第12話 合コンで得た宝物

「つまり、私は人の心が読める人間なんです……」


 申し訳なさそうな素振りで、ミレは爆弾発言をする。その言葉で合コン全メンバーは、開いた口が塞がらない状態になる。


 ミレさん、マジっスか。あんたそれはヤバいっスよ。その言葉が俺の頭の中でグルグル回る。


「ふざけるな! 何が心を読めるだと! そんな事出来るはずがない!」


 エイナードは立ち上がり、ミレを指差す。しかし、ミレはそんなエイナードを冷静に見て応える。


「エイナードさん、いえラーズさん。あなたが一番分かってるでしょ? 本名の事、壺の事、その事は心が読めないと説明が出来ないって……」


「もう、そんな事どうでもいいんだよ。計画が破綻してしまったし、俺の正体も知られた……。仕方がない。ここにいる全員に死んでもらう。俺は占い師なのだが、最強の魔法使いでもあるのだよ」


 エイナードはそう言うと、呪文を詠唱し始める。


「いけない! 爆発の魔法です。彼はこの酒場ごと私達全員を吹き飛ばすつもりです。皆さん、逃げて下さい」


 ミレが立ち上がり、叫ぶ。俺は思った。カワイイ俺の彼女に手を出す奴は許さねぇと。そして、俺はエイナードの前に立ちふさがる。


「死ねぇ!」

「そんなヘナチョコ魔法で死ぬか、バーカ」


 俺はエイナードの魔法を身体で受け止める。そして、その魔法を気合でかき消す。すると、酒場はまるで何事もなかったかのように、静まり返る。


 エイナードは俺に魔法を無効化されたので、呆然としている。そして、我に返り叫び出す。


「ひいいいい、化物だあ」


 エイナードは必死な顔で、酒場の外へと逃げ出して行く。最大級の魔法をいとも簡単にかき消した俺には勝てない、そう判断しての行動だろう。


 まぁ、合コンで暴力行為を行ったのだ。奴の事は間違いなく、合コン組織委員会が放っておかない。間もなく奴は捕まる。合コン組織委員会はそんなに甘くないのだ。


 俺は事が一件落着したので、愛しのミレの方をチラリと見る。彼女は笑っている。素敵な笑顔だ。カワイイなと見とれてしまう。


 すると、それを割って入る様にクルスが俺に話し掛けて来る。


「サークさん、ちょっといいですか? 僕はまだ彼女が本物だと認めていない。人の心を読めるなんて、とても信じられないです。確たる証拠を見せてもらわないと……」


 クルスが俺の横に来て、ミレの方をじっと見ている。そんなクルスを見て、ミレはポツリと言葉を漏らす。


「フィギュア、かなりお好きなんですね?」

「え……」


 クルスは目を見開き固まる。また心を読まれたのか。何だよ、簡単に心を読まれるなんて、修行が足りないんだよ。俺は最強の勇者様だから、ガードが固いんだ。特別な人間なんだよ。


 俺はしたり顔で、ミレの方を見る。すると、ミレと目が合い、彼女は俺にもポツリと呟く。


「……リトルサーク」


 その言葉で俺は恐怖に駆られる。俺も心を読まれてる。女の子に覗かれてはいけないモノが覗かれた。まるで秘密の日記を見られた様な、そんな恥ずかしい感覚に俺は襲われる。


「クルス、それ以上聞くな。彼女は……、彼女は間違いなく本物だ……。俺が保証する」


「そ、そうみたいです。疑うのは僕も止めます」


 それ以上詮索されるのを避ける為に、俺はクルスを静かにさせる。クルスもそれに同意する。


 すると、サーロットお嬢様が俺の方に寄って来て、言葉を発する。


「あなた、意外と強いのね? 見直したわ。でも、それだけ強いのに女の子にモテないなんて、どんだけ中身の薄い人なのよ」


「ぐふほげ……」

 

 俺は人生で初めて口にしたその言葉を発し、その場にうずくまる。


「そこ邪魔よ、モテない剣士。私はミレ様に用があるのよ」


 うずくまっている俺をサーロットは足蹴にし、ミレに深々とお辞儀する。ユリンとカルネもミレの元へ集まって来る。


「これからは私達、ミレ様に相談するから」

 

 サーロットは満面の笑みで応える。彼女達三人を見て、ミレは少し困った顔をしている。これからこの三人は断る事に、ミレに悩みの相談に行く事になるな、俺は直感的にそう感じる。


 カルネの今回の行為もどうやらサーロットに許された様だ。エイナードの件がなければ、サーロットは誰にも悩みを打ち明ける事が出来なかったのだ。


 サーロットからすれば、カルネによってミレという相談相手が現れたのは大きい事だったのだろう。


 今回の事で性悪お嬢様もさすがに行動を改めようと考えている様だ。周りの人間にとっても、いい影響になったかもしれない。


 俺はふと気付く。ミレが俺の心を読んだと言う事は、俺が大魔王を倒し、世界を救った勇者だと言う事も知っているはずだ。


 イケる、これはチャンスだ。


 今なら彼女になってくれる。強い男、正義の勇者はモテるのだ。世界を救った男の恋人になりたいはずだ。


  俺は彼女に愛の告白をしようと、彼女の前に出る。


「ミレさん、俺はあなたの事が大好きです。俺とお付き合いして下さい」


「え、でも……」


「あなたが心の中を読める方なら、もう気付いているんでしょ? 俺が大魔王を倒し、世界を救った勇者だと。そして、あなたの事を愛していると。お願いします。ミレさんを一生大事にしますから、俺とお付き合いして下さい」


「……だからなんです。心が読めるからこそ、あのその……。お断りします……」


 その時、俺の胸に風穴が開くような強い衝撃が走った。


 大魔王軍団をたった一人で戦った時ですら、無傷だった最強のこの俺が、合コンという戦場では傷だらけになっている。


 合コンの魔物に今日も敗れるのか。俺は両膝をつき、その場にうなだれる。


 そして、恥ずかしさと悲しさのあまり俺も酒場から走って外に出る。夜風を浴びながら、俺は涙を流し走って逃げる。


「待って下さい、サークさん!」


 俺を呼び止める者がいる。俺はピタリと足を止め、ゆっくりと振り返る。この声の主はクルスだ。クルスが俺の目の前にいる。


「サークさん、また次の合コン頑張りましょう。だからまた、僕に合コンの事を教えて下さい。お願いします」


「グスッ、別にいいけど……」


 俺はまた彼女を作る事が出来なかった……。


 しかし、今回の合コンではかけがえのないモノを見つけ、手にする事が出来た。


 俺はこの合コンで、一生付き合っていける友を手に入れたのだ……。








 








 

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コンパに来た悪の占い師と悪役令嬢~異世界合コン3~ かたりべダンロー @kataribedanro

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