第11話 どんでん返し

「そんな、ひどいです……」


 内通者はあなただの俺の一言で、カルネはとうとう泣き出す。ヤバい、女の子を泣かせてしまった。


 女の子は泣かせてはいけない。俺の中の最大のルールの一つを破ってしまった。俺はどうしたらいいのか分からず、オロオロしだす。


「カルネ、本当に私の情報をエイナードさまに売ったの?」


 サーロットが驚いた表情で、泣いているカルネに言葉を掛ける。カルネはその言葉でビクッと身体が反応し、お嬢様に反論を始める。


「私は決して、お嬢様を裏切るマネは致しません。本当です。酷いのはサークさんです。私があなたに対して何をしたと言うんですか? 何でそんな変な言い掛かりを言うのですか? ホントに酷い」


 カルネはキッと俺の方を睨んで来る。女の子からかなり強い言葉を言われて、俺も呆然としている。


 カルネはひたすら声を上げ、泣いている。これでは、収拾がつかない。俺は再び考えるが、良い案が出ない。すると、そんな状況を見てエイナードが口を開く。


「そうなんです、皆さん。サークさんはご自分が合コンでモテたいが為に、私やカルネさんを攻撃してるのですよ。自分勝手な正義を貫く為に。酷い話ですよね?」


 急に悪者扱いにされ、俺は戸惑う。そんなバカな、みんな奴の言う事なんか信じてないだろ。俺は周りのみんなの顔を見回す。疑う様な鋭い視線が俺に向けられている。一人、二人ではない。ほぼ全員からだ。


 クルスとミレさんは俺の方を見ていない。うつむいて、何か考えている様な表情をしている。


 なぜ、みんな奴の言葉に騙されるんだ。確かに俺はモテたい。でも、違うんだ。悪党に成り下がってまで、モテようと思ってない。信じてくれ。


 俺は成すすべがなく、テーブルの下に置いていた愛剣を取り出す。


「おっと、いいんですか? 暴力行為は合コン規約違反ですよ。二度と合コンに参加出来なくなりますよ。彼女が欲しかったんじゃないですか?」


 エイナードはあざ笑いながら、俺を牽制して来る。さすが、占い師だ。俺がその言葉に弱い事をよく知っている。


 剣を抜こうとしたまま、俺は怒りで手元が震える。


 くそっ、どうすればいいんだ。このままでは女の子は、この悪の占い師に洗脳され、俺は場を荒らした悪党として処理される。


 今はただ、目の前の女の子達を救いたいのだ。例えこの合コンでモテなくてもいい。彼女達の悩みや弱みをエサにして、生きているアイツが許せねぇ。


 俺はエイナードをキッと睨む。しかし、手段が、策がないのだ。最悪だ。もう無理なのか。勝ち目はないのか。


 俺が半ば諦め掛け、心が折れそうになっている時に、天の助けの様な一言が降り注いでくる。


「諦めないで下さい、サークさん」


 俺はその言葉の方角を見る。ミレが優しく微笑み掛けている。


 ミレさん、ありがとう。嬉しいけど、俺にはもう戦う力が残ってないよ。俺は視線を反らし、目を伏せる。


「正直な気持ちを申し上げます。本来なら、サーロットさんがエイナードさんに騙されて行くのを、私は見て見ぬ振りをしようと思っていました。それは、彼女の今までの皆さんに対する行動の報いが来たと、感じていたからです」


 合コンの席の全員がミレの言葉に釘付けになる。


「でも、勇気ある男性のおかげで、私もこれではいけないと思い、立ち上がる事にしました」


 ミレさんはチラリと俺の方を見て、話を続ける。


「ハッキリと言います。エイナードさんは占い師として、何の力も持たれていません。偽物です」


 ミレは突然、エイナードの方を見て指摘をし出す。エイナードは一瞬驚いた表情をするが、再び余裕の笑みを見せる。


「ほぅ、あなたのような大人しそうな方から偽物扱いされるとは思いませんでした。どうして、そう思われたのですか?」


「エイナードさん。いえ、この名前は偽名ですね。本当の名前はラーズさんですよね。この国の治安組織から今現在、詐欺罪でお尋ね者になってますね」


 エイナードの余裕の笑みは完全に消え、凍り付いた様な表情になっている。


「カルネさんは、あなたの信者ですね。あなたの元々の狙いはホウム家の財産。カルネさんからサーロットさんが今回合コンに参加する情報を仕入れて、彼女に接近した訳ですね」


 エイナードは無表情のままだ。一方、今度はカルネの顔が凍り付く。カルネは涙を流しながら、激しく反論する。


「何を証拠に言っているんですか? 私は何回も言うように彼とは無関係です」


「なるほど。ラーズさんとは出身が同じですか? 酒場で偶然出会って、サーロットさんの愚痴を聞いてもらっている内に洗脳されたみたいですね。反論があれば、もっと証拠を提示しますよ。高額な壺が部屋のどこに隠しているとか」


 ミレの言葉でカルネは無言で震え出す。え、全部当たっているのか。俺は驚いてミレさんの顔をじっと見る。


 おぉ、やっぱり綺麗だ。それに頭もいい。彼女にしたいなぁと思いながら、俺は彼女の話に耳を傾ける。すると、エイナードは突然息を吹き返したように、ミレに対し反論を始める。


「そんなデタラメ誰が信じるんですか? あなたの作り話ですよね。もう止めて頂けませんか?」


「デタラメじゃないですよ。その証拠に今日信者になった方に売りつけようと持って来た壺が、あなたのカバンの中に入っているんじゃありませんか? それとも、それは趣味で持って来た壺なんですか?」


 血の気が引くように、エイナードの顔が青ざめていく。そして、怒りの感情でミレを睨み付け、奴は怒鳴り出す。


「何者だ? 貴様!」


「あなたと同じです。私も占い師なんです。しかも本物の……」

 





 


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