第17話 レター
1992年4月1日
彼は自殺した。
あまりに唐突に。
ただあまりに長かった。
いつ消えるかもわからない虚な炎が、気づけば消えているような気がした炎が、いざ目の前から消えると、あまりに暗くなった。
仕事が始まる。
彼の新たな人生も始まる。
私たちの人生も、もしかしたら別の命の人生も始まっていたかもしれない。
そんな未来を彼は過去にし、彼は今を生きるのをやめた。
タバコも酒も大してやらない、ギャンブルは不合理だと言って一切やらなかった。
かといって健康かと言われれば、不健康だった。
長い悩みに取り残されたのか、それとも短絡的な熱い何かが彼を飲み込んだのか。
なにか原因があるとしてもわからない。
彼は手紙をこの世に残して消えた。
死んだというより、消えた方が正しい。
元から少ない荷物はきっちりと整頓され、アルバムは無くなっていた。
彼の机には手紙と、私がもう何年も前に親戚と広島で撮った写真が残されていた。
私も忘れていた思い出が。
手紙の書き出しはあまりに彼らしかった。
『レモンケーキとお飲み物と一緒にお読みください。できれば紅茶で』
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