第028話 オモテナシ
「本当に私がこの部屋を使わせてもらっても良いのか?」
部屋に案内された幸子…いや幸ちゃんはそう尋ねる。
「ステラも良いって言ってるし、それに祖母も幸ちゃんに使ってもらう方が喜ぶよ、なぁステラ」
「うん、私、いつもリビングで寛いでるから部屋つかわないしいいよ」
最初はステラに割り当てていた祖母の部屋であるが、ステラが全く使ってないので、幸ちゃんに使ってもらう事になった。
しかし、ステラもリビングのソファーを巣にし始めているのはどうにかしないとな…
ちなみに先程から幸子の事を幸ちゃんと呼んでいるのは、祖母が幸ちゃんの事をそう読んでいたので、これから一緒に住む僕たちにもそう呼んで貰いそうだ。
幸ちゃんは割り当てられた祖母の部屋の中に進み、目を閉じて深呼吸をする。
「あぁ… 静香だ… 静香の香りがまだ残っている… ここで静香は生活しておったのだな…」
感慨にふける幸ちゃんの姿を見ていると、僕とステラはこの部屋を幸ちゃんに使ってもらう事が良かったと思う。
「じゃあ、この部屋に荷物を置いて、荷物整理でもしておいてよ、何かあったら気軽に声を駆けてくれていいから」
暫く一人で感慨にふける時間が必要だと思ったので、僕たちはそう伝えて部屋を立ち去ろうとする。
「あっ! ちょっと待ってくれぬか?」
「ん? どうしたの?」
部屋を立ち去ろうとすると幸ちゃんに呼び止められる。
「部屋を使うにあたり、一度掃除をしておきたいのだが… 何か掃除道具を貸して頂けないか?」
ステラも使ってないし、僕も最初に来た時以外は掃除をしていないので、部屋の汚れが気になるのであろう。
「分かった、掃除機を持って来ればいいかな?」
「んー 出来れば、雑巾とバケツ…家用の洗剤もあればありがたいのだが…」
そう言って幸ちゃんは窓枠を指で拭って、埃の積もり具合を確かめている。幸ちゃんはステラと変わらない背丈だけど、なんだか姑みたいな事をするな…
「分かった、最初来た時に買い込んだ雑巾と洗剤があると思うから持ってくるよ」
僕はそう言うと一階の物置きにしまい込んだ雑巾と洗剤を取り出し、バケツに水を汲んで幸ちゃんの部屋へと戻る。
すると、幸ちゃんが祖母の遺品の一つの写真立ての写真をじっと見つめていた。
「言われたものを持って来たよ、それと何か気になる者でもあったのかい?」
僕が声を掛けると幸ちゃんは僕に振り向く。
「あぁ、静香が家を出る前に四条家の家で撮った写真があったのでな、懐かしく思いながら見ていたのだ…」
「へぇ~ そうなんだ、僕は最初来た時に祖父の部屋しかちゃんと見てなかったけど、そんな物があったんだ…」
「八雲殿も見てみるか?」
そう言って幸ちゃんは写真立てを差し出す。
「じゃあ、見せてもらうよ」
受け取った古ぼけた写真を見てみると、豪華な日本庭園のある、これまた凄い日本家屋の軒先で、微笑む若い女性の姿があった。
「これが…祖母の若いころの写真なのか…」
「あぁ、それは恐らく高校に受かったころの写真だな、静香の後ろの襖が僅かに空いた奥に、私の顔を映っておるだろ? 静香に一緒の写真を撮りたいとお願いされてな、しかし、堂々と映ることは出来ないので、そうして隙間から顔を覗かせていたのだ」
幸ちゃんに言われて写真をマジマジと見てみると、確かに襖の奥に幸ちゃんと分かる顔が覗いているのが見えた。
僕は写真から視線を上げて、すぐそこにいる幸ちゃんの顔を確認し、もう一度写真の中の幸ちゃんの顔を確認すると、どう見ても同一人物である。
「ほ、本当に祖母の若い時の写真に幸ちゃんが映っているんだ…」
祖母が可愛い高校生の事や、ビックリするような家に住んで居た事よりも、幸ちゃんがいる事の方が一番驚く。
「あぁ…その写真を撮った当時もな、心霊写真という事で処分しようという話がでたのだが、静香が必死に止めてくれて自分の物にしてしまったのだ」
「へぇ…そうなんだ…」
実際、座敷童が映っているのだから心霊写真には違いないんだよな…
