第5話 占い師が動き出す

 自己紹介も一通り終わり、料理と飲み物が運ばれて来る。今日は料理が出て来るのが、やけに遅い。いつもと段取りの違うコンパに、俺は違和感を感じる。


 貴族が相手だからなのか。店もいつもと仕事のやり方が違う。マスターが焦って、店員に指示を出している。


 みんなの前に料理と飲み物が並ぶ。俺はコンパではアルコールは飲まない。以前、アルコールで潰れて、女の子を逃した為だ。だから、お決まりの葡萄ジュースを目の前に置く。


「それでは、乾杯をしましょうか?」


 俺はグラスを持ち、司会を進行する。そして、みんなの顔を見渡し、一同がグラスを持っているのを確認する。


「乾杯!」


 俺の掛け声と共に皆で乾杯を行う。正面のサーロットとミレの二人と俺はグラスを合わせる。


 さぁ、今日もいよいよ本番だ。必ず女の子と仲良くなって、彼女を作ってみせる。今回の合コンメンバーと今後の流れを俺は考察する。


 女性メンバーの一番人気は誰なのか。俺は女性メンバーを再び見渡す。


 ルックスが一番で目立っているのは、やはり上級貴族のサーロットお嬢様だ。でも、性格がワガママなのだ。他の男はその辺りをどう評価しているのか。


 あのボンバと言う成金貴族は、サーロットの家柄と資産を目当てに、彼女に狙いを定めている気がする。決して彼女が綺麗だから、彼女狙いと言う訳ではない。俺はそう分析する。


 今回俺が狙うのは、ユリンかミレのどちらかだ。共にルックス査定Bランク、性格も悪くはない。総合的に考えれば、間違いなくこの二択で決まりだ。


 なら、ライバルはどう動く。俺は残りの二人の男をチラリと見る。


 オカッパメガネのクルスは合コンに慣れていない。今回は俺の対抗馬とはなるまい。俺はそう判断する。問題はもう一人の方だ。


 占い師のエイナード、コイツはかなり危険なニオイがする。俺の直感がそう言っている。イケメンの上に、知的な感じだ。コイツはモテる。ライバルになると厄介だ。この男の動向に目を光らせねばと、俺は警戒する。


「貴方、占い師って言ってたわよね? ちょっと私を占ってみなさいよ。本物かどうか試してあげるわ」


 サーロットお嬢様が、占い師エイナードに絡んでいる。やはり態度が上からだ。俺も興味深いので、二人のやり取りをじっと見ている。他のメンバーも気になってる様子だ。


「えぇ、いいですよ。何について占いましょうか?」


「何でもいいわよ。さっさとやりなさいよ。つまらなかったら、タダじゃ置かないわよ」


 高圧的なサーロットの態度にも、余裕の顔でエイナードは対応している。エイナードはフムフムと頷いた後、微笑んで口を開く。


「サーロットさんは、強気に見られがちですが、実はメンタルの弱い方じゃないですか?」


「な……」


 サーロットの顔が強ばる。エイナードは力の抜けた笑みを浮かべ、彼女を優しく見ている。


「あんたに何が分かるって言うのよ! 私のどこがメンタルが弱いって言う訳?」


 サーロットは興奮して立ち上がる。かなり動揺している様だ。


「本当にメンタルの強い方は、そんなリアクションはされないですよ」


 立ち上がっているサーロットを見上げ、エイナードは笑みをこぼす。その言葉でサーロットも慌てて席に着く。


「サーロットさんは、何か悩みをお持ちじゃありませんよね? もしお悩みなら解決して見せますよ」


 エイナードはまた笑みを浮かべ、サーロットに話し掛ける。サーロットは目を見開き、エイナードをじっと見ている。


「私が何を悩んでいると言うのよ。適当な事を言わないで!」


 サーロットはエイナードを睨み付けながら、口調を強める。エイナードは涼し気な顔で、それを聞いている。


「人間関係で悩んでおられないですか? それも、かなり近しい人との関係についてとか」


 エイナードは言葉を続ける。サーロットは驚いた表情を浮かべ、固まっている。的を射過ぎて、言葉が出ないと言う感じだ。


 この男、一体何者なんだ。言っている事は当たっているのか。疑いの目で、俺はエイナードを観察する。


 サーロットは言葉を発しようかどうか悩んでいるみたいだ。悩んでいて話したいけど、人前では言えない。そんな感じに俺の目には、そう映る。


「私も占って下さいよ。悩んでいる事があるんですよ」


 俺から一番離れた席のユリンが手を上げて、アピールしている。


「いいですよ。どうぞ」


 エイナードは笑いながら、ユリンの方を向く。


「実は私、縁談の話があるんですけど、その話受けた方がいいのか、断った方がいいのか悩んでいて。どうしたら、いいですか?」


 ユリンはエイナードに相談を持ち掛けている。縁談のお話があるの、なのに合コンに来たのと、俺は驚きの表情を浮かべる。そして、そんな話断って俺と付き合っちゃえよと、妄想を始める。


「ユリンさんでしたよね? ちょっとお顔を見せてもらっていいですか?」


 エイナードはユリンの顔をじっと見ている。そして、フムフムと納得をした顔をして、エイナードは応える。


「貴方は真面目で誠実な男性が、タイプですよね? 過去にもそういう方とお付き合いされてる。その縁談の男は不誠実な人です。断りなさい」


「え、ホントですか? 分かりました、断ります。でも、スゴい。何で、私の過去の事が分かったんですか?」


 ユリンは驚いた表情を見せている。エイナードは余裕の表情をして、話を続ける。








 




 


 



 

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