第003話 祖父の住んでいた家
僕は母から借りた車を走らせ、日本の慣れない下道を走るよりかは高速を走った方が良いと思って高速道路を使う。
途中、サービスエリアで休憩をしたり、食事をしたりしながら、目的地に近い場所で高速を降りる。そして、コンビニで昼食分の飲み物や食べ物を買ってから祖父の住んで居た家へと向かう。
入江の海岸線沿いの道に車を走らせていくと、木材建築の家が立ち並ぶ街並みが見えてくる。その先を進むと灯台が見えてくる。あの灯台の近くに祖父が住んで居た家があるはずだ。
そして近くまで行くとその灯台の側に日本の和風建築ではない、洋館っぽい家が見えてくる。あの洋館っぽい家が祖父の住んで居た家だ。僕は家の表札を確認する。
すると白い木製の柵で囲われた敷地の入口にあるメールボックスに日本語と英語の両方で『ファイン・ジョージ(George Fine)』と書いてあった。間違いなく祖父の家である。そのしたのにも何やら書いてあったが、消したのかよく読み取れない。きっと祖母の名前が書いてあったのだろう。
そして、車から降りて祖父の家を見上げて確認する。一人暮らしをするには大きすぎる家だ。一階の大きな間取りに二階まである。これは祖母と二人暮らしの時でも大きすぎると思う。夫婦二人に子供が二人ぐらいいても十分すぎるぐらいの広さに見える。
そして、柵で囲われた敷地内の庭に目をやると、同じ家をもう一軒立てても余るほどの広さがある。祖父が入院したの半年前で、その間誰も手入れしていないので、雑草が伸びて在れているが、祖父がこの家にいた頃は丁寧に手入れをしていたのか、花壇や植木、そして誰が使っていたか分からないブランコまであった。
祖父がそのブランコを使って遊んでいたとは思えないが、あのブランコに座って前を見渡せば、海が見渡せるので、祖父もそんな使い方をしていたかもしれない。庭の手入れをした後で、ブランコに座って海を見渡せばさぞかし良い気分であったであろう。
いつまでもそんな感傷には浸っていられないので、僕はキーホルダーから、父から預かった祖父の家の鍵を取り出し、玄関へと向かう。
ギィィィィ…
「えっ!?」
鍵を差し込もうとした玄関の扉が開く。鍵がかかっていなかったのだ。僕はゴクリと唾を飲み込み、恐る恐るドアノブに手を伸ばす。
ただ閉め忘れていただけなのか、それとも誰かが盗みに入ったのかは分からないが、僕は用心しながらゆっくりと扉を開いていく。
「誰かいますか~」
もし、泥棒が中にいて鉢合わせしたら怖いので、声をかけながら中に進む。
祖父はイギリス人であるが、祖母が日本人だったので、家の作りは土足ではなく、玄関で靴を脱ぐようになっているが、正直、玄関からリビングへと続く床が汚い。何かが行き来した形跡はあるものの掃除をしていない為か、通り道だけ埃がなく、壁際には埃が溜まっている状態だ。
一応、あまり関わりが無かったが、祖父が大切に使っていた家なので、土足では上がらず、玄関で靴を脱いで、埃が積もっていない床の通り道を歩き出す。
ガサッ! タタタッ! バン!
すると家の奥から何かが逃げ出すような音が響き渡る。
「人? それとも動物!?」
僕はその物音に警戒して、立ち止まり耳を済ませる。そして、じっと周囲の音に警戒するが、最初の物音の後以外に何も聞こえない。ただ聞こえるのは、家の裏側の海の波打つ音だけである。
「もう、何処かに逃げ出したのかな?」
僕はそう思うと、家の奥へと足を踏み出していく。すると玄関から少し進むとリビングの様子が見えて来て、そこで僕の目に驚愕の光景が飛び込んでくる。
「何だよ…これ…」
僕の目に飛び込んできたのは、無茶苦茶になったリビングだ。どう無茶苦茶なのかというと、部屋の一角に屋内なのに何故かバーベキューセットが設置されており、しかも使われた形跡がある。その上、火をつけるのに使っていたのはバーベキュー用に炭ではなく、そこらから拾ってきたような枯れ木や流木であり、その為、バーベキューセットの周りが煤だらけで、おまけに粗相をして天井を焦がした形跡まである。
「誰だよ!! こんな事をしているのは!!」
祖父の大切な家の中でそんな事をしている奴に怒りを覚えた僕は、大股でバーベキューセットの所へ進んでいく。そして近くで確認してみると、バーベキューの網は、油を塗らなかったのか、焦げ付いて炭化した魚の残骸が張り付いていたり、なんだか分からない物が焦げてついた鍋やフライパンが転がっていたりする。
僕はそのフライパンを手に取り、リビングと繋がっているダイニングキッチンに目を向ける。調理道具や調味料をしまっていた戸棚が開け放たれており、よく見れば、周りに袋に入った塩やマヨネーズ、その他の調味料が乱雑に置かれていた。
