第42話 新メンバー
「こんにちはー!小鳥遊さんいますかー!!」
チャイムを無視して大声で叫ぶ空。
どうして文明の利器を無視するのか?
あ、脳筋だからか。
「あら?皆さんお揃いでいらっしゃい」
いつもの優しい笑顔で迎えてくれる小鳥遊母。
でも、この人は探索者世界ランキング2位という、本来なら世界中の羨望を集めてもおかしくない怪物級の探索者だ。
まあ、本人は何も探しているつもりはないんだけれど。
探すとしたら、買ってきていたお醤油をどこに置いたかくらいだろうな。
六本木ダンジョンから戻った私たち5人は、そのまま阿須奈の家に来ていた。
栗花落さんには阿須奈は風邪で休みと伝えていたけど、ポーションが邪魔だからと物置(元30階ボス部屋)に無造作に収納されている小鳥遊家において、風邪などで寝込むはずもなく…。
「あ、みんなお帰りなさい!」
このようにいたって元気である。
艶っ艶の長い黒髪に、これ以上はどこをいじるところが無いのではと思う程の美貌。すらっとした長い手足の均整の取れたプロポーション。一つだけ難があるとするなら、胸がほんの少しだけ残念だということか。そして彼女は探索者ランキング世界7位という、母親に引けを取らない強カワ美少女探索者なのだ。
やはり本人は何も探していない。
「鈴ちゃんも変わらないでしょ!」
いやいや、私の方がほんの1センチほど勝っている。
私は唯一阿須奈に勝っている胸のことを子々孫々伝えていくつもりだ。
「どうだった?」
阿須奈が訊いているのは、怪我とかの話ではなくて、あくまでも動画の出来高の話。
派手に戦ってはいたけど、今の私たちがキラーマンティス程度で怪我をするようなことはありえない。
何故こんなに強くなってしまったのか……。
「私的には十分に取れ高足りているとは思うけど……。あとはみらんちゃんが編集してみないと分からないわ」
撮影中に使える部分がどれくらいあるのかを管理してくれている。
先輩が入るまでは、取れ高とか気にせずに一定の場所までって決めて撮影していたので、毎回動画の時間が変わっていたんだけど、今は毎話30分前後で収まるようになっている。
「みらん先輩は自分の出番が少ないところをカットしまくりますからねえ」
ゆめちゃんはカメラマン兼マスコット。
そのちょこっとした見た目が私の荒んだ心を癒してくれる。
私に懐いていて可愛いというのもあるけども。なにせ、人生で初めて先輩と言われたんだから、ちょっとくらい可愛がっても良いよね。
二人は研究会を立ち上げた翌日に入会してきた。
まだどこにも募集のポスターすら貼っていないというのに、どこで聞きつけて来たのか知らないけど、二人揃って入会届を持ってやってきたのだ。
部活をやっている3年生は夏休み前にはほとんどが引退する。もうすぐ7月だというのに、宇賀神先輩は大丈夫なんだろうか?もう受験の事を考えないといけない時期なんじゃないの?
「大丈夫です。私は卒業まで続けられます」
最初に一応の面談を行った時に、宇賀神先輩ははっきりとそう言った。
そんなにダンジョンに興味があったんかな?
まあ、そんなこともあって、当初の目的だったカメラマン2名は、あっという間に決まった。
みんなと相談した結果、これ以上は現状では必要ないだろうということで、せっかく作ってあった会員募集のポスターは陽の目を見ることなく封印されることになったのだ……30階の物置へ。
「失礼ね!私はそんなことしないわよ!」
「いいえ!やってますぅ!こないだの動画だって、鈴先輩が活躍してたシーンがあったのに、別カメに映ってた自分のカメラ目線のシーンを使ってましたぁ!」
「――!?いや、あれは流れ的にその方がメリハリがあるかと思ったから……」
「コメントにも、「急に激熱カットイン入ったな。」とか書かれてたんですよ」
「じゃあ良いじゃない!」
「皮肉に決まってるでしょ!」
ゆめちゃんは、どうもみらんとは馬が合わないようで、しょっちゅうこんな口喧嘩をしている。
名前が平仮名同士だと相性が悪いんかな?
ゆめちゃんが言い返す度に、頭の二つのお団子髪がぴょこぴょこ揺れる。
「2人はいつも仲が良いよねえ」
そんな2人を羨ましそうな目で見つめる阿須奈。
喧嘩するほど仲良しらしいから、別に間違ってはない。
「今回のカレンダーズ番外編シリーズ、『六本木ダンジョンパート10』の主役は鈴先輩なんですから、ちゃんとカッコよく編集してくださいよ!」
「はいはい!分かった!分かったわよ!もう…どうしてこんな生意気な子を入れたのかしら……」
「何か言いましたか?」
「何にも!何にも言ってないわよ!」
彼女の面談の第一声は――
「私!将来ダンジョン探索者になりたいんです!」
これには私や空だけじゃなく、阿須奈も驚いた顔をしていた。
身長140センチちょっとしかないと思われる小柄な女の子がそんなことを言ったんだから、そりゃあ驚く。
しかも、何故私たち「異文化発掘研究会」の目的がダンジョンだと知っていたのかという驚きもあった。
でも、それなら話が早い。実はダンジョンで動画撮るんだよとネタバラシをする時に引かれる可能性が低いだろうということで入会を認めたのだ。
「私!カメラマンで全然大丈夫です!!むしろご褒美です!!」
何がご褒美なのか知らないけども、魔物と戦いたいと言うかと思っていた私たちは、少々拍子抜けした気分になった。
まあ、そんな2人を加えて一か月。
それまでとは段違いのペースで私たちの動画はアップされていった。
そして私たち(私を除く)が待っていた連絡が届いたのだ。
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