「まぁ、静香はその後、神社にお払いに連れていかれたそうだがな…」
「ハハハ…」
僕は苦笑いで答える。
「じゃあ、幸ちゃんは掃除してて、僕は自分の用事を済ませた後、夕食を作るから出来たら呼びに来るよ」
「あい分かった」
そうして僕は部屋を出て、自分の仕事をしたり、新しい同居人の幸ちゃんが増えた事で、とりあえず必要そうな日用品をネットで買いそろえる事にした。
そして、夕食の時間になって来たので、一階に降りて、夕食の準備に取り掛かる。
「あれ? パックのご飯がもう二つしかないや…これでは一人分足りないな…また買出しに行かないと…」
「えぇ~そうなの!? 私、インスタントのお味噌汁開けちゃったよ」
夕食の準備を手伝ってくれていたステラが声を上げる。
「あぁ、もう開けちゃったんだ…それは仕方ないね… ご飯は無いけど…今日は主食はカップめんにするか…」
「さっちゃんを歓迎しなくちゃいけないのに、カップ麺とお味噌汁だけでいいの?」
「そうだね…それだけでは足りないね…じゃあ、冷凍の総菜も幾つかチンするか」
「私のとった魚も焼いてあげよう!」
そう言う訳で、ステラのとってくれた豆アジの塩焼きをオーブントースターで焼き、冷凍庫から唐揚げとピザを電子レンジでチンする。
「よし! これで夕食の準備は大丈夫だね、幸ちゃんを呼びに行くか」
僕は二階に上がり幸ちゃんのいる祖母の部屋へと向かう。
「幸ちゃん、夕食ができたよ」
「あぁ、八雲殿か、もうそんな時間なのか」
部屋の中から幸ちゃんの声がして扉が開く。
「私も今、掃除が終わった所だ。どうだ?掃除の終わった部屋は?」
そう言って幸ちゃんが部屋の中を見せてくれる。
「えっ!?」
僕は一瞬、声が詰まる。部屋の中は掃除をしただけで特に代わった様子はないのだが、何て言ったらいいか… 一言で言えば空気が違う。まるで扉を上げたら神社の境内に入ったような言葉では言い表せられない雰囲気があるのだ。
「やはり、八雲殿もある程度は分かるようだな」
僕の反応を見て幸ちゃんが一言もらす。
「一体、どういう事?」
「この部屋を掃除しながら、座敷童である私の住み家として活性化させたのだ。そこらの部屋とはちがうであろう?」
幸ちゃんは少し自慢げな顔で尋ねてくる。
「あぁ…何て言うか…祖母の部屋が突然神域になったみたいだ…」
「フフフ、そうかそこまで言ってくれるか… まぁ、今回は元々の持ち主が私と波長の会う静香の部屋であったからのぅ… より強力に効果が出ておるのだ」
幸ちゃんは見た目には着物姿の女の子にしか見えないけど、やはり人間ではない座敷童という事を思い知らされる。
「そうなんだ…じゃあ、この家全体もその内そんな感じになっていくの?」
「どうだろうな…なるかも知れぬしならぬかも知れぬ…まぁ、なったところで八雲殿も慣れていくだろう…それよりも夕食だったな、冷めぬうちに頂くとするか…」
幸ちゃんはサラリととんでもない事を言うが、そんな事は問題ないように流して、一階へと降りていく。
「あっ! さっちゃんと八雲が降りてきた! さっちゃん! 今日は御馳走だよっ!」
既にリビングで夕食を前に待機しているステラが、こちらに手を振ってくる。
「御馳走?」
幸ちゃんはテーブルに並べられたカップ麺や味噌汁、冷凍の唐揚げやピザを見て、ピクリと眉を動かす。
幸ちゃんはここに来る前に富豪の旧家にいたのだから、今日の和洋中入り混じった夕食が変に見えるのかな…
「突然に舞い込んだ私にかような持て成しをして頂き、誠に有難うございます」
一瞬、ピクリと眉を動かしたものの、幸ちゃんは澄ました顔でお礼を述べてくる。
「いやいや…大した持て成しは出来てないけど…」
「じゃあ、早速食べようっ!」
ステラが夕食を始める事を催促する。
「あぁ、そうだね、じゃあいただきます!」
「「いただきます!」」
そうして僕たちは和洋中揃った夕食を撮り始めた…
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