第024話 夏の暑さ
父の電話以降、酷く落ち込み、一度実家に帰るモチベーションを無くして僕であるが、その後、嬉しい事が一つあった。
それは僕がアメリカで使っていたメインPCやその他の荷物がようやく届いたのである。他の荷物は母方の祖父母でも梱包できるが、メインPCとなると、取り外し方や梱包方法が分からなかったので、祖父母とスティーブの両方に連絡して、僕の代わりに祖父母の家にスティーブが行って僕のPCを梱包して送ってくれたのである。
「ようやく、僕のメインPCが届いたよ、今までのノートPCではかなりパワー不足だったから、困っていたんだよな~」
僕はホクホク顔でメインPCを設置していき、その横でステラが僕の作業を眺めていた。
「ねぇねぇ、八雲、それ、何やってるの?」
「あぁ、これは僕のメインのPCだよ、今までのノートPCと比べて数倍の処理速度があるからこれで仕事も捗るよ」
そう言いながら、PCの配線を繋いでいく。
「フーン…そうなんだ…で、今までのノートPCはどうするの?」
ステラが脇に置かれたノートPCを眺めながら聞いてくる。
「うーん、どうしようかな… アメリカと違ってこちらではPCを持ち歩いて何かするようなことは無いからね…」
「じゃあ八雲が使わないのなら、私に使わせてくれない?」
ステラが新しいおもちゃでも見つけたようなキラキラした瞳で言ってくる。
「別に…構わないけど、ステラのゲーム機でネットも出来るから、別にノートPCはいらないんじゃないの?」
貧乏性なので、別にあまり使わないと言っても、上げるとなると少し抵抗感が出てくる。
「アニメ見る時にこの画面は小さいし、なによりノートPCとゲーム機の二台があれば、ゲームしながらアニメが見れる」
なるほど、納得できる理由であるが… 発想が完全にオタクの考えだな…ステラは順調にオタクの道を歩んでいる様だ… いいのかな?歩かせて…
そんな事を考えつつも、僕の目の前では、餌を目の前に待てをされている子犬のような目のステラがいるので、拒絶することは出来ない。
「分かった…いいよ、ステラが使っても…」
「わーいわーいっ! 私のPCだぁ!」
ステラは早速ノートPCを手に取って黄色い喜びの声を上げる。
「でも、大事に使わないとダメだよっ! 特に飲み物を近くに置いて倒してしまったら壊れちゃうからね… 壊しても新しい物を買う事は出来ないよ」
「うん、分かった! 大切にする!」
そう言ってステラはぎゅっとノートPCを胸に抱き締める。
「あっ、でもそのPCには僕の仕事のデータが残っているから、私のは、それをこちらのPCに移行させてからになるよ」
「えぇ~ そうなの~」
「うん、仕事をしないとご飯を食べていけないからね」
「分かった…」
そう言うとステラは抱き締めていたノートPCを僕に差し出す。まぁ本当は仕事のデータといってもクラウド上に保存しているから、移行作業をする必要は殆どないんだけど、ステラが誤った操作をしてそのデータにアクセスしたら大変だから、その辺りを操作できないように削除するだけだけどね…
再びステラが待てをする子犬のような目をするので、メインPCの設置作業は一度止めて、先にステラにノートPCが渡せるように設定していく。
「はい、これでステラが使っても大丈夫だよ」
「わーい! ありがとう~八雲~ 大事にするからっ!」
ステラは再びノートPCを大事そうに胸に抱き締めた。
そんな感じで僕もステラもPCの事で喜んでいたのだが、数日後にはそんな喜びも吹き飛ぶような事態が発生していた…
「暑い…」
「暑いね…」
気候が本格的な夏の暑さになってきて、家の中がうだるような暑さになってきている。特に僕の部屋、パワフルなPCを使っているのでその排気の熱量がとんでもなく、窓を開けたくても潮風がPCに悪い景況を及ぼすので窓を開けられない状況だ。しかも一階からの熱気が上がってくるので二階には温度の層が出来るぐらいに熱気が溜まる。
何故、ここまでの暑さに苦しんでいるのかと言うと、元々設置してあったクーラー全てが、故障していたのである。そして修理を依頼したのであるが、夏も本番に入り始めてきた為、他のお客さんの仕事が多いので、中々修理の順番が回ってこない状況であるのだ。
