第018話 ステラの漁と宅急便

 るんちゃんの回収が終わり、リビングやキッチン以外の場所を掃除していると、玄関の扉がノックされ声が響く。


「すみませーん! 宅急便でーす!」


「はーい!」


 僕は掃除の手を止め玄関へと向かう。どうやら、昨日ネットで注文したものが届いたようだ。


 僕は玄関でサインを書いて受け取りを済ませ、届いた箱を持ちながらリビングへと向かう。


「八雲~ 何が届いたの?」


 テラスの方からステラの声がする。あれ?二階の掃除をしていたはずでは…


「えっ? ステラ、テラスで何をしてたの?」


 テラスに目を向けるとステラが2リッターのペットボトルを何本も抱えている。


「お小遣いの為に魚を取る罠を上げてたの、ほら!見てみて八雲ぉ~! お魚とれてるよっ!」


 そう言ってステラが海水が滴るペットボトルを持って家の中に入ろうとする。


「スタップ!!」


 手で制止するポーズを取り急に大声を上げる僕に、ステラが家に入る寸前で固まる。


「そんなの持って家に入ったら海水で家の中が濡れちゃうし汚れちゃうでしょっ!」


「でも、お魚とれたんだよ?」


 そう言ってステラがペットボトルを掲げて見せる。


 ステラの掲げたペットボトルの中には、確かに小さな豆アジが入っているのが見える。どうやらあのペットボトルはステラが自作した魚とりの罠のようだ。


「ちょっと待って!ステラ! 今、移し替える入れ物を持っていくから、それに移し替えてっ!」


 僕は一先ず箱をテーブルの上に置いてキッチンへと向かい、何か入れ物を探す。そこでボウルを見つけたのでそれを持ってステラのいるテラスへと向かう。


「じゃあ、ステラ、この中に魚を入れて」


「分かった!」


 ステラは罠をぱかっと開くと中に入っていた豆アジをボウルの中に入れていく。魚とりの罠は、ペットボトルの注ぎ口側を切り取って、反対向きにして差し込むだけの簡単な罠のようだ。


「しかし、そこそこ取れているね」


「うん、二日ほど上げてなかったから一杯入ってる、普段はこんなに取れない」


 ボウルに十数匹の豆アジが入っている。小さいけどこれだけの量があれば一食また二食分のおかずにはなると思うが、ステラはこれよりもっと少ない量でその日の糧としていたのか…


「じゃあ、これは今日の夕食のおかずにしようか、で、この魚を取った分のお小遣いの100円は今渡せばいいかい?」


「1000円溜まったらプリペイドカードで貰える?」


「プリペイドカード?」


 ステラはあまり常識を知らないがこういう所だけは知っているんだな…


「うん! ゲームの課金に使う」


「あぁ、なるほど」


 そういえば、ステラはこの家から離れられないから、自分で買い物に行くことなんて出来なかったな… しかし、プリペイドカードで課金か…最初に頼まれた祖父はどこで買うものか分からずに困惑したんだろうな…


「とりあえず、魚は冷蔵庫にしまっておくね」


「うん、分かった! それより何が届いたの?」


 お小遣いもあるが、ステラの興味の矛先は荷物に向いている様だ。


「ちょっと待ってね、ステラに関係あるものだから」


 僕は冷蔵庫に魚を入れて、リビングに戻る。


「なになに! 私に関係ある物って!」


 ステラが期待に目を輝かせながら箱を見る。僕はそのステラの見ている前で、テープを剥がして箱を開ける。


「ほら、ステラの服だよ!」


 僕はステラを驚かせるつもりで箱の中から服を取り出してステラの掲げる。


「えっ? 私の?」


 ステラが服を目の前に目を丸くする。


「あっ!」


 その時、僕は威勢よく服を掲げたものの自分の失敗に気が付く。


 ネットの写真を見て、ステラに合いそうな物を選んで買ったのだが、サイズを確認していなかったので、サイズが小さすぎたのだ。恐らく、小学生1・2年の物であろうか…これではいくらステラが小柄で華奢だといっても着る事ができない。


「ごめん…サイズを間違ったみたいだ…」


 箱の中の他の服も確認してみるが、どれも小さすぎるようだ… 今度からちゃんとサイズを見て買わないとダメだな…


「でも、このパンツは大丈夫そうだね」


 パンツはパンツで検索すると女性の高級そうなランジェリーが出てきたので、ステラの見た目年齢である『12歳』を加えて検索して購入したので大丈夫そうだ。


「これ? 私のパンツ? なんか布が少ないね…」


「まぁ…ドロワーズと比べるとそうなるね… でも、今はこれが普通の女の子用の下着だよ」


 ステラがなんだか特殊な下着だと言ってるように聞こえたので、誤解無きよう正確に説明する。確かにドロワーズと比べたら皆そうなる。


「じゃあ、履き替えればいいの?」


 そう言ってステラは仮に履いている祖父のトランクスに手を掛けようとする。


「スァァァタップ!!」


「えっ!? 八雲!? 今度は何!?」


 ステラは僕の大声に驚いて手を止める。


「ステラ…今ここで…履き替えるんじゃなくて…お風呂に入った後で履き替えようね…」


 僕はステラにちゃんと言葉が伝わるように、一音一音丁寧に説明する。


「ん、分かった。お風呂の後で履き替える」


 そう言って、トランクスから手を放すステラの姿に僕はほっと安堵のため息を漏らす。ここらあたりもおいおいに教えていかないとダメだな…


「八雲、まだ他にも箱の中に入っている様だけど、それはなに?」


 ステラは再び箱の中を覗き込む。


「あぁ、これかい? これはステラにちょっと試して欲しい物が入っているんだ」


 そう言って残りの物を箱の中から取り出す。


「えっ!? 何それ… 怖い… もしかして髪の毛…?」


「ははは、これはウィッグ、カツラというものだよ」


 そういって取り出した金髪長髪をカツラをステラに僕自身で被って見せる。 


「八雲も私の様に金色の髪になりたかったの?」


「いやいや、どう使うが見せる為に僕が被って見せただけで、実際にこれを被るのはステラだよ」


 僕が女装したがっている様に聞こえたので、僕はカツラを取ってステラに手渡す。


「私に?」


 ステラは渡されたカツラを首を傾げてキョトンとした目で見る。僕はその間にもう一つのものを箱から取り出す。


「それとこれを使って、ステラのある実験に協力してもらいたいんだよ」


「それは?」


「これは化粧品のファンデーションだね。掃除を終わらせて夕食の後、実験を始めようと思うからその時は頼むよ」


「うん、分かった…」


 ステラは怪訝な顔をしながら答えた。


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