第43話 届いたメール

 カレンダーズの動画8本目がアップされた翌日。

 私たちの個人のSNSのアカウントに一斉に一通のメールが届いた。カレンダーズのメールアカウントではなく、私たち個々人宛にそのメールは届いたのだ。

 新しく入ったばかりの宇賀神先輩やゆめちゃんにまで。


 拝啓 カレンダーズ様


『突然のメール失礼いたします。

 私、内閣ダンジョン省で室長を務めさせていただいております、向田むこうだ真健郎まっけんろうと申します。

 この度、このようなご連絡をさせていただきましたのは、是非とも一度皆さまとお会いしてお話させていただきたいことがございまして、不躾ながらこのようなメールをさせていただきました。


 本来ならば、こちらから出向くのが筋ではございますが、そちら様にもいろいろとご事情があることかと思い、よろしければどこかでお会いできれば幸いにございます。


 このメールアカウントは政府によって万全のセキュリティとなっておりますので、ここでのやり取りの内容が外に漏れることはございません。

 ですので、皆さまでご相談いただき、お返事をいただければと存じます。


 快いお返事をお待ちしております。


                                敬具


 追伸

 同様のメールを真に勝手ながら、顧問の東海林しょうじ教諭にも送らせていただいております。』



「やっと来たかって感じだけど、さすがに国の力は凄いわね……」


 今日も今日とて何かあって集まるのはみらんの家。

 新しく2人のメンバーを加えた6人が、自分のスマホに送られてきたメールを真剣に見ている。


「形式ばった短い文章のくせに、ちゃんと私たちにプレッシャーをかけてきてるわ」


 みらんの表情は初めて見るほどに険しい顔をしている。


「お前たちのことは全部分かっている。だから大人しく交渉の場に着けって感じかしら?」


 宇賀神うがじん先輩は普段からクールで真面目な印象なので、真剣な顔をしていても、それほど変化があるようには見えない。


「入ったばかりのゆめたちのことまで調べられてるんですね……」


 ゆめちゃんは怖がるような仕草で私の腕に抱き着いてくる。

 でも私には分かる。

 内心は抱き着く口実を見つけて喜んでいるということが。


「先生にもメールを送ってる時点で、少し脅されてる感じもするな。それに、直接会いにくることだって出来るんだぞ?でも、目立って周りに知られたくないんだろ?って暗に言ってきてるし」


 脳筋も珍しく真剣な表情だ。

 あんまり考えてると脳みそ寿命が尽きるぞ?


「でも、この連絡を待ってたんだし、会いに行くしかないんじゃない?みんなで行ったら大丈夫だよ!」


 まあ、阿須奈はいつも通りだ。

 真剣にメールを見ていたと思っていたけど、よく見たらスマホの画面はカレンダーズの動画が流れていた。


「そうね。自分たちから仕掛けておいて、今更後には退けないわ。返事をして、場所と日時を決めましょう」


「みらんさん。多分、こういう時は向こうから指定されると思うわ。あくまでもご都合はどうですか?って体裁を取りながら、最終的にはこちらには有無を言わせない。そういう奴らよ」


 ん?宇賀神先輩はダンジョン省に何か恨みでもあるのかな?

 そう言った先輩の眉間には僅かに寄せられた皺が出来ていた。


「相手は高級官僚とか言われてる人種だから、高校生の私たちじゃ良いように言いくるめられちゃうと思うわ。一応会う条件として東海林先生の同伴を認めてもらうように伝えるわ。それで良いかしら?鈴原会長」


「――え?!私?!突然何で?!」


「何でも何も、あなたがこの研究会の会長でしょう?さっきからずっと黙ってたのは、私たちの話を聞きながら何か考えていたからでしょう?」


 買い被りが過ぎる!!

 いいかデコポン!人は会長になったからといって、突然その中身が宇宙人にキャトルミューティレーションされて改造されたように変わることは無いんだぞ!


 うおっ!みんなの視線が私に集中している!

 ゆめちゃんに至ってはほっぺにキスされるんじゃないかって距離から私を見て――こら、目を閉じるんじゃない。

 えっと、どうしよう……みんなを観察してて何も考えてなかったなんて言える雰囲気じゃない。


「あの、あの、あの……しょ、東海林先生だけじゃなくて、阿須奈のお父さんにも同伴してもらえたりしないかな!」


「私のお父さんに?仕事が休みの日だったら多分来てくれると思うけど」


「ああ、そうね。阿須奈のお父さんだったら男の人だし体格も良い。東海林先生に来てもらっていても、相手に女ばっかりだと舐められるかもしれないわね。じゃあ、こちらからの要求は、日曜日で阿須奈と東海林先生の時間のある時で、2人が私たちに同行することが条件で良いかしら?」


「いや……」


「まだ他に付け足したい条件があるのかしら?」


「その、会う曜日は、出来れば平日が良いかな?って……。それも阿須奈のお父さんが仕事から帰ってきてすぐくらいの時間が……」


「はあ?どういうこと?何でそんな具体的な時間なの?それに仕事終わりで疲れてるところに、政府の人と会うから付いてきてなんて頼むとか失礼でしょ?」


「――なあ阿須奈。鈴が今言ったことってお父さんに頼めないかな?」


「阿比留まで何言ってるのよ?!そんな時間をわざわざ選んで何の意味があるの?!」


「多分、お父さんは喜んで付いてきてくれると思うけど。最近、私と一緒にお出かけしてないから少し寂しそうだったし」


「いや、別に娘とデートするって話でもないんだけど。……まあ良いわ。放課後だったら東海林先生も顧問として私たちに付きあう時間が取れるでしょうから、よく分からないけどそう返事しておくわ」


 私と空が小鳥遊父を何故そんな時間に同伴させようとしているのか。

 その理由が分かっているのは私と空だけだった。


 思い付きで話してみたけど、これは意外と良い作戦だったかもしれない。


 こうして私たちは3日後の金曜日の放課後、ダンジョン省の室長だという向田さんに会う事となった。



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