第3話 男達のアピールタイム
「サ、サーロットお嬢様!」
成金男は驚いた表情で後退りする。こいつら、知り合いか、俺は二人の顔をじっと見る。
「ズンボ家の様な下級貴族ごときが、私と対等に話がしたいとか言う訳? 100億年早いわ」
ピンクのお嬢様が蔑んだ目で成金男を威圧する。成金男はお嬢様に頭を下げ、震えた声で謝罪する。
「申し訳ありません、サーロットお嬢様。お見苦しい所を見せてしまい、失礼致しました。直ぐに席に戻ります。本当に申し訳ございません」
萎縮した成金男は、元の端の席へとスッと座る。そして、ガックリとうなだれている。
俺の知らない所で色んな力関係があるんだな。今までとは違う合コンの雰囲気だ。俺はそれを肌で感じる。
「さぁ、そろそろ合コンとやらを始めましょうか? 誰かこの場を取り仕切って頂けませんこと?」
ピンクのお嬢様が皆の顔を眺め、声を掛ける。皆、下を向きお嬢様と視線を外す。
「じゃ、俺、やります」
俺は手を挙げ、周りを見回す。やはり、誰も名乗り出ない。 これはモテる為の戦略だ。今日も俺は司会役を買って出る。
「それじゃ、お願い。そこの貧相な人」
ピンクのお嬢様が俺の方を見て話し掛ける。誰が貧相な人だ、最強の勇者だぞ。少しイラッとはしたが、カワイイ女の子の言う事なので、そこはサラッと流す。
「それじゃ、自己紹介でもして行きましょうか? そちらの方からお願い出来ますか?」
俺は男側の端の席、つまり俺の右隣のオカッパメガネに声を掛ける。オカッパメガネは顔から汗が吹き出し、身体が震え出す。そして、動揺した声で俺に言葉を返す。
「ぼ、ぼ、ぼ、僕からですか? え、急に言われても困ります。あちらの方からお願いします」
オカッパメガネは逆の端の成金男を指差す。成金男は急に指名されたので、オカッパメガネを睨み付ける。そして、周りを見回し、笑顔で立ち上がる。
「じゃあ、私が最初と言うことで。私の名前はボンバ。由緒正しきズンボ家の貴族です。以後よろしく」
ボンバと名乗ったセンス無し勘違い貴族は、気取って軽く会釈をする。こいつには全く興味がないが、ピンクのお嬢様との関係が気になったので、質問する。
「先ほどのサーロットお嬢様と呼ばれた方とはお知り合いなんですか?」
「社交パーティーで少し挨拶しただけよ。知り合いだなんて思われたら、心外だわ」
ボンバが話そうとしたのを遮り、ピンクのお嬢様が俺に応える。ボンバは口をあんぐりと開け、呆然と突っ立っている。
「そうなんですね。よく分かりました」
俺はピンクのお嬢様に笑顔で応え、ボンバに冷ややかな視線を送る。ボンバはガックリと席に座る。
「それじゃ、次の方、お願いします」
俺は左隣の金髪長髪の魔法使い風の男に話を振る。
「私の名前はエイナード。占い師をやっています。どうぞ、よろしくお願いします」
エイナードと言う男は丁寧に挨拶をする。占い師と言う肩書きに一同は驚きの表情を見せる。何者だ、こいつ。俺もそう感じ、不振な目でこの男をじっと見る。
「ふーん、貴方、何を占えるの? どうせ、インチキだと思うけど、ちょっと占ってみてよ」
ピンクの勝ち気なお嬢様が占い師に挑発する。
「他の方の自己紹介が終わっていないので、後ほど。よろしいですか?」
エイナードは軽く笑みを浮かべ、ピンクのお嬢様に応える。お嬢様はその返事が気に入らなかったのか、プイッと顔を背ける。
「じゃ、次は俺が自己紹介します」
空気を変える為、俺は手を挙げ進行役を続ける。
「俺の名はサークって言います。剣士をやっています。剣の腕には自信があるので冒険される方がいれば、誘って下さい」
いつもの様に自己紹介をする。しかし、今回の相手は貴族だ。反応は薄いかなと一同の顔を伺う。
大人しそうな青のドレスの女の子が俺の方を見てクスッと笑う。お、ひょっとして脈アリですか。彼女が俺に惚れていると確信する。
すると、大人しそうな青のドレスの子はスッと無表情になる。あれ、エロい顔をしてしまったのでドン引きされたのか。俺は顔を触って確認する。
「じゃ、次の方、お願いします」
俺は真顔になり、進行役を再開する。そして、トップバッターを拒否したオカッパメガネの方を見る。
オカッパメガネは汗だくで、まだ震えている。こいつ、緊張しているのか。俺は横目でその男を見る。オカッパメガネは意を決して口を開く。
「は、は、初めまして。ぼ、ぼ、僕の名前はクルスと言います。魔法使いです。魔法使いをやってます。よろ、よろしくお願いします」
緊張してまともに喋れていない。このクルスと言う男、合コンに慣れていない。いや、むしろ初めてなのか。隣の男を俺はじっと観察する。
俺もかつて合コンに初めて参加した時、緊張して同じ様であった。まるで昔の自分を見ている様だ。俺はこのクルスに好感を持ってしまう。
「合コン、慣れていないのか?」
俺は小声でクルスと言う男に確認する。
「はい、スイマセン。初めてなんです。緊張してて」
クルスも小声で俺に返す。
「そうか。何か分からない事とか困った事があったら俺に言って来い。色々教えてやるから」
俺はクルスを見ながら、優しく言葉を掛ける。その言葉でクルスの硬かった表情が和らぐ。
「ありがとうございます。少し気が楽になりました。助かります」
クルスはスゴく嬉しそうだ。俺もそんな顔を見せられると嬉しくなる。
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