最終話:僕にすばらしい人生をくれてありがとう。

梨紅りくの家庭は母親とふたつ年上のお姉ちゃんと梨紅の三人暮らし。

僕は梨紅の母親とお姉ちゃんとはもう会ってる。


母親と父親は梨紅が物心つく前に離婚している。

父親のことを聞いても母親は「遠くにいるよ」ってだけでなにも話して

くれないらしい。


梨紅が自分の性に関して違和感を持ったのは小学生の時、自分と同じ男の子と

遊んでいて男子の中いる自分がその場に馴染めてないことに気づく。


そして彼女のすべてのはじまりは、衛星放送ではじめて見たTGC「東京ガールズ

コレクション」だった。


可愛いモデルさんたちが歩くランウェイ。

みんな可愛い衣装を着ていてキラキラ輝いて、それを見た時、自分の中で

私もあんな可愛い衣装を着てみたいって思った。

その時、梨紅の中で、何かが弾けたんんだろう。

それからの梨紅は可愛い、美しいものに心がトキメクようになった。


女の子になりたい、そう思った。


でも小学生の時は男の子と同じ格好をさせられ、同じ扱い。

中学生になっても男子と同じ学生服・・・自分の居場所はどこになかった。


しぐさや行動が、どことなくなよなよしてたせいで、クラスメイトから、

気持ち悪いって言われた。

子供は単刀直入でモノを言う・・・残酷だからね。


他の子たちとは違う・・・自分に対しても周りは様々だった。

たいがいは、「男らしくしろよ」


がんばって男子のような生き方をしなきゃいけないのかなって梨紅は

苦しんだ。

それは梨紅にとってとても辛いことの繰り返しでストレスでしかなかった。


梨紅はついに自分が男の子とは違うんだってことを母親にだけ話した。

話を聞いた母親は、梨紅を責めるわけでもなく、梨紅は梨紅のままでいいと

思うよって言ってくれた。


誰に何を言われても、自分らしくいなさいって。

お母さんが梨紅を守るからねって・・・。


おそらく母親は毎日、梨紅を見て気づいていたんだろう。

それは自分から確かめるんじゃなく、本人の口から聞くまで黙っていようと思った。

自分から告白する勇気、決断、自分を認めてあげること、それが大事だと

母親は思ったからだ。


梨紅にとって一番、困ったのはトイレだった・・・小学生、中学生の時は

いやいや男子トイレを利用した。

私は女の子なのになんで女子トイレを使っちゃいけないの?

なんで、こんなに肩身の狭い思いをしなきゃいけないの?


自由が欲しい・・・そう思った。


高校へ入ると、それはますます酷いものになっていった。

梨紅りくの居場所は、もうどこいもなかった。


梨紅はどうしようもなくなって母親に相談した。

母親は梨紅を心配して、梨紅のような子を受け入れてくれる高校を探してくれた。


それが僕が転校した、自然に囲まれたど田舎のこの高校。


梨紅はその学校で他の女子と同じように女性徒の制服を着ていいことになって

トイレも女子トイレでいいと言うことになった。

その頃には髪も長く伸びていた。

誰が、どこから見ても一人の可愛い女子高生がそこにいた。


その時点で梨紅は、少しは解放されたって思った。


たしかに校長先生や他の先生方は寛容ではあったが、それでも中には梨紅を

よく思わない生徒もいた。

たいがいの男子生徒も女生徒も梨紅に普通に接してくれたが、それも表面上

だけだった。


人は自分に危害さえ及ばない範囲で、建前上では接してくれるようだ。

どうしてもジェンダーと呼ばれる人たちに対して偏見や差別する人もいた。


それでも昭和の時代に比べたら、今の時代の方がLGBTQに関して認識も

されてるし理解もされてきつつあるので、まだマシと言えたかもしれない。


そんな梨紅だから好きな男子がいても自分からは進んで自分の気持ちを

告白することはなった。


結局、みんな、うわべでは親しそうにしてくれても、梨紅の心が孤独だった

ことには違いなかった。


そんな梨紅の過去のことなど何も知らずに、彼女に告ったのが僕だったわけで

彼女が男の子だって分かって、多少は驚いたけど、たとえそうだと分かった

としても急に態度を変えたり梨紅を嫌いになんかならなかった。


僕は性別なんか気にしない・・・男も女も同じ人間。

男だろうが、女だろうが、好きになったら、愛したらその人が僕にとって

一番大切になる人だと思ってる。


俺はゲイじゃないから、もし好きになる相手が男なら親友ってことになるんだろう。

それも愛のひとつだと思っている・・・男が女を求めるって行為、それも

愛・・・母親や父親、兄弟に対する想いもそれも愛・・・。

梨紅は男だけど内面は女なんだから俺にとっては異性以外なにものでもない。


男と女の感性を持ってる梨紅は僕の彼女くん・・・・その想いと愛情は一生

変わらないと思う。

梨紅から嫌われない限りね・・・。


梨紅の性同一性症候群「ジェンダー」と言う問題にたしかな答えはない。

ただ僕はそのことに逃げないで梨紅と力を合わせて向き合っていくだけ。


梨紅は梨紅のままで、そのままでいい・・・。

僕はこれからもお互いを信じあって高校を卒業しても、梨紅のそばに

寄り添っていく。

片時も梨紅から離れない・・彼女くんを決して孤独にはさせない。


そして半年後、僕たちの想いは変わることなく無事高校を卒業した。


僕は地元で就職し、梨紅は念願叶って理容美容専門学校に入学した。

そして梨紅の親戚の美容室でインターン生として働くことになった。


もちろん僕たちは、誰の制約も受けず、普通の恋人たちと同じように

一緒に暮らし始めた。

ふたりだけの細やかな生活、幸せのはじまり。


僕は今でも僕たちは一般の夫婦より、はるかに仲が良かったと自負している。


死について理想的に言うなら愛し合ったもの同士あの世に召される時も

一緒がいいと思うけど、それは奇跡にも等しいこと。

かならずどちらか先にあの世に召される。


僕はその別れが自分の人生において一番辛い出来事のように思う。

自分の愛した人が自分の前から消えていなくなるって悲しすぎる。


それでも定めは自分の思い通りにはならないもの。

梨紅が40才に差し掛かった頃、彼女にガンが見つかった。

ガンが見つかった時にはもう手遅れで、医者からは持って数ヶ月と

余命宣告された。


彼女は言った。


「宇宙と知り合えて愛し合えて一緒になれて本当に幸せだったよ」って・・・。


梨紅は残り少ない日々を僕と過ごし、そして僕に見守られながら

灯火が消えていくように、ゆっくりと息を引き取った。


絶対、僕のほうが先に行くって決めてたのに・・・僕をひとり残して

逝ちゃうなんて・・・。

とっても悲しいけど、僕は僕に残された人生を君との思い出と一緒に

生きて行くよ。

愛しい梨紅・・・僕にすばらしい人生を与えてくれてありがとう。


せめて梨紅の人生にとって俺と言う存在がなくてはならないパートナー

だったと思いたい。


僕の彼女くんは誰よりも世界一幸せだったと・・・そう思いたい。


おわり。



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木漏れ日の下で・・・。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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