第18話 遺書

『レモンケーキとお飲み物と一緒にお読みください。できれば紅茶で』

なんとも文学的すぎる。

これは手紙だ。

ただ世間では遺書と呼ぶだろう。

彼女はこれを手紙として受け取ってくれよう。

だって遺書でこんな書き出しはないのだから。


後悔とは反省とは違う。

過去から見た未来、現在から見た存在しない空想に対して、より利益が発生する行為だと感じるものに悩むことである。


ただ悩んでも仕方がない。

それは空想なのだから。

過去に行けばそれは未来だ。

ではどうやって過去に行こうか。


愛する人と出会ったのは一度きりでも、愛を感じたくなったことは幾千とある。

これは人間なら当然であろう。


さて、新しい元号が体にようやく馴染んで、大学から飛び立つ覚悟はできたものの、この不景気にはまだ体が追いつかない。

知っての通り僕は浪費家じゃない。

ただ人が豪勢に生きているのを見るのが好きなんだ。

それでいて人は変わる。

その変化を観察するのもこれまた楽しい。


愛する人の変化が受け入れられない時、初めて愛したと気づく。

愛したと気づいた時、初めて愛する人ができる。


鶏か卵か卵か鶏か。


僕はここに生まれたのか。

ただエゴの結果として存在しているだけなのか。


無性な不安と、漠然とした不安。

恐ろしい心の震えと、空気の圧迫。


多分どんなに考えても答えは出ない。

君も考えるのをやめてくれるだろう。

そんな憂鬱な悩みに最後に口直しが欲しくなる。

そんな時こそレモンケーキだ。

コーヒーは後味がある。

紅茶をおすすめする。


P.S. レモンケーキは紅茶に浸すとなお美味い。

マルクスかエンゲルスか。

僕はどちらでもなかったようだ。

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