第19話 それから

彼の家の仏壇にはレモンケーキが備えられている。

家の慣習のようなものだ。


昭和30年代から40年代にかけてレモンケーキは列島を包み込んだ。

そして菓子として強い存在感を放った。


しかしレモンケーキが主役になることなどなかった。

いつでもどんな飲み物にでも合うお菓子だった。

飲み物がなくてもよかった。


愛らしいレモンのフォルムと、白く甘い見た目。

そして爽やかな香りと芳醇な深み。

驚くほど柔らかいものもあれば、パンかと見間違う重さのものもある。


時代は変わり、人は変わる。

レモンケーキはあまり変わらないようだ。

2010年代また列島はレモンケーキを思い出した。

列島と呼称すると大袈裟かもしれない。


それでもレモンケーキは残り続けた。


そうそう、広島で撮った写真の裏にはこんなことが書いてあった。


レモンケーキを作ってみるといい。

ホームパーティーにもおすすめだ。

ただ二人で食べた方が美味しい。

夏は暑くて食べる気がしないですが、涼しい部屋で花火でも観終わった後に紅茶とぜひ。

最後に胃袋に入れておきたかった。

ただ最後に口にしたのは君だった。

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レモンケーキ あおやま。 @aoyama_st

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