この様子を見るからに、空き家になっていたこの家に、誰かが出入りしていた事は確かなようだが、それが空き巣などの物取りかというとそうではなく、どうやら、ここで生活していた節がある。
このリビングの状況に僕は止めどない怒りが湧いてくるが、ハッとある事が気になり、背筋に悪寒が走る。
「もしかして、祖父の部屋も同じように荒らされているのか?」
僕は手に持っていたフライパンを投げ出し、二階にある祖父の部屋に行くためにリビングの端にある階段へ向かい駆け上がる。
「もし、祖父の大事な遺品が盗まれていたり、壊されていたらっ!!」
二階に上がって奥にある祖父の部屋の前に駆けつけ、そして勢いよくその扉を開いた。
「えっ!?」
扉を開いた中の光景に予想とは良い意味で全く異なる景色に、僕は驚いて呆然とする。
一回のリビング部分はあれほど荒らされていたのに、鍵の掛かっていなかった祖父の部屋は全く荒らされていなかったのである。それどころか、まるで先程まで祖父がいたかのように綺麗に整えられていたのである。
僕はまるで先程まで、祖父が生存して使っていたかのような部屋の中に入り、部屋の中をチェックしていく。先程の一階の子供たちだけがキャンプした後、そのまま放置したようなリビングとは違って、綺麗に整えられた祖父の部屋を見て回る。
本棚には英語や日本語で掛かれた書物が、また、その書斎デスクの上には、写真立てが飾られており、その中の写真は結婚した後にに撮影したと思われる、若い姿の祖父と祖母の写真が納められていた。
そして、そこから視線を上げると壁には、他の写真も飾られており、生まれた時の僕を含めて家族の集合写真が飾られてあった。
僕は他にも両親の若いころの写真が見たくなって、先程の本棚の中からアルバムを探し始める。
アルバムを見ていくと、祖父母が結婚した所から始まり、父が生まれ、大きくなり母と結婚して、この家を巣立ちまた祖父母二人で暮らす写真が納められていた。まるで祖父の歴史を綴ったアルバムの様である。
そして、年代はようやく僕が産まれた年に差し掛かろうとしていて、そのアルバムに手を伸ばした時、部屋が薄暗くなり始め、日の光が茜色になりかけている事に気が付く。
「えっ!?」
窓の外に目を向けると、夕日が水平線に差し掛かり沈もうとしていた。
「しまった! アルバムに見居ちゃって、時間が立つのを忘れてた!!」
スマホを出して時間を確認すると既に午後六時を回っている。マズい、まだ宿泊する場所を決めていないので、こんな時間になったら引き受けてくれる場所が無いかもしれない!
僕はすぐさまスマホで近くの宿泊施設を検索して、電話を掛けてみる。
「すみません、予約をしていないのですが、これから向かって泊めてもらう事はできますか?」
相手が出るや否や、慌てて尋ねる。
「大丈夫ですよ」
向こうから了承の返事が返って来て、僕は胸を撫でおろして安堵する。その後、名前や夕食の有無などを告げて、スマホを切り、再び祖父の部屋を見回す。
祖父の部屋は先程の茜色から紅色に変わり、どんどん暗くなっていく。
「真っ暗になる前に、家を出るか」
僕はそう言うと玄関のある一階に降りて、靴を履き、家の外に出る。
「一応、鍵を掛けておくか… そうすれば、誰か分からないけど家の中に入らないだろう」
そう言って玄関の鍵を掛け、ちゃんと閉まっているかどうか、ドアノブを引いて確かめる。うん、ちゃんと閉まる。
その後、僕は車に乗り込み、予約した宿をナビに設定する。そして宿に向けて車を走らせた時に、バックミラーに一瞬、狐の尻尾のような物が、家の敷地の繁みに動くのが見えた。
「この辺りは狐が出るのか…やはり田舎だな…」
そして、宿に到着して食事を終え、一段落着いたところで父に電話を入れる。
「あっ、父さん?」
「八雲か、お疲れ様、爺さんの家はどうだった?」
そう聞かれた僕はリビングの様子を父に説明する。
「なるほど… どこかの悪ガキが秘密基地にしていたのか…しかも家の中でバーベキューをしているとなると… 売らずに更地にした方が良いかもしれんな… それで爺さんの遺品の方はどうなんだ?」
「うん、今の所、家族の写真を閉じたアルバムがあったよ」
「そうか…その他には?」
「まだ、手を付けてないね、明日、本格的に調べようと思う」
「分かった…無理はするなよ」
父への連絡を終えた僕はそのままスマホで近くにホームセンターが無いか調べる。遺品を調べるにしても他の場所は掃除が必要だと思うから、掃除用具の買出しと、時間が掛かった場合の事や、暗い場所を調べる為のライトが必要だと思ったからだ。
「よし! 明日はホームセンターで買出ししてから祖父の家に向かおう!」
そう決めた後、長時間の運転の為に疲れていたが、すぐに眠りに着く事にしたのであった。
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