第017話 お小遣いとるんちゃんと亀吉

 次の日の朝、僕が一階に降りるとステラは昨日と同じようにソファーで大の字になって眠っていた。どうやら昨日もあの後ゲームを続けていたようだ。


 本来であれば夜更かししてゲームをする事は止めさせるべきなのだが、ステラの場合は思い残す事がなくなり成仏できるようにする為には好きにさせる方が良いのだろう… しかし、このままでいいのかと思い悩むところはある。


 そんな事を考えながら、僕は朝食の準備をする。キッチン周りの家電が使えるようになったので、コンビニ弁当だけではなく色々な物が準備できるようになった。


 先ずは電子レンジでパックのご飯を温め、ポットでお味噌汁を準備する。後は小分けにされた納豆や漬物を準備して、ご飯の次は焼き魚を電子レンジで温める。



 チンッ!



「ふぇ?」



 ステラが電子レンジの音とお味噌汁の匂いで目を覚ます。


「あっ、ステラ起きたのかい? 朝ごはんだよ、運ぶのを手伝ってもらえるかな?」


「ふわぁ~ うん、分かった」


 ステラは大きな欠伸をした後、とたとたを足音を立ててキッチンのカウンターに朝食を取りに来る。


「じゃあ、このご飯とお味噌汁をはこんでもらえるかい」


「うん!分かった!」


 ステラはご飯とお味噌汁の乗ったお盆を受け取ると、リビングのテーブルへと運ぶ。その間に僕はチンできた焼き魚をお皿に移し替えて、その他の物と一緒にリビングへと運ぶ。


「うわ! 切り身の焼き魚だ! 八雲! 切り身にするの上手だねっ!」


「ははは、僕が切ったんじゃないよ、切っているものを買って来たんだよ」


「えっ!?」


 ステラはビックリした顔で僕を見る。


「えっ? な、何を驚いているの? ステラ…」


「お魚を…買ったの?」


 信じられないといった顔で僕をみる。


「そ、そうだけど…なにか?」


「いくらで…買ったの…?」


「うーん、コンビニで買ったから一人前300円ぐらいかな…」


「300円!?」


 ステラは大きな声を上げて立ち上がる。


「どうしたの!? ステラ! そんな大声を出して!?」


 突然の事態に僕は困惑する。


「お魚を買うなんて勿体ないよ!! 目の前に海があるんだよっ!」


 そう言ってステラは海を指差す。


「そ、そうだね…確かにそうだけど…」


「そうだ!! 八雲! これから私がお魚とるから、その代わりジョージみたいにお小遣い頂戴!!」


「えっ!? おこづかい!?」


 ステラは鼻息を荒くして前のめりになって僕に顔を近づける。


 ステラには最初から定期的にお小遣いを上げるつもりでいた。なぜなら、また盗電のような事をされては困るからである。しかし、ただ上げるというよりも何かお手伝いをした形でお小遣いを上げれば、ステラ自身のモチベーションも上がる事だろう。


