第3章 カレンダーズ本格始動
第41話 新生・カレンダーズ
研究会が発足して3か月が経った。
まさに激動の3か月。特にここ最近の1か月は、私にとっては地獄のような日々が続いていた。
「おりゃあぁぁぁ!!」
気合いと共に突撃していく空。
それを迎え撃つは巨大カマキリことキラーマンティス。
鎌を振り上げて立ち上がっている姿は3メートルほどで、両手にある大きな鎌は鋼鉄さえも簡単に斬り裂いてしまうという。
空の突撃に合わせるように、首元目掛けて振り下ろされる鎌。
タイミングはばっちり。
さようなら空。それなりに良い奴だったよ。
――ガキイィィン!!
ちっ!キラーマンティスの鎌は、空が左手に握っていた木製のトンファーに防がれた。
もう少し根性を見せてもらいたいものだ。
「うらあぁぁぁ!!」
鎌を受けた状態で更に踏み込み、右手のトンファーでキラーマンティスのお腹を殴りつける。
見た目にはぷよぷよしてそうなのに、トンファーが当たった瞬間、ドゴオォン!!と、太い丸太が落ちてきたような鈍い音がした。
キラーマンティスは衝撃で前のめりに崩れる。
でも、こっちの方がカマキリの姿勢っぽいのではないかと思う。
「サンセットシューティングスター!!」
みらんの壁を使った落下式の飛び蹴りがキラーマンティスの頭にヒットする。
サンなのかスターなのかはっきりしやがれ。
誰がどう見ても青いつなぎを着た畑野みらんなのだけど、撮影された動画にはVtuber「永遠ノヒカリ」として映るので、その時の事を考えてそれっぽいことをやっている。
手には桃の形をしたモバイルモーションキャプチャーの『モモぴ』が装着されている。
サンタモニカランデビューを食らったキラーマンティスは床に頭部を激しく打ち付ける。
ん?カサブランカラプソディだったっけ?
「どりゃあぁぁぁ!!」
空がトンファーで右腕の鎌を叩き折った。
お前は叫び声を上げないと攻撃出来ないのか?
あと、もう少しパターン増やせよ。
「リン!!」
「リンちゃん!!トドメよ!!」
2人が私の方へ合図する。
みらんが私のことをリンちゃんと呼び始めると、阿須奈との区別がつき辛くなるのでやめて欲しいと誰かが言っている気がする。
私も脳筋と同じようにキラーマンティスに向かってダッシュ。
手には双剣『月光』と『日輪』。
小鳥遊家の物置に放置されていたレア物だ。
キラーマンティスは最後の力を振り絞るかのように、残った左腕の鎌を私に横なぎに振ってくる。
ほとんど意識は無いだろうに、これが生存本能というやつなのだろうかと、私はぼんやりと考えながらその鎌をジャンプして躱す。
そのまま天井まで跳び上がり、天井を蹴った勢いでキラーマンティスの首を背中側から交差させた双剣を一気に振り切って斬り落とした。
「よっしゃー!!」
「やったわ!!」
空とみらんの歓声が上がる。
私は双剣をくるりと回して、腰にあるホルダーへとしまった。
「ヤバいね。今のはなかなかの強敵だった」
「そうね。私の必殺のサンセットシューティングスターでも倒せなかったもの」
2人が微妙に棒読みの台詞を言っているのが聞こえる。
どうやら締めに入るらしい。
私は2人のところへ行って並ぶ。
「じゃあ、今回の動画はここまでです。今日はアスナが風邪でお休みだったけど、次回は元気いっぱいの4人で挑戦したいと思います」
「あ、みんなー!私たちへの応援や、アスナへの励ましのコメント待ってるわよ!」
「じゃ、じゃあ、次回も、み、見てねー」
「「ばいばーい!!」」
こうして今回の撮影も何とか終了した。
ここは小鳥遊ダンジョンではなく、六本木にあるダンジョンの地下8階。
地下鉄への降り口がそのままダンジョンの入り口に変化したもので、実際の地下鉄には何の影響も出ていない。ただ別の降り口を作らないといけなかったらしいけど。
一度7階に戻り、魔法陣のような模様をしている転移ポータルの上に立つ。
光が私たちを包むと、一瞬のうちに1階の入り口へと転移した。まあ、エレベーターみたいなもんなんだけど、普通はどこのダンジョンにもこういったものが各階にあるらしい。
阿須奈の家には無かったけども。
8階のポータルの位置もすでに分かってはいるんだけど、一度その階層のフロアボスを倒してクリアしないと使うことは出来ない。
動画を撮る都合上、先にフロアボスを倒してポータルを使えるようにしてしまうと、今度来た時にフロアボスが出てこなくなってしまうので不味い。
てかフロアボスって何だよ。阿須奈のとこにはそんなのいなかったぞ?
いや、ダンジョンボスみたいなのが3人ほど住んでいたけど…。
あ、あと天使が1人。
元地下鉄用の階段を上って表に出る。
しかし、そこは屋外という意味の表ではない。
ダンジョンへの入り口を囲うように作られた施設の中。
大型の図書館が丸ごとすっぽりと入ってしまう規模の建物の中だった。
「お疲れ様」
出てきた私たちを迎えてくれたナイスミドルでナイスバディな女性。
内閣ダンジョン省の
私たちカレンダーズの担当官で、基本的にはマネージャーのようなことをやってくれている。
今日の様な撮影のある時は、栗花落さんがダンジョンを貸し切りにしてくれる手筈を整えてくれている。
まあ、それも中の人を見せられないみらんの為と言ってもいいんだけども。
「成果はどうでした?」
「8階の途中でキラーマンティスを倒したところまで撮れました」
そう答えたのは3年生でカメラ担当の
研究会に入ってくれた唯一の3年生。
私を除けば、これまた唯一の常識人でもある。
異論は認めない。
「そうですか。予定通り順調に進んでいるようで何よりです」
「今日は鈴先輩が大活躍だったんですよ!凄いかっこよかったです!!」
そう言って私の腕に抱き着いてくる小動物――女子は、
この一年生もカメラ担当で研究会に入って来た新メンバーだ。
どうも最初から私に懐いているようで、何かあるとすぐにこんなふうに抱き着いてくる。
阿須奈が最初にこの子の名前を見た時――
「良いなあ。この子も名前が回文……」
ぼそっとそんなことを呟いていたのを私は聞き逃さなかった。
一度あの子の回文の定義についてじっくりと聞いてみたいと思う。そして間違っているところを添削してあげたい。多分、全編に渡って真っ赤に添削することになるとは思うけど。
てか、回文に何故にそれほどまでに憧れを持っているのか。
ちょっと答えを聞くのが怖いので、そこには触れないでおこうと思っている。
まあ、そんな2人を加えた5人が異文化発掘研究会のメンバーで、それにみらんを足して現在のチームカレンダーズとなっている。
リーダーは……私、鈴原鈴ことリン……。
どうしてこうなった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます