第8話 お茶会

夏休みに入り、中盤に差し掛かっていた。

茶会ティーパーティーは結局また彼女の得意な冗談なのだろうか。

テレビでは戦争特番が流れ、昼食の素麺の乗っていたザルだけが机に残されていた。


チャイムが鳴る。


弟が鍵でも忘れたかと、休みの間にだらけきった心をソファーから引き剥がし、玄関へと向かう。

「今開けるよ」

ドアを開けると彼女がいた。


「約束の日程決めてないから、コーヒー飲みにきたよ」

「あいにくコーヒーは切れているんだ」

「それは残念。麦茶もない?」

「もちろんあるさ。今日は暑すぎるよ」

本当に暑い、暑いのまた学校と同じ話を繰り返す。

夏休みは互いに堕落していたと思えば、彼女は違うようだ。

実家のある広島に帰って親戚たちと色々なところへ行ったと教えてくれた。

茶会ティーパーティーの時に写真を見せてくれよと言うと、もちろんといい嬉しそうに夏の思い出を語ってくれた。


「このままだとこの夏何もないな」

「お茶会ティーパーティーがあるじゃない」

「それは夏の行事ではないだろ」

「でも例えば花火とお茶会ティーパーティーを一緒にしたいの?」

「それも悪くはないさ」

そう言ってテレビを消す。

「じゃあ決まり。花火の日にお茶会ティーパーティーにしましょ」

「もちろんいいけど君の親御さんはいいのかい」

「お父さんは仕事でアメリカに行ってるし、お母さんはその日は親戚と温泉に行くの」

「じゃあ一人なんだ」

「そう。一人ぼっち」

「お父さんすごいな、アメリカ」

心の底から出た言葉だったが、同時に彼女と二人っきりであると言う事実は声を高くさせた。

消したはずの場違いな戦争特番の音声が頭の中を反復している。


「期待はしてもいいけど、それは紅茶にだけね」

「君の方こそ、期待するならレコードにね」

「もちろん。最初からその気よ」

これ以上話してもコントロールされるのは目に見えてた、今は緊張する場でも興奮する時でもない。

「そろそろ弟が帰ってくるから、君も早く帰らないと。どこかへ行く途中じゃないの?」

「そうね。家に帰るだけよ。カフェに行ってたの」

「カフェ。君がカフェにかい」

「あら。コーヒーも好きよ」

「一人で」

「そこはコーヒーと関係ないもの」

それもそうだと言いながら僕は立ち上がって、彼女を早く出ていくように急かした。


カフェに一人で行くのか。

いや、一人で行ってないかもしれない。

でも今は一人だ。

それに花火の日も。


一人。

孤独と一人は違う。

それに一人は単なる属性であり状態だ。

『いちばん恐ろしいのは孤独である。』

太宰はそう言っていた。

ひとりは恐ろしくなんかない。ただそこ知れぬ未知はある。

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