第4話 湘南

東京からほど近いこの海は、他の浜とはまた違った騒がしさがある。

サークルの合宿とは名ばかりの、旅行では毎年ここが恒例となっていた。


よく冷えたワインは似合わない。

ビートルズも似合わない。

さあ、ビールを飲もう。


毎回この合宿の初日に部長がみんなに声をかける伝統のフレーズ。

広いヴィラのリビングの一番端で僕はビール片手に外を眺めていた。

後輩と目があった。どうやら同じく夕日で輝く海を見ていたらしい。

「夕方のこの街はいつ見ても綺麗だよ」

「先輩3年目ですもんね」

「ああ。もうこのヴィラも知り尽くしたさ」

「頼り甲斐があります。明日の掃除当番嫌だな」

そういうと、後輩は虚な目をしてまた外を眺めた。

「明日の当番もう一人は誰になったの?」


サークルでは二泊三日の合宿中、二日目と三日目の掃除をする人をくじで一名決め、その一名がもう一名を指名し二人係でヴィラの軽い掃除をする。

「まだ決めてないですけど。専門家の先輩に頼もうかと」

後輩はそういうとビールを飲んだ。

「掃除は勘弁だよ。3年間毎年やってるんだ。確率とは全く機能しない学問だね」

「これは確率じゃなくて人望ですよ。文系の先輩にはわからないかもしれないですけど」

「君も文系じゃないか」

「高校時代は数学が一番得意だったので理系です」

そう冗談を飛ばす後輩の大きな瞳は、人を笑わせるには寂しそうで、波が反射し、僕は吸い込まれそうになっていた。

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