人が夢を見ると書いて儚いと読む7


ここ数日の渡良瀬は

コンサルティングという名のイジメに勤しんでいた


「それでは効率が悪いです、改善してください」


「それは他の人に振ると2度手間になるので

一本化ということであなたがやってください」


「家に帰ってる暇はなさそうなので、

ごはん買ってきました(ここで食って早く働け)」


「ここの書類が抜けています(すでにシュレッダーの中)」


「経費削減で何個か電気消しますね」


「ここで寝ると風邪を引いてしまうので

毛布持ってきました(帰るな)」


「いやー、年俸制でもキチンと残業代出るので

稼げていいですねー。うらやましいです」


「このままですと退職金を使っての返済でギリギリでしょう

もう少しがんばらないと年金暮らしも大変になってしまいますね」


「やりがいのある仕事っていいですよね」


「あ、私はこの後飲みに行くので無理しないでくださいね

あれ?こちらにも依頼書がありましたね(隠してあった)

これは今日中ですね。がんばってください。

それではお疲れさまでした」


何日かは渡良瀬の言動や行動を睨むように見ていた二人だったが、

そんな事よりも手を動かさないと終わらない仕事量に

完全に作業ロボットを通り越して、ゾンビになっていた

ちなみに部長は監督責任ではあるが、普通の仕事以外は

この二人の仕上がり待ちなので、待ち疲れはあれど

そこまで苦痛ではなかった





そんな状態のまま日が進んだ夜9時


もう駄目だ、もう限界だとブツブツつぶやく二人の元に

騒がしい声が聞こえてきた

うるさいと思いつつ仕事を進めていたが

騒がしいだけではなく楽しそうな雰囲気に

自分たちはこんなに辛いのになんなんだ!と

イライラを爆発させ

声の元を探し移動するのであった




ーーー


富士コーポレーション4階


本来は別の課ではあるが、スペースを作り

宴会会場のような場所となっていた


バン!と勢いよくドアを開け

「うるさい!」と怒鳴り込んでくる課長と係長


「あれ?お二人ともまだ残業ですか?

おつかれさまです」と渡良瀬が言うと

1課の面々も一斉に「おつかれさまです!」と

元気よく挨拶するのであった


テーブルには豪華な食事と沢山のお酒が並び

パーティーグッズなども置いてあった


「なんで1課のお前たちがここで宴会をやっている!」

課長が怒鳴ると係長もそうだそうだと言う


「いやいやいや、1課の所だと

お二人の仕事の邪魔になってしまいますから」

と渡良瀬


「そうじゃなくて、会社でする必要はないだろ!」


「他の場所だと家が遠くなる人もいるので社長様に

ご相談したら、ここを使いなさいと言われた次第ですよ」


「・・・・・・」社長がと言われれば反論出来ない二人

しかしと


「わ、我々が大変な思いをして仕事をしているのに

楽しそうにして、お前たちには人間の心はないのか?!」


その言葉に1課の面々が声を荒げた


「お前たちだってそうだっただろ!

仕事を取ってきたと、その後は丸投げ

こっちが残業してるのに、接待も仕事と言って

定時で帰ってただろ!」

と男性社員


「そ、それは会社の為に仕事を取ってきているのだから

問題ないし、その為の接待だろ!」

と係長


「それに仕事が沢山あるって事は食いっぱぐれないし

残業代もキチンと出してるから稼げていいだろ!」

と課長


「では課長達も、今残業で稼げていいじゃないですか

更に36協定での延長でいつもより長く残業出来ていいですねー」

と女性社員


ガヤガヤと言い合いをしている面々


「俺はね、常々思ってる訳よ。仕事を作る側の人間が

処理しきれない荷物を倉庫にどんどん入れて、

あとはよろしくってやるのは仕事じゃなくて作業だってね

百歩、イヤ万歩譲ってそれを納期に合わせるように

色々と尽力すればまだいい。

でもお前たちはそれすらもしてないよな?」

といつもの口調に戻った渡良瀬

さらに


「なんで定時ってあるのか、なんで残業ってあるのか、

そこには明確に壁があるんだよ。

確かに仕事は大事だ、だけどな、ゆとりも大事なんだよ。

残業ありきの仕事なんて仕事じゃねーよ

仕事が出来るやつってのは、規定時間内で

キチンと利益をだせる奴の事を言うんだ。

規定時間内で終わるギリギリを見極めて

仕事を割り振れる奴の事を言うんだ。

想定できずに想定外ばかりで、残業ばかり?

残業ありきで仕事を組まないと利益が出ない?

そんな奴は仕事辞めちまえ!

そんな会社は潰してしまえ!」

ってレイアが言ってました!と指をさす渡良瀬


「な!!?」っといきなり振られてビックリするレイア

それもそのはず


「耳が痛いわね・・・」と

社長が現れたのが見えたからであった


「私は正直つらかったです。

夢を持ってがんばろうとしたけど

残業ばかりで他の事が出来ない日々

只寝に帰るだけの家を見る虚しさ

持てる力をフルに使っても終わらない仕事

体を壊し働けなくなっても

会社が一生面倒見てくれる訳なんてない

自分の為にがんばっても、会社の為にがんばっても

体を、心を壊したら捨てられる恐怖・・・」

そこまで言ってぽろぽろと泣き出し言葉が止まるサツキ


他の面々も同じ思いだったのだろう

涙を流し頷いている


渡良瀬は課長達の所へ行き

肩に手を回し耳元で他には聞こえないように

「お前たちは自分達の利益の為に横領してたから

あのままだったらこいつらの気持ちはわからなかっただろ?」

でも・・・と今度は皆にも聞こえるように


「今回こいつらの立場になってわかっただろ?

ゆとりの無い仕事ばかりの人生、

がんばっても先に光が見えない人生のつらさってやつがさ」


「・・・はい」と課長達も涙を流しながら言う


「年下の俺に言われるのはしゃくかもしれないけど

本当に身に染みてわかったってんなら

ちゃんとわかったって言おうぜ」


「はい」と課長達


わかりましたと言ってもらえず

チッっとみんなに聞こえないように舌打ちをする渡良瀬


「まあ、わかったならよし!」

と何だか締まらないが、

とにかくわからせたからいいかと思うのであった


その後は、課長達が他の面々にすまなかったとか

改善するとか言って回っていた

もうそこには泣き顔はなく笑顔が溢れていた




仕事も溢れているが・・・・


今日はとにかくこれで解散

明日は休みだから

明後日から全員で今ある仕事を片付けて欲しいと

社長自らのお願いに一同了承して帰宅するのであった











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