第10話 反撃
クルスが俺の方をチラリと見て、耳打ちして来る。
「サークさん、内通者の件ですが、二人にまで絞り込めました」
え、まだそれを調べていたの、俺は驚きクルスの顔をじっと見る。
「あ、もうその事はいいよ。あのお嬢様は悪人だ。罰を受けないといけないから、放っておいたら」
俺は手を振り、クルスに返す。
「どうしたんですか、サークさん。さっきまであんなにあの占い師を倒したがっていたのに。何かあったんですか?」
クルスが詰め寄って来る。俺は本当の事を言えず、適当にごまかす。
「俺には他に大事な事があるから。それに飲み会だし、皆で仲良くしないとね」
「サークさん、見損ないました。あの占い師が悪い奴なのは一目瞭然でしょう。なぜ、野放しにするんですか? 女の子が洗脳されそうなんですよ。助けないんですか?」
クルスの言葉が胸にズキズキと響く。そんな事は分かってるんだ。でも……。
俺の目にサーロットの姿が映る。サーロットはエイナードに洗脳されて幸せなのか。俺は自分が彼女を作りたい為にサーロットを見捨てるのか。本当にそれでいいのか。自問自答を繰り返す。
いや、良くない。良くねぇよ。
俺は勇者だ。世界を大魔王から救った勇者なのだ。あんなチンケな占い師の口車に乗っていいはずがない。俺は我に返る。そして、エイナードの方を向き口を開く。
「悪い、エイナード。さっきの話やっぱり無しだ。俺は女の子の味方でありたい。いくら性格の悪いお嬢様でも騙しちゃいけないんだ。という訳で、俺はお前と戦う」
エイナードが思いっ切り、俺を睨んで来る。
「大人しく言う通りにしていれば、いい思いが出来たものを。愚かですね。後悔するがいい」
奴は怒りでプルプルと震えている。俺の言葉でクルスも笑顔になる。心なしかミレさんも俺に微笑んでいるみたいだ。俺もこれで良かったのだと、自分の選択に自信を持つ。
「クルス君、内通者の件、誰と誰まで絞り込めたんだ?」
「はい、サークさん。猫の名前の事から推測して恐らくサーロットさんと一緒に住んでる方、つまり執事のジジンさんかメイドのカルネさんという事になりますね」
クルスの言葉で名指しされた二人が動揺する。どっちなんだ。二人の反応を俺は見逃さない。
「そんな私、お嬢様を裏切るようなマネなんてしてません」
カルネは泣きそうな声で俺に訴えて来る。
「私もです。お嬢様を売る事など一切致しません」
執事のジジンも必死で弁解する。
「クルス、どう思う?」
俺はクルスに声を掛けながら、エイナードを注意深く見る。
「スイマセン、分かりません」
ここで手詰まりみたいにクルスも応える。
内通者さえ指摘すれば、奴の洗脳が弱まると思ったのに。奴を追い詰める策がない。俺は天を仰ぎ、目を閉じる。
ミレが俺の方をじっと見ている。彼女は何か俺に言いたい様な、そんな雰囲気に見える。
カワイイ。でも今は彼女に見とれている場合じゃないんだ。俺は占い師を倒さないといけない。俺はまた考え始める。
ミレがそんな重い空気を払拭するように、言葉を発する。
「カルネさんはエイナードさんと今日初めて会われたんですか?」
「はい、そうですよ」
カルネは不思議そうな顔をして、ミレに応える。
「でも、この間街角で彼から壺を受け取ってませんでしたか? あれは私の見間違いだったのかな?」
「!?」
ミレのその言葉で、カルネが絶句し身体が固まる。エイナードも驚いた表情でミレを見ている。
これは道が開けたのか。俺はチャンスだと思い、カルネに詰め寄る。
「カルネさん、まさかあなたが内通者?」
「違います。私はエイナードさんと会ったのは今日が初めてです。私は内通者じゃありません」
カルネは必死で俺に応える。
「ミレさんの見間違いですよ。ビックリさせないで下さいよ」
カルネが困った顔でミレの方を向く。ミレはじっとカルネの方を見ている。睨んでいるようにも見える。
すると、突然思い出した様に執事のジジンが話に割り込んで来る。
「いや、確かにカルネは屋敷に壺を持って帰った日がありました。私がその時、何の壺だと問い詰めたところ、焦った表情で花を生ける壺だと言ってました」
その言葉でカルネの表情はますます険しくなる。
「壺が何だって言うんですか? 私だって壺くらい買いますよ。いけないんですか?」
カルネの言葉はドンドン必死になって来る。対照的にミレは冷静な態度でカルネに真相を迫る。
「それってもしかして、エイナードさんに買わされたんじゃないですか?」
カルネは再び絶句し、小刻みに震え出す。今にも泣きそうな雰囲気だ。あれ、これで内通者決まりですか。俺が何もしていない内にトントン拍子に話が進んでいる。
俺はチラリとエイナードの方を見る。奴は動揺しているが、何か悪だくみをしている様な、そんな顔をしている。いかん。奴が行動する前に俺が何かしないと。
俺は自分の存在感と女の子にアピールする為に、行動に出る。
「分かったぞ。カルネさんが内通者だ。占い師の共犯者だ」
俺はそう叫ぶ。俺が見破った事にこれでならないかなと、下心満載の気持ちでポーズを決める。なぜこんな行動をするのかって。あぁ、何度でも言おう。俺はモテたいのだ。彼女が欲しいのだ。ただそれだけだ。何と批判されようが構わない。
しかし、ポーズを決めた俺の視線の先には、またしてもミレさんの冷たい眼差しがあった。
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