第14話 てるてるぼうず
晴れの日。
生まれる日。入学式。卒業式。成人式。入社式。結婚式。
それに死ぬ日。
記念行事は晴れている日がいい。
体から幸せホルモンセラトニンが分泌されるには、太陽光が必要不可欠。
だから日照時間の少ない極寒の国々は自殺者数が多く、平均寿命も短い。
そんな話をどこかで聞いた。
何度も顔を合わせた彼女の顔が、どこか違って見える。
日焼けは確かにしている。ファッションも前よりは大胆になっている。
小中高で出会ってきた友人たちは、皆凡庸な、大人になってしまった。
不良を気取っているあいつも、優等生の彼も、物静かなあの子も、女遊びに勤しむ奴も、そして僕も。
結局は過去に生まれた人が作り上げたレールの上を歩いている。
自分は社会に従わないと言っている奴も、過去にそう言った人と同じ道を歩いてる歴史の犬だ。
僕は。僕はどうなんだろう。
何事もない、それでいて安定した、平凡な中流階級から、特に目立つわけでも、かと言って静かなわけでもなく、一人称視点の物語を歩んできた。
彼女との関係は以前より深まっていった。
後輩との関係は今まで通りふわふわとしていた。
その関係は以前の彼女との関係のようで、それでいて違った。
他の子たちとは疎遠になっていった。
だからここでは控えておこう。
それに今までも対して思い出してこなかった。
「いよいよ俺たちも社会人か」
「僕は大学院に行くんだ。だから社会人ではないだろ」
「文学部で大学院とは親不孝だな、まったく」
「そんなこと言われても困るさ。それならマルクスはヒモだぞ」
「エンゲルスは違うじゃないか」
「それは未来に聞いてくれ。2010年にでもなったらもう立派になってるはずさ」
「そんな時、俺生きってかな」
「君はなんだかんだ言って就職して、幸せな家族を築くのさ」
「含みがあるな。マドンナを捕まえたお前にはかないやしないさ」
テルも知っている。彼はなんだかんだ言って真面目なのだ。
自分の道はきちんと舗装して、人の道は気にしない。
「先輩たち、卒業おめでとうございます」
「僕はまた学生生活だよ」
「親不孝だからな」
「女泣かせには言われたくないね」
「ほう、どっちが女を泣かせるか楽しみだな」
「僕ではない。これは絶対に」
「2010年にでも聞かないとな」
「2010年?」
不思議そうに後輩が顔を覗かせる。
その瞳は澄んでいた。
「遠い未来の話さ」
「マルクスになるか、エンゲルスになっているか」
「はたまたただの平凡なサラリーマンかね」
「それがベストだろ」
「先輩、サラリーマンって感じではないですけどね」
「そんなに反社会的かな」
彼女はまだ姿を見せていない。
今日は一緒に写真を撮る約束も、食事の約束もある。
一緒に来るのは用事がどうこうで無理だったが。
昨日吊るしたてるてるぼうずのおかげだ。
空は澄み渡っている。
青い空の淡い桜の色はやっぱり美しい。
てるてるぼうずは首をくくった。
僕の晴れの日のために。
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