今は家電量販店で購入してきた扇風機で何とかしのいでいるが、それでも汗が滝のように流れるこの暑さではまともに動く事ができない。
「今までクーラーが当たり前の生活をしてきたけど… クーラーがない生活がこんなに厳しいとは思わなかったよ…」
「私も… この暑さで、今のジョージのワイシャツだけでも暑いのに、前のドレスを着ていたら死んじゃうよ…」
ステラがフローリングの床に寝そべって、床の冷たさで体を冷やしながらそう述べる。
幽霊が死んだらどうなるんだろ… あぁ…もう暑くてどうでもいいや…
その時、家の呼び鈴が鳴る。
「ん? 誰だろ? お隣の若本さんかな?」
お隣の若本さんとは、あの挨拶以降、良く出会うようになり、会うたび挨拶して世間話を出来るような仲になった。
「八雲様のお宅ですか? 宅急便でーす」
「宅急便? なんだろ? 最近はネットで買い物をしてないし、実家から何か送ってきたのかな? はーい、今行きまーす!」
僕は配達員の人に返事をして、扇風機の前から後ろ髪を引かれる思いで、玄関へと向かう。
「ジャングルからお届け物でーす」
「…ジャングル?」
僕はネット通販していないはずなのに…どうして…
リビングの方を振り返ると、餌の準備に聞き耳を立てる猫の様に、ステラが床から頭だけ上げて聞き耳を立てている。
しまった… ステラにノートPCを渡す時に、ファイルクラウドや、通話ソフトは停止していたが、ジャングルでのネット通販の設定解除を忘れて、そのままにしていたのだ。
ステラが勝手に注文したとはいえ、受け取り拒否をする事は出来ず、サインを書いて荷物を受け取る。
そして、ジャングルの箱を抱えてリビングに戻ると、ステラが這いずりゾンビのように床を這いずりながら僕の所へやってくる。
「ステラ…勝手にネットで購入したらダメじゃないか…」
「ごめんなさい…でも、この暑さを我慢できないから、涼しくなる服を注文したの…」
謝罪の言葉をステラは述べるが、床に這いつくばりながらでは、とても反省しているようには見えない。
というかそれよりも、涼しくなる服を注文したという事に、僕は途轍もなく嫌な予感を感じる。僕はバリバリと急いでジャングルの箱を開封して中身の品を確かめる。
「くっ!!」
中身を確認した僕は、悔恨の声を漏らしながら、床に両手をついて項垂れる。
「わーい、私の注文した水着が届いた~」
ステラが普通の水着を注文していたのなら、まだなんとかなったが、紺色のスクール水着を注文していたのである。
電話で父に変なものを買う事に釘を刺されていたというのに、その後でスクール水着を購入した事を知られたらなんと弁明すればいいんだろう…
「はい、これ八雲の分、これを着たら八雲も涼しくなるよ」
そう言ってステラは僕の分の男子用スクール水着を渡してくれたが、僕は様々な感情が入り混じってなんと答えればいいのか分からなかった…
その後、僕が呆然と購入明細を眺めていると、ステラがお風呂場でスクール水着に着替えてくる。
「やっぱりこれ、涼しくなるね、スティーブの言った通りだよっ!」
「…スティーブの…言った通り…?」
僕はその言葉にステラのノートPCを確認する。すると普段使っていないチャットソフトにステラとスティーブのチャット履歴があり、そこでステラにスクール水着を勧めるスティーブのログがあった…
やってくれたじゃないか…スティーブ…
「ねぇ、八雲もきがえないの? ホントに涼しいよ」
スティーブのログに歯ぎしりをする僕にステラがスクール水着を勧めてくる。
「…本当に涼しいの?」
「うん、涼しいよ!」
笑顔で答えるステラに、僕は騙されたと思って僕もスクール水着に着替える。
「あ…確かにかなりマシになるね… ズボンを履かない分、風が直接足に当たるからかなり涼しく感じる…」
「でしょ? これでクーラーの修理が来るまでの間はしのげるよ」
その後、僕とステラは暫くの間、二人スクール水着で過ごした。
だが、それが段々当たり前の状況になっていき、クーラーの修理の人が来た時にそのままの恰好で対応して、酷く恥を掻く事になったのであった…
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