに、なんの意味が·····」
「いいから、へい、ぬいてみんしゃい」
言われるがまま剣に手を伸ばし、石から引っこ抜いた。
するりと抜けた剣を見て彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「キター!!! あいつじゃなくて、ほかの勇者が現れましたわあああああ!!!」
「えっ、あえっ!? どっ、どういうことですか!?」
「そのままの意味ですわ! 貴方が抜いたのは聖剣! それ即ち勇者の剣ですわ! そいつを抜いたものは勇者となりこの世界の災厄を払うんですの!」
·····わっ、私が勇者? 嘘でしょ!?
だだだって、勇者は他の人がもうなってるんじゃ!
「おいおい! 待てよ! 勇者は、雅人ってやつだろ!? つーかお前聖女のセイラ・キヨテルだろうが! ガチで何やってんだお前!! 今日は旅の出発式やるんだろ!?」
ターバンのお兄さんがそう言うと、彼女は怪訝そうな顔を見せる。
「まさか、西の国の奴隷商人にまで私のことが知られているとは·····私もわりと有名人ですのね」
「んなっ!? 人聞きの悪い! 俺はただの商人だ!」
「えっ·····奴隷?」
「そーですわよ、勇者様、そいつら西の国の商人は親切な振りして、か弱い冒険者を攫い奴隷として自国にもってて売りさばいているんですわ」
不安そうな顔をすると、気まずそうに彼は視線を逸らす。
やばっ、騙されるところだった!!
「俺のことはともかく!! 聖女のくせに何勇者のこと裏切ってんだよ! つーかこれ反逆罪とかで捕まんじゃねーの!? そうだ密告してやる!」
「バーロ、テメー様も捕まりますわよ、暁の盗賊団のアシュラ・ホッパー。貴様のやったこたぁ、既にバレてんですの」
たらたらと汗を流すアシュラという男。
「本日付で指名手配されますのよ、それが嫌なら大人しくこの事は墓場まで持って行きなさい。さっさと逃げて自国に帰りゃ捕まらずにはすみますわ」
凄い美しい笑顔で彼を追い詰めるセイラ。
「といっても、貴様らを一網打尽にする包囲網は作られてます。逃げても無駄でしょうね」
さらに追い打ちをかけた!?
怖いよこの人!
というか都会怖い!! やだおうち帰る!!
·····でっでも、私この剣抜いちゃったしどうしよう。
·····やるしかないのかな。
勇者になるしかないのかな!?
·····まじで不安しかないけど、勇者になって災厄を払って世界を救えば超絶有名になって富も名誉も簡単に手に入る!!
それならやるしかない!!!
「さて、おバカさんのことは置いておいて、シノン。貴方は私と·····」
「うん! 旅に出るよ! 私、セイラさんと旅がしたい!」
「決断が早くて助かりますわ! それでこそ私が見込んだ勇者! じゃあついでにそこの盗賊奴隷商も付いてきなさい」
「「えっ?」」
えっやだよ、何この人何言ってんの!?
向こうも驚いてるよ! あんだけ煽ってなんで誘ってんの!?
「捕まって私らの事チクられても困りますし、それでしたら私達の管理下において馬車馬のように働いてもらった方がいいですわ」
「ざけんな!! 命懸けの旅をするくらいなら捕まった方がましだ!!」
「そっそうですよ、無理強いしない方が」
「何言ってますの? 盗賊というジョブも持っていて、弱みも握ってる·····パーティメンバーとしていい駒になりそうじゃないですの!」
ええっ!? セイラさんってやっぱりぶっ飛んでる!!
うわーん! ぶっちゃけ、私を捕まえようとした人と一緒なんてやだ!!!
どうにかして、一緒に来てもらわないようにしなきゃ!
「どう足掻いても絶望するなら、私達と一緒に世界を救いませんこと? そうすりゃ、貴方がしたこと全部チャラにしてくれますわよ」
うわー!すげー誘い文句! そんなのもう来るしかないじゃん!
無理だー! この人追い返すのもう無理だー!
すげぇよこの聖女!何でもかんでも自分の思い通りにしてるもん!
「·····でも、そこの勇者を攫おうと」
ちらりと私を申し訳なさそうな目で見るアシュラ。
「えっと! 全然気にしてないですよ! 仕事なら仕方ないですよ! 多分私を攫っても返り討ちにしてたと思うんで! とりあえずやっちゃいます? 世界を救うRTA!」
うわー!思わず思ってもないこと言っちゃった!
ぶっちゃけ怖いよ! 私を騙そうとしてた人なんか信じられるか!
「凄いですわ、流石私の見込んだ勇者心が広すぎてまさに女神」
「·····聖女より聖女してる」
「どういう意味ですのそれ」
腕を組んでアシュラを睨みつけるセイラ。
「つーわけで、新勇者パーティー結成! さぁ、最初の災厄を狩りに行きますわよ!!」
こうして私はぶっ飛んだ聖女とちょっと怖い盗賊と世界を救う旅にでるのでした。
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