第2話 悪役令嬢、合コンに参戦
酒場"スイケン"のドアが開く。男達の視線が一斉にドアに注がれる。
女性メンバーが来た。
俺も期待で胸を踊らせる。
しかし、期待していたのとは裏腹に鎧を着た兵士達が次々と入って来る。統率された兵士達はドアの入り口を警備する様に列を作る。そして、兵士達の花道が完成する。
何だ、何が始まったのだ。俺は異様な光景に戸惑う。今日は合コンじゃなかったんですか、女の子はどこですかと、誰かに訊きたくなる。
「お嬢様、入ります!」
燕尾服を着た白髪に白髭の老紳士がドアから入って来て、兵士達にそう告げる。執事の様な格好だなと、俺はその男をじっと観察する。
「ふーん、ここが合コン会場なの? 汚くて小ぢんまりとした場所ね。庶民にはホント相応しい所ね」
装飾品で飾られたピンクのドレスを纏った女の子がそう言いながら、ドアから入って来る。金髪の長い髪をリボンでまとめているのが印象的だ。
彼女は興味深そうに周りをキョロキョロと見渡している。大きな羽の付いた扇子を口元に当てて、何やら嘲笑っている様だ。
この派手なドレスの子が今日の合コン相手か。俺は愕然とする。
しかし、驚いたのは束の間だ。俺の男の本能が彼女のルックスの評価を始める。仕方がない。俺はスケベなのだ。
顔のチェック、スタイルのチェックを始める。
可愛い、美女だ。胸は大きいがスレンダーだ。合格です。俺はニヤリと笑顔を浮かべる。
「貴方達も早く来なさい。私を待たせないでよ」
派手なドレスの女の子が振り向き、ドアの外に向かって声を掛ける。すると、女性達が次々と店内へと入って来る。
呼ばれて入って来た女性達は三人だ。先頭の二人はやや地味めのドレスを着ている。とはいえ、二人ともお金持ちの家のお嬢さんと言った感じだ。
先に入って来た女の子は、青のドレスを着た大人しそうな子だ。長い黒髪が綺麗だ。知的なミステリアスな女性と言う感じだ。
次に入って来た女の子は白のドレスを着た女の子だ。茶髪のセミロングヘアだ。明るく社交的な感じがする。二人とも美女だ。
しかし、最後に入って来た子は打って変わってメイド服だ。短い髪で見た目はどこにでもいる普通の子という印象だ。
この女の子達は一体何者なんだ。俺は考えを巡らせる。答えが出ない。ただ今は冷静に彼女達の動向を観察するのみだ。
女性メンバー達が席に着こうとする。先程の執事風の男が椅子を引いて彼女達をエスコートしている。こうして、合コンの席にメンバーが揃う。
女性メンバーの席の配置は俺の右斜め前にメイド服の子。正面に派手なピンクの子。左斜め前に大人しそうな青のドレスの子。一番離れた席に社交的な白のドレスの子となった。
「ジジン! その無粋な兵士達を店の外に下がらせなさい! 目障りよ!」
派手な女の子が執事風の老紳士に指示を送っている。やっぱりこの二人、主と執事の関係のようだと俺は確信する。
「でも、お嬢様。何かあったら困りますので、彼等に護衛を……」
「私の言う事が聞けないって言うの、ジジン! 貴方も偉くなったわね」
「……。分かりました、お嬢様。彼等を下がらせます」
そのジジンと呼ばれた執事風の男はしぶしぶ兵士達に指示を送る。兵士達はまた綺麗な隊列のまま、店の外へとゾロゾロと出て行く。
「貴方も下がっていいわよ、ジジン!」
ピンクのお嬢様はなおも老紳士に威圧的な態度を取る。
「さすがに私までいなくなるのは……。隅の邪魔にならない所にいますのでここに置いて下さい」
「仕方ないわね。邪魔になったら即刻この店から出て行って貰うわよ。いいわね?」
ジジンと呼ばれた執事はうなだれて、はいと小さく答える。
この人、いつもこのお嬢様に、酷くこき使われてるんだなと俺は推測する。可哀想にと、その執事に同情の目を向ける。
そして、俺は女の子に視線を向ける。が、次の瞬間、誰かが後ろから肩を叩いて来る。
何だよ、邪魔すんなよ。今から女の子達のチェックをするんだぞと思いながら、肩を叩いている方を俺はジロリと見る。
どうやら俺の肩を叩いたのは、センス無しの男だ。
「君、悪いけど席を変わってくれないか? 正面の方と私はお話がしたいのだ」
センス無し成金男は紳士ぶる様な感じで俺に声を掛けて来る。
「嫌だ。俺はこの席がいい」
俺はキッパリと断る。一番女の子と話が出来る席をなぜ譲らないといけないのだ。ふざけるなと言う感じだ。
「君、タダでとは言わない。これでその席を譲ってくれないか?」
成金男は懐から袋を取出し、中の金貨を俺に見せ付ける。そして、イヤらしい笑みを浮かべ、これで席を譲れと目で訴え掛ける。
「金貨なんかでこの席は譲れない」
俺は即答する。当たり前だ。こっちは真剣に彼女を作りに来ているのだ。バカにするなと声を大にして言いたい。しかし、この成金男も引かない。
「もう少し出すぞ、どうだ?」
「くどい!」
俺はその成金男の要求をピシャリと跳ね除ける。すると、その男は顔を真っ赤にし叫び出す。
「貴様! この私を誰だと思っているのだ! ズンボ家のボンバ様だぞ! 貴族なんだぞ! そんな態度を取っていいと思ってるのか? 貴様なんか、いとも簡単に消せるんだぞ! 分かってるのか?」
俺は面倒臭いのでプイッと無視をする。喧嘩になっても余裕で勝てるのだが、暴力行為は合コン規約違反。そうなれば、合コンに参加出来なってしまうのだ。
「貴方、黙って席に着きなさい。目障りよ」
その成金男を睨み付けて言葉を吐いたのは、あの派手なピンクのお嬢様だった。
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