第12話 JUNE
アメリカの夏休みは6月かららしい。
彼女からのアメリカ最後の手紙が届いた頃、彼女はそろそろ出発する頃だという。
もちろん今すぐにでも会いたい。でも彼女に対しての何か気まずさのようなものが尾を引いてる。
曇天を前に人は歩みを止め、砂漠の中で人の息は途絶える。
行手には希望が広がっているのか、破滅が広がっているのか。何もわからない航海に出る時、船員は己の好奇心と、家族への愛ですすむ。
では愛を知らなかったら。自らその愛を壊してしまったら。
好奇心が愛を壊し、暴走した何かを止めようと、憂鬱になる。
そんな船員は広く、穏やかで、そこはかとない紺碧の海に何を思うのだろう。
彼女に会う前にと広島までやった来た。
飛ぶようにレモンケーキが売れたと言う場所は、原爆ドームとして存在し、巨大な戦艦が虚構の夢と共に出撃した港は、瀬戸内海を美しく見守っている。
今は梅雨前線に刺激され、気候は安定しないが、基本的に年中晴れているこの場所が彼女のあの性格を生んだのだろうか。
たかが小学生になる前とはいえ、その海は彼女に確実に影響を与えた。
ただその海は僕にずっと尋ねてくる。
君は彼女を裏切ったのかと。
後輩だけではない。
二年なんて月日、大学生には長すぎる。
自らを正当化しようと暴れてついた傷に、海水はキリキリと音を立てて染み込んでくる。
流れた涙を受け止め、海はまた大きくなっていく。
この曇り空のせいなのか、旅行中はずっと暗い気分だった。
ただ広島駅の近くでようやく旅の目的を思い出した。
木箱に入ったなんとも豪勢なレモンケーキだ。
これなら彼女も好きだろうと人使っていくことにした。
電車に揺られ、瀬戸内海を船で超え、松山も見て回った。
落とせる単位数は限られていると、たいして観光もせずに僕は東京へと戻った。
JUNE。
六月。
一年の折り返しだと言うのに、全く行事がない。
そして梅雨の始まりと、春の終わり。
どうにも好きになれない季節だ。
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