第13話 13時、いつもの喫茶店で

彼女は日本に帰国した。

すぐに走ってでも会いに行きたいが、僕はまだ決心ができていなかった。

決心ならばできている。覚悟がないのかもしれない。

もう21歳だ。

責任を取らなくちゃなるまい。

真面目に将来を考えなくちゃなるまい。

文学部で学んだことなど、会社に行けばみじんも役に立たないだろう。

そんなことはわかったいた。

就職は絶対できる。

これもわかっている。

今東京は地価が上がり続け、就職でも超売り手市場となっている。


さあ、彼女と何を話そうか。

また暑いねなんて言っても、まだ6月なのに。

今決まっていることは一つ。


13時に、いつもの喫茶店で。


ドアを開けるともう彼女がいた。

いつも通り、文庫を片手に紅茶を飲んでいる。

ずっと変わらぬ、これからも変わらないであろう姿に懐かしさと新鮮さを同時に感じた。

これが情なのか、愛なのか、思い出なのか。はたまた脳の細胞の単純な活動なのか僕にはわからない。

そんな悩みを見透かしたかのようにニヤリと笑って、いつも通り彼女は手を振ってきた。


13時。

何をするにも、何もしないにも。

最高の時間だ。

ただ時間だけがこれから過ぎゆく。

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