聖女が強奪した聖剣は新たな勇者を生み出しました

匿名3972

プロローグ 聖女セイラの憂鬱

「はぁー、最悪ですわ」


今日は、勇者の旅立ちの日。

本来ならめでたいこの日に私はため息をついている。


「ちょっと、まだ嘆いてるの? いい加減認めてあげたら?」


「嫌ですわ!!! どーして!私が勇者になれなかったのに、あの異世界人が勇者になってるんですの!!」


昔から私は勇者に憧れていた。

この世界を災厄から救うただ一人の救世主。


かつて、人類を滅亡させようとした魔王ヘリオスが作り出し世界各地に顕現した七つの災厄。

初代勇者が封印したはずだったが、数百年前封印が解け再び災厄がこの地を襲っているのだ。


倒せるのは勇者が使った聖剣。

その剣は次の勇者にふさわしい人が現れるまで抜けないように

女神アルクェイドが選定の石に刺し保管していた。

封印が解けてからは、その選定の石は大聖堂に女神から返還され次の勇者を待ち望んでいた。


その剣は私が抜くはずだった、だかしかし剣は私を認めず、異世界から来た鼻につく男を認めた。


「小さな頃から努力して最強とまで呼ばれた私がなぜ、あの剣を手にすることが出来なかったんですの!!! ぶっちゃけ雅人より私の方がつえーですわ!!」


「·····多分その性格でしょうねセイラ」


「酷いですわデオン! 私の親友でしょう!? もっと甘い慰めを掛けなさいな!」


「あーはいはい。でもねぇセイラ、雅人くんをそんなに嫌いにならないであげてよ。貴方のことが好きな彼が可哀想よ」


「だから尚更嫌い何ですわよ!! あの無神経でガサツな男が私のプライドを踏みにじりやがって!! つーかなんで国王は私を聖女にしたんですの!? なんであの男に使えなきゃいけないんですの!!! まじ死ねですわデブジジイ!」


私が聖女に任命された時国王は私に『そなたの回復魔法は素晴らしい、勇者が危機に陥った時は全てを捧げ彼を助けなさい』と言いやがった。


「私の回復魔法や強化魔法は私が戦う為に習得したものなんですわ!! 誰があんなやつをサポートする為に習得するもんですか!!! つーか、勇者なら回復魔法くらい使えなさいよ!!」


「ははは·····まぁ、荒れるのも分かるよ? でも我慢しなきゃ世界を救えるのは私達だけなんだから」


「そう言われても、文句はしこたまあるんだからこの際言わせて貰いますわ!まず聖女の格好がおかしいですわ! なんなんですの無駄に弾力のいいでかい帽子! 意味あるんですのこの大きさ!」

 

「あーはいはい、好きに愚痴りなさい、もうとりあえず全部聞いてあげるから」


デオンはそう言って呆れながら苦笑いした。


「おーい! セイラにデオン! 式典始まるぞー! どうしたマイエンジェルセイラたん! 不機嫌そうな顔して」


無神経に入って来やがりましたわねこの男·····

吉田雅人·····てめーなにがマイエンジェルですのよ。

気色悪ぃーですわ。


「あっ、わかった! 不安なんだな!そりゃそうだ世界を救う命懸けの旅に出るんだもんな! 大丈夫俺の聖剣でお前を守ってやるから!」


「·····何抜かしてんですの」


なんの努力もしなかったラッキーマンがなんであの剣を握れるんですのよ。

なんで·····なんで!!


なんで·····私をそんなに惨めにさせるんですの?


その瞬間堪忍袋の緒がぶちりと切れた。


「私旅に出ませんわ」


「「えっ?」」


すくっと立上り、私は何も言わず外に出た。

そして廊下を走り、式典準備をしている広場に向かった。


「あっ!セイラ様!·····って! どこいくんですか!?」


お城の近衛兵を無視して私は選定の石が置いてある台車を探した。


「あった、あれですわ!」


それを見つけて、私は台車を転がして城を出た。


「この剣がなけりゃあいつは旅に出れねーですわああああ!!」


思えばあの時の私はどうかしていたのでしょう。

だって、普通世界の存亡と自分のプライドを天秤にかけることなんてしないですわ。

だけど、その私のわがままは奇跡を起こした。


「ぎゃー! どいて下さいましー!!」


「「ぎゃーー!!!」」


聖剣が刺さった石を運んでいた私は坂ですっころんで、男女の2人組にぶつかってしまった。


「えっと、大丈夫ですか?」


「えぇっ、貴方それ持ってなんともないんですの!?」


「はい」


そして、新たな勇者を見つけてしまったのですわ。


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