第7話 トリックの種明かし
「あいつを倒せるのか?」
「えぇ、実はあれは簡単なトリックですよ。見破りました」
クルスのその言葉を聞き、俺は勢いよく立ち上がる。
「てめぇ、このインチキ占い師! コールドリーディングを使っただろ? 俺の目はごまかされないぞ!」
俺はエイナードを指差す。しかし、奴はまるで動揺していない。逆に俺は気まずいと思い、クルスにバトンを渡す。
「クルス君、俺に代わって説明をしてくれたまえ。みなが君の意見を聞きたいそうだ」
ここで僕に振るんですかと言わんばかりに、クルスは驚きの表情を見せ、視線を俺にぶつける。俺はクルスによろしくと言う笑顔を見せると、クルスはしぶしぶ説明をし始める。
「エイナードさんは会話の技術を使って、いかにも皆さんの事を占いで当てた様に錯覚させたのです」
同席している全員がクルスの言葉に耳を傾ける。当人のエイナードも興味深く聞いている。
「まず、サーロットさんにした会話です。強気に見られがちだけど、メンタルが弱い方じゃありませんか、こう言いましたね。これは誰にでも当てはまる事なんです」
クルスの言葉にエイナードの眉がピクリと動く。
「人間誰しも、強気な面とメンタルが弱い面と状況によってある訳です。つまり、差し障りの無い言い方をしてるだけなんです。普通の事をそれっぽく言ってるだけなんです」
クルスはエイナードの顔を気にしている。急に攻撃的になられても困るからであろう。俺もエイナードの表情が気になり、じっと見る。奴は相変わらず、涼しい顔をしている。
突如、ユリンが手を上げ、会話に入って来る。
「でも、私の時はどうなんですか? 私が付き合ってた人の事を言い当てましたよ」
クルスはユリンの方を向き、丁寧に答え始める。
「あれは単純に推測です。見た目から判断して、ユリンさんは誠実な女性だと思います。だから、過去に付き合った男性のタイプも誠実な方なんだろうと予測した訳です」
「そんな推測だなんて、外れの場合もありますよね。そんな占い師、すぐにバレますよね」
「はい。だから、外れた時の場合の対処も彼は用意してるんですよ」
エイナードは下を向き黙って聞いている。すげぇ、あの占い師を完全に沈黙させた。クルスという男、なかなかやるな。俺はクルスの事を見直し、尊敬する。
「一つずつ、エイナードさんの話術を解説しましょう。サーロットさんはエイナードさんの占いは外れだと指摘しましたよね。確か、家族の悩みについての話だったと思うんですが…」
クルスはサーロットの方を見る。サーロットは一瞬嫌な顔をして、クルスからそっぽを向く。
「あれは占い師の話術の一つ、サトルネガティブが使われてましたね」
俺はギョッとした目でクルスを見る。また分からない言葉を出して来る。これはまた、女の子に頭がいいと思われる。つまり、女の子にモテてて、俺がモテなくなる。それはダメだ。やり過ぎだ。俺は危機感を感じる。
「サトルネガティブ? どういう話術なんですか?」
ユリンも初めて聞く言葉に不思議そうな顔をする。不思議そうな顔をしている彼女もかわいいと、俺はつい見とれてしまう。
「いわゆるカマをかける話術の事です。家族の事で悩みがありませんよねと否定疑問を使ったでしょ? それです。サーロットさんが悩んでいませんと答えれば、そうですよね、悩んでいませんよねと答える。悩んでいますという答えなら、やっぱり、悩んでいますよねと答える訳です。要するに外れても、当たっても、私は分ってますよと思わせる話術なんです。今回はサーロットさんが必死に否定した事で悩んでいると、エイナードさんは判断したみたいですけどね」
そっぽを向いていたサーロットが、クルスの顔を怒った表情で見返す。
「さらにエイナードさんは家族の悩みから範囲を絞り込み、当てに行った訳です。たまたま、一番最初に言ったお父さんの悩みが当たった訳ですけど」
「もう、止めて!」
突然、サーロットが頭を抱え、叫び出す。その声で俺も驚いて、彼女の顔を見る。他のみんなもそうだ。相変わらず、冷静なのはエイナードだけだ。
「ほぅ、心理学に詳しい方の様だ。なかなか博学ですね。それで、得意になっているのですか?」
エイナードは嫌な笑みを浮かべ話し始める。
「サーロットさんの顔を見て御覧なさい。あなた方は正しい事をされているのですか?」
エイナードはスッとサーロットに視線を移す。サーロットは自分自身の身体を抱きかかえ、震えている。
クルスさん、占い師を追い込むつもりがお嬢様を追い込んでしまったんじゃないですかと、俺はクルスに冷たい視線を送る。クルスもお嬢様を見て、しまったと言う顔をしている。
「誰しも触れられたくない悩みがあるのです。面白半分で詮索するなんて最低ですね。サーロットさん、後で私があなたをその悩みから解放して差し上げましょう」
エイナードはまた余裕の笑みを浮かべている。サーロットはエイナードを見て、安らかな顔をする。
目の前で、女の子が洗脳され掛かっている。俺は必死で食い止めようと考える。が、何もアイデアが浮かばない。
悩みを解決してくれる人間と言うのは、これほどの力を持つのか。悔しい、何も出来ない自分が。
この時、俺は自分の無力さを呪った。
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