第016話 ステラとカレーライス

「うほーいっ!」


 お風呂場の方からステラの歓声が響く。



「お風呂♪ お風呂♪ あたたかい~お湯~♪ お風呂久しぶりぃ~♪ 最高~ しあわせ~♪」


 ステラには洗濯機の泡を掃除してもらった後、そのままお風呂に入ってもらう事にした。それでステラは半年ぶりのお風呂に喜びの声を上げている訳だ。


 しかし、あの喜びよう… ガスも水道も使えない間、ステラはお風呂に入らずどんな生活をしていたのであろうか… お風呂から上がってきたら聞いてみようと思う。


 冷蔵庫のメンテナンスを終えた僕の方は、今、夕食の準備に取り掛かっている。幸いな事に、電子レンジも冷蔵庫も壊れておらず、ちゃんと清掃をして再利用することが出来る様だ。


 まぁ、電子レンジに関しては、蓋を開ける度にあの腐敗臭がしてきそうでトラウマになりかけているが、使っているうちに慣れるであろう。後、パンを焼くオーブントースターもあったのだが、こちらの方はステラがアルミホイルを敷かずに魚を焼いてしまった為、至る所に焦げ付いた魚の破片が炭化して残っており、あまり高価な物ではないこともあって買い替える事にした。


 今度、フライパンや鍋等を買いに行く時に一緒に買い直してこようと思う。


 そんな事もあったが、今、電子レンジでパックのご飯やレトルトを温めて夕食の準備をしているのである。


 電子レンジを使った夕食の準備は、半年間まともな物を食べる事が出来なかったステラの為に、せめて温かい物を食べさせてあげたいと思ったからだ。



「ふぅ~ いいお湯だった~♪」


 

 お風呂を上がったステラが高揚したほっこりした顔で、リビングにやってくる。



「あぁ、ステラ、お風呂あがったのかい? 久しぶりのお風呂はどうだった?」


「うん! しあわせだった! やっぱり海で体を洗うよりもいいね」


「…今まで海で体を洗っていたのかい?」


「そうだよ、用水路は狭すぎるから、テラスの下の海に入って体を洗っていたの、最近は温かくなってきたからいいけど、最初は凍えそうになった」


 最初の頃っていつ頃だろ… 今は6月だから、半年前というと1月!? よく死ななかったな…


 そんな事を考えながら、ほっこりしているステラを見る。やはり上は普段着代わりに祖父のワイシャツを着ており、下の方は精神衛生上の為、現在は祖父の下着を履いて貰っている。


 ちなみに祖父はどうやらトランクス派だったらしく、小柄なステラが履いているとショートパンツの様に見える。


 どちらにしろ、早くステラの普段着を買ってやらないとな…



「ところでさっきからいい匂いがするけど…もしかして今日の夕食はカレー?」


 ステラが匂いを嗅ぎつけて、目を輝かせてやってくる。


「あぁ、電子レンジが使えるようになったから、温かい物を作ろうと思ってね、レトルトだけど、今日はカレーライスだよ」


「わーい! カレーだぁ! カレーライスだっ!」


 やはりこの辺りの歳の子はカレーライスが大好物のようだ。まぁ、ステラが本当は何歳なのか分からないけど…


「じゃあ、ステラは先に飲み物を持って行って準備してくれるかい?」


「うん! 分かった!」


 ステラは元気よく答えると、飲み物のペットボトルとコップを持ってリビングのテーブルへと向かう。


 悪い子ではない。うん、逆に素直でいい子だ。ただあまり一般常識や家事を知らないだけだ。ちゃんと教えていけば普通に良い子になるはずだ。


 僕はご飯をカレー皿に移し替え、その上からレトルトカレーをかけてスプーンを添えてリビングのテーブルへと運ぶ。



「わーい! カレー! ステラ、カレー大好き! しかもこれ、ホームのカレー屋の中辛でしょ? ステラの好きなのだ!」


「えっ? 匂いで銘柄までわかるの?」


 僕は驚いて目を丸くする。


「うん! たまにジョージと食べ比べしてたから、ちなみにジョージはBSの欧風のが好きだった」


 祖父とステラは結構、楽しい気な生活をしていたんだな… しかし、カレーの食べ比べか…僕も一度やってみたいな…


 ふと気が付くとステラが待てをさせられている犬の様な目で見ている。


「あぁ、早く食べたかったんだね、じゃあ頂きますをしようか!」


「うん! いただきますっ!」


「はい、いただきます!」


 二人でいただきますの挨拶をしてカレーを食べ始める。


「うーんっ! おいしいっ! カレーラーメンもいいけど、カレーはカレーライスで食べるのも美味しいねっ!」


 ステラはもぐもぐしながらご機嫌な声を上げる。


 僕にしてもアメリカに留学していて4年ぶりの日本のカレーになるので、懐かしさもあるのだが、その美味さにも驚く。レトルトのカレーなのに、ここまでの味が出せるとは… さすがホームさんである。


 そんな感じに夕食を済ませると、ステラが大きな欠伸をしてうつらうつらとし始める。


 時間を見るとまだ20時だが、ステラは昨日夜遅くまでゲームをしていて、今日は一杯仕事をしたから疲れがでて眠たくなってきたのであろう。


「ステラ、もう眠るかい?」


「…まだ起きてる…」


 そう言って瞼を擦りながら携帯ゲーム機に手を伸ばす。


「夕食の後片付けは僕がやって、後は部屋で用事をするけど、ステラも早く寝るんだよ、それと寝る時はちゃんと部屋のベッドに眠るように」


「ん…分かった」


 僕は片づけを済ませて、ソファーでゲームをするステラの姿を見ながら二階へと昇る。そして、自室代わりに使っている祖父の部屋へと入り、ノートPCを開く。


「えっと…先ずはステラの着替えとパンツを買わなきゃ」


 風呂上がりに祖父のパンツを履いているステラの姿を見て、改めて下着の必要性を自覚した僕であるが、家から離れる事の出来ないステラの代わりに店舗に女児用パンツを買いに行く勇気は無いので、ネットに購入することにする。


 ネットでも翌日配送してくれるので便利になったものだと思う。


 続いてアメリカ留学中にお世話になっていた母方の祖父母にも連絡をする。僕が祖父の家で生活することになった事を告げると非常に残念そうにしていたが、僕が大学を卒業した時にその覚悟は出来ていたそうだ。


 僕は祖父母に今までの感謝と、急にこちらで暮らす事になった謝罪を述べ、祖父母に尋ねられた母の様子を答えた。


 その後、スティーブにも連絡を取り、こちら側のネット環境が整った事を伝える。本当に日本で暮らすのだなと寂しがられた反面、僕が日本にいる事は悪い事ではない、逆に使えるとも言っていた。一体何の事だろう…


 その後、僕はPCを閉じて眠ろうと考えたが、ある事を思い付き再びPCを立ち上げる。


 そして、ネットショップであるものを購入する。


「よし! 僕の考え通りであれば…品物が届けば…」


 僕は再びPCを閉じて眠りについた。



※連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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