第2話 ファーストデート

初めてのデートは喫茶店にした。

木を貼り付けただけの軽いドアを開けて、彼女を先に入れる。

丸刈りの僕とは対照的に、彼女の艶やかなロングヘアーは歩くたびに揺れていた。

小説が好きだという彼女は文学的というにはあまりに活発で、運動的というにはあまりに勤勉だった。

そんな彼女に憧れを抱くのは当然でも、年頃の男子には大人びて見えた。

思春期というものが幻想を抱かせたにせよ、紛れもなく僕はマドンナとのデートに臨んでいるのだ。


「太宰は酒みたいだよね。本当に元気な時は必要としないけど、本当に元気のない時には心の拠り所になる」

「僕には暗すぎて無理だよ。それに酒なんて飲んだことないだろ」

「最近の女の子は意外とやんちゃなのよ。それも知らずに喫茶店で文学を語ろうなんて」

僕の見えすいた誘い文句を茶化すかのように彼女は笑いながら答える。

もう冷たくなってきたが、ほとんど中身の減らないコーヒーカップに彼女の顔が映る。

「私の紅茶も少し飲む?」

「喫茶店ではコーヒーさ」

「喫茶店はよ。お茶を飲まなきゃ」

「そんなにいうなら飲もうかな。でもコーヒーと違って喫茶店の紅茶はティーパックだろ」

「それならうちでお茶会ティーパーティーでも開く?」

僕は冗談を言う余裕を一気に失った。

主導権は完全に彼女が握っている。

ぎこちなくいいね。と返すとまた彼女は笑いながら決まりね。といった。


それからも他愛もない話が続いた。

勉強の話から入って、進路の話、将来はどうしたいだの、何になりたいだの。

唯一驚いたのは彼女は東京が好きじゃないと言うことだった。

こんなにも都会的で、エキゾチックな女性がまだ自分と同い年の女の子だと気付かされた。


コーヒーのおかげだろうか。代金も彼女の分まで僕が払えるほどの金額だった。

外に出るとあたりは薄暗くなっていた。

「早く帰らないと、悪い男に捕まったと心配されちゃうよ」

「悪い男?同級生のでしょ」

「なあに、きみこそ何も男について理解していないみたいだね」

「そうかしら。じゃあお茶会ティーパーティーはなしね」

「それがいい。お父さんの心臓のためにもね」

「それはよかった。父さん心臓が弱いから」

そう軽く返して見せる彼女の横顔を見て、見栄を張らなければよかったじゃないかと、淡い期待から憎まれ口を叩かれた。

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