第9話 運命で結ばれている二人
俺は用を足し、トイレから出る。すると、トイレから出た所にエイナードがいる。奴もトイレか、そう思って、男とすれ違おうとした時に声を掛けられる。
「サークさん。お話があります」
エイナードはヒソヒソ話をするかのように小声だ。
「貴様とする話などない」
俺はコイツが嫌いだ。だから、話をしたくない。ただそれだけだ。
「取り引きしませんか? お互い得になる取り引きです」
エイナードは腰を低くして、俺に媚びを売るかの如く話して来る。このトイレはみんなのいる合コンの席からは見えない。つまり今、俺とエイナードが話をしている所は合コンメンバーから見られていないのだ。
まぁ、少しくらいなら話を聞いてやるか。俺は奴の話に耳を貸すことにした。
「何だ? 手短に話せ」
「サーロットさんに取り入ろうとしているのを、見逃してくれませんか?」
「でも、嘘を言って彼女を洗脳しようとしてるんだろ? 俺は悪い奴は許せないんだ。だから、取り引きには応じない。貴様があの子から手を引かないなら、武力で勝負してもいいんだぞ」
「止めて下さい。サークさんがメチャクチャ強い人なのは分かります。一応、占い師なんで相手がどれ位の強さかは判断出来ます」
さすがだな、俺が余裕で大魔王を倒すレベルなのを見抜いているのか。こいつ、やはり侮れないなと俺は警戒心を強める。
「サークさんとあのクルスって奴に邪魔をされると、私の計画が破綻してしまいます。あのお嬢様に取り入って、ホウム家の財産をたんまり頂くという私の計画が……」
「あのボンバと貴様も同じか? 性悪お嬢様の財産が目当てなのか?」
「はい、そうです」
どいつもこいつも金だの地位だの言いやがって。何しに合コンに来てるんだ。動機が不純だぞ。俺はかなり激怒する。
「もし、サークさんが私のする事を見逃して頂いたなら、私もあなたの為に力を貸します」
「金など要らぬ。俺はそんな外道ではない。取り引きには応じないと言ってるだろう」
「女の子と仲良くなるように上手くアシストしましょう。そうすれば、彼女が出来ますよ」
「……」
こいつ、やはり出来る。俺の悩み、いや願望を理解してやがる。俺は無言になり、少し考え始める。
「私が女の子にサークさんは運命の人ですよと一言言えば、イチコロですよ。女性は運命と言う言葉に弱いですからね。どうですか? 悪い話ではないと思いますが」
「な……」
奴の悪魔のような言葉が俺を悩ませる。彼女は欲しい。だが、悪に屈する訳にはいかない。これは俺のルール、男として生きる上での絶対的な軸なのだ。しかし、俺の心は揺れ動く。
「サークさん、何悩んでるんですか? 相手はあの悪名高いホウム家のサーロットですよ。皆が彼女の暴君な行動で、どれだけ傷付き泣いているのか知っていますか? 彼女は懲らしめないといけないのです。我々は正義なのです。どうか私に力を貸して下さい。そして、あなたはカワイイ彼女を作って下さい」
正義という言葉が俺の頭の中で繰り返されて響く。そして、俺は目を閉じ、結論を出す。
「……分かった。貴様の行動に目をつぶろう。女の子の件、よろしく頼むぞ」
「分かりました。相手はミレさんでいいですね。任せておいて下さい」
「うむ」
俺は小さく返事をすると、そのまま合コンのテーブルへと戻る。そして、みんなの顔を見ながら、席に着く。
罪悪感からなのか、女の子達の顔を見るのが少し恐い。周りをキョロキョロと見回していると、突然ミレと目が合う。彼女は俺を冷たい視線で見ている。俺はギョッとし、すぐに彼女と視線を反らす。
エイナードが笑顔でトイレから戻って来る。何事もなかった様に席に座り、話を切り出す。
「皆さんの中には、この合コン会場に良きパートナーを求めて来られた方もいると思います。私が先ほど占った所、この中で非常に良い相性のお二人がいます。このお二人がお付き合いすれば、一生幸せに添い遂げられます。まさに運命で結ばれている二人です」
合コンメンバーが急に慌て出す。互いに異性の顔を確認し出し、自分かもしれないと落ち着かない素振りを見せる。
「そのお二人の名前を発表してもよろしいですか?」
一同は静まり、エイナードの言葉を食い入るように待つ。
「そのお二人は、サークさんとミレさんです」
みんなの視線が俺とミレに集まる。俺は驚き、照れた様な表情を作る。
俺には分かっていた。これは演出なのだ。仕組まれた物、ヤラセなのだ。だから、それがバレない様に俺も演技をしなければならないのだ。
ミレさんの表情が気になる。彼女はエイナードの言葉をどう受け取っているのか。俺はそっと彼女に視線を向ける。
無表情だ。照れも喜びもない。感情がない。いや、若干怒っている、そんな気配がする。
俺は彼女の反応を見て、愕然とする。俺と相性がいいのダメなんですか、俺とラブラブの運命は嫌ですかと叫びたくなる。
チラリとエイナードの方を見る。エイナードも困った顔をしている。サークさん、凄腕の占い師でも、あんたに彼女作るの無理ッスよと言わんばかりの顔だ。
俺は遠くの方を見て、ふぅっとため息をついた。
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