「じゃあ、ちゃんと食べられるだけの量が取れたらお小遣いをあげるよ」


「やったぁ~!! じゃあっ」


 そう言って、ステラは今すぐ魚を取りに行こうとする。


「待った! 先ずは朝ごはんを食べてからだよ」


「分かった」


 ステラはソファーに戻ってペタンと座る。


「じゃあ、いただきますっ!」


「はい、いただきます」


「うーん、この焼き魚美味しいぃ~っ!! 私もこんな魚を取らないとっ!」


 そう言って焼き鮭を頬張る。


「…鮭は…ちょっと…いやかなり難しいんじゃないかな?」


 僕はステラの言葉にクスリと笑う。


 その後、食事を終えた後に、僕はステラに今日の予定を話す。


「今日は、残りの掃除していない所を掃除していこうと考えているんだけど、ステラも強力してくれるかい?」


「うん! 分かった! 私も掃除の熟練度をあげて掃除スキルをゲットするよっ!」


「ははは、ゲームみたいな事をいうね…」


 まぁ、ゲームのように繰り返し掃除をすればスキルが上がると思ってくれたら、それもステラのモチベーションになるだろう。


「あっそう言えば、ステラ、前にるんちゃんだっけ? その子を庭に埋めたって言ってたよね? どこに埋めたの?」


 るんちゃんとは、この家の電気が止められた時に、ステラが死んでしまったと思って庭に埋めてしまった掃除ロボットの事だ。


「るんちゃんなら、テラスをおりてすぐの所にある木の下だよ」


 ステラは少し悲しそうな顔でいう。


「そうか…」


 そう言って、僕はテラスに出て、ステラに言われた場所を見てみる。



「あっ」



 確かに木の下にるんちゃんとやらのお墓らしき物があったが、どうやらるんちゃんは箱詰めしなおされて埋葬されたようで、しかも墓穴が浅かったため、箱の一部が地表に露出している。


 僕はテラスから降りて木の下にあるるんちゃんのお墓に向かい、掘り返して見る。箱は流石に風雨に晒されてふにゃふにゃになっていたが、るんちゃん自体は、元から入っていたであろう梱包ビニールに包まれた上で、発泡スチロールにも固定されていたので、中に水は入ってなさそうだ。


「これならまだ動くかも!」


 僕はるんちゃんと呼ばれた掃除ロボットを掴むと家の中に戻る。


「えっ!? るんちゃんを掘り返したの!?」


 るんちゃんを抱える僕にステラが目を丸くする。


「ちょっと待ってね」


 僕はまだ片づけをしていないダイニングの壁際にるんちゃんの充電ステーションを見つけるとるんちゃんを設置する。


「あっ! 充電ランプが点灯した!!」


「えっ!? るんちゃん、生きてるの!?」


 ステラが覗き込んでくる。


「あぁ、生きてるよ」


「よかったぁ~! るんちゃん生きていたんだっ!」


 ステラは目をキラキラさせて喜ぶ。


「あぁ、お腹が空いて動けなかっただけだよ」


 僕にとってはただの掃除ロボットであるが、ステラにとっては昔あったAIBOのようなペットと同じ感覚なんだろうな。


「でも、埋めたのにまた生き返るって、なんだか亀吉みたい」


「亀吉?」


 また新たな名称が出てきたのでステラに尋ねる。


「亀の亀吉だよ」


「なるほど、亀か…」


 僕は二台目の掃除ロボットが埋められているのではないと不安であったが安心する。


「でも…家の中を見て回ったけど…亀なんていなかったけど…もしかして死んじゃったの?」


「うんうん、死んでないよ」


 ステラは首を横に振る。


「一体どういうこと?」


「亀吉は用水路で拾って育ててたんだけど、外に置いてたら凍っちゃって死んだと思ったから埋めて上げたの、そしたら次の春に亀吉が土の中からでてきたの!」


「凍死したと思っていたら…冬眠していただけなのか…それで今亀吉は?」


「放し飼いにしてる」


「どこに?」


 家の中に亀が潜んでいるのではないかと思いステラに尋ねる。


「外に」


「それって庭ってこと?」


 庭なら安心だけど… 


「たまに庭にも来るけど…基本的にはこの辺り一体かな?」


「いや、それは…飼っていると言えるのか?」


「だって、ジョージが水槽で飼ったら、また亀吉が凍っちゃうっていうから、外で自由にしてあげたの」


 なるほど、一度凍らせてしまったから、祖父も扱いに困っていたんだろうな…


「そ、そうか…じゃあ、今度亀を見かけたらステラの教えてあげるよ…」


「うん! 私も亀吉を見つけたら八雲に紹介してあげるね!」


「じゃあ…掃除を始めようか…」


 果たして亀吉は今どこにいるのであろうか…

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