第023話 父の電話と誤解

 ここの生活環境が整って十日が経った。僕の方は在宅ワークの仕事が始まって、自室として使っている祖父の部屋に引き籠ってPCで仕事をしている。その間ステラは、リビングでゲームをしたりアニメをみたりして過ごしている。ちなみにステラはエヴァを見終えて、次にまどマギも見終えて、ガンダムシリーズを見始めている。


 このアニメを進めたのはスティーブであるが、ステラは気に入って見ている様だ。うーん、順調にスティーブと気の合いそうなアニメオタクへの道に進んでいる様にしか見えない… 大丈夫なのであろうか…


 こんな状況であるが、ステラを完全に放置している訳でもなく、食事の度に短い会話を交わしたり、仕事が終わって夕食後はたっぷりとステラとの時間を取って、祖父の事を聞いたり一緒にゲームしたりと二人の共同性積活を楽しんでいる。


 ステラの話から祖父とどんな生活をしていたのかと言うと、ステラは祖父から色々な話を聞かせてもらっていたようだ。祖父のイギリス時代の話、初めて日本に訪れた時の話、祖母とあった時の話、その他結婚したり、父が生まれたり、その父の学生時代は熱心に勉強していた等と日がな一日、祖父の昔話を聞いていたそうだ。


 本来であれば、僕や父さんと一緒に暮らして、僕や妹が祖父の相手をしてその話を聞いてあげるべきだったのだろうが、それをステラに代わってもらっていたのだ。


 ステラには感謝しかない。



 そんなある日、僕のスマホが着信を告げた。


「ん? 誰からだ?」


 僕はスマホの画面を見てみると、父からの着信である事が分かる。


「しまったっ! 色々忙しかったから家に帰るのも連絡するのも忘れてたっ!」


 この時になって、始めにこの家に住むと連絡した時から、まったく連絡してなかった事に気が付く。


 僕はジワリと湧いてきた手のひらの汗を服で拭ってから、父からの着信をとる。


「八雲か?」


 僕が言葉を発する前に父からの確認の声がする。


「うん! 僕だよ父さん! 連絡が遅れてごめんねっ! 家の片づけが住んだと思ったら、在宅ワークの仕事が始まっちゃって連絡するのが遅れちゃったんだっ! いや~ホント忙しかったんだよ父さん、ごめんごめんッ!」


 僕は連絡を忘れていた事を誤魔化す為、早口で矢継ぎ早にまくし立てて説明する。


「あぁ、そうか仕事も始まっておったのか、半年も誰も住まずに放置されて、その上、悪ガキに荒らされた家を片づけるのも大変だったろうが、その仕事が入ったのなら忙しく当然だな。済まないな八雲、お前一人に任せてしまって」


 父は今まで連絡しなかった事に怒りもせず、逆に僕が忙しかった事を労ってくれる。


「まぁ、僕も最初は大変だと思っていたけど、思っていたよりも早く電気やガス、水道などのインフラの再開もかなり早かったし、そこはかなり助かったね」


「そうか、電気もガスも水道もない生活に父さんも心配していたんだが、そんなに早く再開したのか?」


「うん、電話をかけて次の日には再開してくれたよ、僕もあまりの速さに吃驚したぐらいだよ。それにネットも丁度近くで工事のキャンセルがあったらしくて、水道とガスが再開した日にネットも出来るようになったんだよ」


 本当にネットが繋がってくれて助かった。そうでなければスマホ経由でネットを使う事になり、パケット代が大変な事になりそうだったからな… まぁ、いざとなれば何処かのネットカフェでネットをすればいいんだけど、ステラのいる状況ではあまりそう言う事もできない。


「ほう、もうネットも繋がったのか、それは便利になったな。今の時代ネットなしには生きていけないからな、その他のインフラに劣らず重要なインフラだ」


「うん、そうだね。ここら辺り売っていないものもネットで買えたから重宝しているよ」


 実際、本当に役に立った。この田舎では売っていないもの、探すのに苦労する物、店頭で自分自身では買いにくい物も全て買う事ができた。


「それでな、今日はその事で話があってな…」


「ん? なんだい父さん」


「お前が遠慮せず、私のカードで買い物をしている事は良いのだが…」


 その言葉で、父が送ってくれたカードの番号で買い物をしている事と、そのお礼を言うのを忘れていた事を思い出す。


「あっ父さんごめんねっ! お礼を言うのを忘れてたよっ! 父さんのお陰で、必要なものを買いそろえる事ができたよっ!」


 僕は冷や汗をかきながら遅れて礼を述べる。 


「うんうん、別に礼はいらないよ、八雲、私の代わりに祖父の家を管理してもらっているのだからな…ただな…」


「…なに?」


 何かあるような言い方をする父に問いかける。


「うん… 明細を見たらな… 女の子用の服とか…パンツとか… 化粧品まで購入した経歴が残っているのだが…」


「あっ」


 僕はそこで、ステラの為の服や下着、実験の為の化粧品を父のカードを使ってネットで購入していた事に気が付き、一気に血の気が引いていく。


「い、いや…そ、その… それは…」


「別に怒るつもりは無いんだぞ、八雲、うん、怒るつもりは無い」


 父は穏やかな口調で述べる。


「八雲、お前だって、健康的な男児、女の子に興味があるのも分かるし、一人暮らしをして解放された気分になるのも分かる…うん、分かるぞ」


「いや、ちょっとっ!…」


 父が変な方向へ誤解しているのが分かる。


「父さんだって若い時には、熱心に勉強をする振りをして、関数のグラフでおっぱいが表現できないかと打ち込んだものだ… 特に乳首の再現や、垂れないように張りのある関数をつくるのは大変だったぞ」


 ステラに祖父が父の学生時代に熱心に勉強していたと聞いていたが、まさかこんな裏話があったとは… できれば一生聞きたくはなかった…


「だがな、八雲よ…お前も児童ポルノ法という言葉しっているだろう?」


 父に一番されたくない勘違いをされている様だ…


「だ、だから、違うんだって…父さん…」


「自分が小さい女の子の女装をする分には構わない…お前は男としては小柄な方だったからな…似合うと思うぞ… だが、実際に他の女の子に手を出すような事はしちゃいけないよ」


 変な性癖に理解のある親がこんなにも厄介だとは思いもしなかった… しかも僕に小さな女の子への女装癖があると思われているのか…


「じゃあ、仕事が落ち着いて、時間ができたら一度実家に顔を出して欲しい…待っているぞ八雲…」


 そうして父の電話が切れた…


 僕は暫く呆然としていた…一人暮らしを始めて僕が変な性癖を発揮していると父に思われたなんて… きっと父だけではなく母や…もしかしたら妹まで話が伝わるかも知れない…


 僕はどんな顔をして実家に帰ればいいんだよ…


「ねぇねぇ、八雲、そろそろご飯の時間だけど…」


 そんな所にステラが食事の要求を言いに来る。その声に僕はそっとステラを見る。ステラは僕が父に誤解されて購入した服ではなく、未だに祖父のワイシャツを来ている。


「…どうしてステラは僕が買ってあげた服を着ないの…?」


「ん? 八雲に買ってもらった服、ちょっときつくて…だからゆったりとしているジョージのワイシャツを着ているの」


 ステラは自分の着ているワイシャツをつまみながら答える。


「…そうか…」


 きついならまた買い直さないといけない… でも、もうネットで買う事も出来ないし、普通に店に買いに行ってこの辺りの人にも変な誤解をされるのも避けたい…


「じゃあ、しばらくはその恰好でいてくれるかい?」


「うん、いいよっ!」


 ステラは僕の気をしらず、元気に答えた。

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