第005話 悪ガキ発見!

 僕はポチポチとスマホを弄りながら、一階へ続く階段を降りていく。



 ガサガサ



 すると、ペットボトルの飲み物や、朝食として食べるつもりだったパンを置いているリビングから、ビニール袋を動かす音が響いてくる。


「ん?」


 僕は何事かと思い、頭を下げて一階のリビングの場所を見てみる。



 サっ!



 その一瞬、狐のしっぽの様な陰がリビングのソファーの僕が飲み物と食べ物を置いていた場所から動くのが見えた。


 僕はスマホのライトをオンにしながら、慌てて階段をかけ降り、食べ物と飲み物が置いてあった場所へと急ぐ。



「あっ!!」



 そして、駆けつけて確認してみると、朝食に食べようと考えていたパンは包装しか残っておらず、飲もうと考えていた飲み物も飲み干されていた。


 狐? いや、狐はペットボトルの蓋を上けて飲み物を飲み干したりなんかしない… でも、金髪の尻尾みたいに見えたのはなんだろう… もしかして、アメリカに留学していた僕がいうのもなんだが、髪の毛を脱色して長髪にしたヤンキーの子供か?


 まぁ、相手が誰であろうと、僕の祖父の大切な家を荒らし、そして、僕の朝食を勝手に食べた悪がきを許しておくことは出来ない!


 僕は尻尾が逃げた方角へと足を進める。


「確か…昔来た時の記憶だと… こちらの方向には洗面所とお風呂、トイレと物置きがあったはずだな…」


 そう思いながらダイニングキッチンの横を抜けて廊下を進んでいくと、左側に二つの扉、右側に一つの扉があり、左側の手前の扉は完全に解放されていて、右側の扉は半開きになっていた。


 どちらに逃げたのか…完全に解放されている左手前の扉か、それとも半開きになっている右側の扉か… それとも完全に閉じられた左奥の扉か…


 僕は逃げるのに精一杯で扉を閉じ切る事が出来なかった右側の部屋の中にいると推察して、息を殺しながらなれない忍び足で右側の扉へと向かう。


 僕は、突然扉を開いて逃げられないように、ガッチリとドアノブを握り締めてから、扉の隙間から、中にスマホのライトを照らす。すると、中は物置部屋の様で、いくつかの戸棚が設置されており、様々な荷物や段ボール箱が納められていた。


 そして、僕は扉の隙間に体を割り込ませるように扉を開きながら、体で出入口を封鎖するように扉を開け放つ。見渡しが良くなってから、再び室内をスマホのライトで照らしていくが、人影は見当たらない…


 しかし、スマホのライトを別な場所に照らした時に、奥の段ボールの陰から、何やら光が漏れ出ている事に気が付く。


 なんだろと思い、部屋の奥に進んで確認してみると、段ボールの奥に毛布が敷かれており、そこにどういう訳か形態ゲーム機が電源が付いたままで置かれていた。しかもそのゲーム機は一時期日本では入手困難であったあのゲーム機だ。


 なんで、このゲーム機がこんなところに…


 そう思った瞬間、後ろで物音が響く。正確には、僕が選ばなかった左手前の方角だ。


 僕は慌てて物置きを出て、左手前の部屋へと飛び込む。するとそこは洗面所兼脱衣所で、奥に風呂場が続いており、その扉が開け放たれている。スマホのライトに照らし出されている洗面所兼脱衣所には、生き物や人の影はない。


 という事は、物音はお風呂場から聞こえてきた事になる。


 僕はお風呂場に進み、そこで見えた動く物陰にスマホのライトを照らす。


 すると、風呂場の窓に上半身を突っ込んで、ライトに照らし出されたためか、青白く映る白いひょろっとした足が、まるで藻掻くハムスターのようにバタついている所が目に飛び込んできた。


 一瞬、その奇妙な光景に唖然としたが、間違いなく、この家を荒らした悪ガキだと思ったので、僕は気を取り直して、その足の下へと駆け寄って、その下半身を抱きかかえる。



「この悪ガキめっ!」


「ひぃっ!」



 そう声をかけて狐の尻尾のような後ろ髪に埋もれながら、悪がきを窓から引きずり降ろすと、短い女の子の悲鳴が聞こえる。


 えっ!? 女の子!?


 僕はその声に驚きながらも、じたばたする悪ガキの顔を確認すると、ただの女の子ではなく、その瞳が青い事に気が付く。


「えっ!? 外国人!?」


 僕は驚いて声を漏らす。


「ひぃっ! 誰!?」


 女の子の方も驚いて声を上げる。外国人の女の子に見えるが、普通に日本語だ。しかも外国訛りはない。


「君こそ誰だ! 僕はこの家の人間だぞ!!」


「えっ!? 私、貴方なんて知らないっ!!」


 そう言って女の子は僕に取り押さえられながら、捕まえられたハムスターのじたばたと手足をバタつかせる。


 元々、悪ガキを捕えたら、警察に連絡するつもりであったが、外国人、その上女の子という事なので、尚更、警察に連絡しなくてはならなくなった。 


 警察に連絡しないと、下手すれば未成年者誘拐の疑いで、僕の方が捕まってしまう…


 そんな事を考えながら、片手で女の子の首に腕を回して逃げられないようにして、もう片方の手でスマホで110番に電話を入れる。


「はい! 警察です! 事件ですか事故ですか!!」


 ワンコールもしないうちに警察がでる。


「事件です!」


「何がありましたか!?」


「家に何処かの子供が侵入して、悪事を働いていましたっ!」


「私、何もしてないもんっ!」


 僕と警察のやり取りに女の子が口を挟んでくる。


「犯人の子供を捕えておられるのですね? では、通報者である貴方の氏名、事件発生場所や発生時刻、その他、事件の詳細をお聞かせください」


 電話口で向こうがそう尋ねてくるので、僕は聞かれた事を、少々矢継ぎ早に説明していく。


「分かりました。では、所轄の者に連絡いたしますので、しばらくそのままでお待ちください」


 そう言って電話が切れて、僕は警察に言いたい事を言い終わったので、気分が落ち着いた僕は、取り押さえている女の子を改めて確認する。


 女の子は金髪碧眼の12歳ぐらいの白人の少女に見えるが、時々、漏らす言葉から、僕の妹と同じで産まれも育ちも日本の子供の様に思えた。


 また、未だに僕に取り押さえられながらもハムスターの様にじたばたと藻掻いているが、その力は女の子で12歳ぐらいという事を差し引いても非力で、手足を見るともやしのように色白くひょろひょろとしている。


 そして、服装についても、ちゃんとした服装をしているのではなく、薄汚れた大人用のぶかぶかのワイシャツを着ているだけに見える。


 もしかして、何処かの家のネグレクトされている子供が逃げ込んできたのであろうか…


 そんな事を考えていると、玄関の方角から声が響く。


「すみませーん! 通報を受けた警察ですが! えっと…ファイン・八雲さんはおられますか?」


 通報を受けた警察が来てくれたようだ。


「はーい! ファイン・八雲です! ここにいます! 今、そちらに向かいますので!」


 僕はそう答えて玄関へと向かった。



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