第6話 洗脳の始まり 

「私に分からない事はないんですよ。貴方の考えている事、過去の事、未来の事、全て当てて見せますよ」


 エイナードは両手を広げ、勝ち誇った様に話す。胡散臭い嫌な奴だ。俺は軽蔑の目でこの男を見る。


「この人、本物かも? ねぇ、貴方達も占って貰ったら」


 ユリンはミレやカルネの方を向いて、キャッキャ、キャッキャ言ってる。


 この男、モテてやがる。俺の女の子達に何をするんだ。俺は危機感を感じ、作戦を考える。


「え、ゴメンなさい。私、そういうのちょっと信じてないので」


 ミレが遠慮気味にユリンに断る。カルネも手を横に振り、断っている仕草を見せる。


 そうだ。その男は偽物だ。だから、俺とお付き合いをしましょう。綺麗なミレの方を向きながら、俺はニコリと最高の笑顔を見せる。が、ミレは俺から視線を外し、うつむく。またエロい顔をしてしまったのか。俺は再び反省をし、俺もうつむく。


 すると、サーロットが立ち上がり、エイナードを見下ろす。


「もう一回、私の事を占いなさい。それで、当たってたら、貴方の事信じてもいいわよ」


 サーロットお嬢様が面白くなさそうな顔で、再び話に加わって来る。


「いいですよ。先程、人間関係で悩んでいるのではと言いましたが。サーロットさん、貴方、家族の事で悩んでいるのではありませんよね?」

 

 エイナードは自信満々にサーロットに話す。


「はぁ? 残念だったわね。そんな事で悩んでなんかいないわよ。ハズレよ、ハズレ。やっぱり、インチキ占い師ね。化けの皮が剥がれたわよ。どうするの?」


 サーロットは腕を組み、挑発的な目でエイナードを見て嘲笑している。やったぜ、お嬢様と、俺も無言でサーロットを応援している。


「ホントに、ですか?」


 エイナードはジロリとサーロットを見る。サーロットはその視線で一瞬、顔が引きつる。


「サーロット様、変な意地を張っても良い事など無いんですよ。もっと素直になった方が楽になりますよ。苦しんでおられるんじゃないですか?」


 エイナードは全てを見抜いている、そんな感じの表情をしている。気に要らない。俺はこういう奴が大嫌いだ。エイナードをジロリと見た後、俺はサーロットお嬢様を見る。


「だから、ふざけないでって……」

 サーロットが怒りを表し、そう言い掛けた時。


「お父様の事ですか?」

 エイナードが目を光らせて、サーロットの言葉を遮る。サーロットは目を見開き、固まっている。


「やはり、そうですか? お父上の事で悩んでおられるのですね」


 エイナードは不敵な笑みを浮かべている。サーロットは震えながら、エイナードを睨んでいる。


「あんたに何が分かると言うのよ。あんたなんかに……」


 サーロットは押し殺した声でエイナードに反論する。


 明らかにお嬢様の様子が変わっている。傲慢だったお嬢様が弱々しい女の子になっている。


 そんな中、影の薄くなっていたボンバが二人の会話に割り込んで来る。


「そうだ、そうだ。お嬢様の気持ちをお前なんかに分かってたまるか。サーロットお嬢様、こんな奴の話なんか聞かずに、私とお話しましょう」


 サーロットお嬢様と仲良くなりたい。その下心の一心で話に割り込んで来るのが見え見えだ。ホントにカッコ悪い奴だなと、俺は蔑んだ目でこの男を見る。


「あんたこそ黙りなさい。下級貴族め」


 サーロットはそう言って、ボンバをキッと睨む。すると、ボンバは蛇に睨まれた蛙の様に小さくなる。


「私なら貴方の悩み解決出来ますよ。いかがですか? サーロット様」


 エイナードは軽く笑いながら、サーロットを見つめる。サーロットは視線を落とし、考えている様な素振りを見せる。


「……分かったわ。後で貴方にお話を聞いて貰うわ」


 サーロットはうなだれて席に座り、小さく言葉を発する。お嬢様が占い師の軍門に下った。俺はそう感じ、状況を確認する。


 サーロットがエイナードに落とされた事で、俺はユリンとミレを口説きやすくなったのではないか。ライバルが居なくなったと、俺は確信する。ニンマリとした顔を他の人に悟られないように、俺は手で覆い隠す。


「サーロット様ばかり、羨ましいですわ。私のお話も聞いて欲しいです」


 ユリンがエイナードに熱い視線を向けている。


 なっ、ユリンさんもですか。ユリンの心もエイナードに持って行かれたのかよと、俺は焦り始める。


 いかん、俺の存在が薄くなっている。目立たなければ、合コンではモテない。占い師に女の子達をお持ち帰りされる。俺は必死で策を考える。


 ふと横を見ると、隣りのオタクメガネのクルスがプルプルと震えている。顔を見ると何だか怒っている様だ。


「どうしたんだよ、お前?」

 俺は気になり、クルスに小声で言葉を掛ける。


「サークさんはアイツの事、ムカつかないんですか? アイツ、女の子達を騙してますよ」


 クルスが小声で俺に返す。視線はエイナードの方を向いている。


「俺だって許せねぇよ。でも、女の子達はみんなアイツの言う事を聞いてるし、どうすればいいんだ?」


 エイナードの話を真剣に聞いている女の子達を見て、俺は悔しい気持ちを抱く。


「サークさん。あの占い師、コールドリーディングを使ってますよ。僕はそういうの少し知ってるんで、分かるんです」


 他の人に聞かれない様に、クルスは小声で俺に伝える。


 コールドリーディングだと、何を言ってるんだ。初めて聞いた言葉の為に、俺の脳みそが拒否反応を起こす。しかし、次のクルスの言葉で俺の魂は烈火の如く燃え上がる。


「サークさん、一緒にあのインチキ占い師を倒しませんか? 女の子を守る為に」


 


 


 






 



 










 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る