第37話 転校生は気付いていた?

「一応確認するけども、あの動画に映っているダンジョンが小鳥遊さんのお宅なのね?そして、小鳥遊さんはその中で生活していると」


「はい!私は生まれた時からあの中で生活しています!」


 東海林先生が顧問を引き受けてくれると決まったからか、阿須奈のテンションはいつも通りに戻っている。

 そして私のテンションはがた落ちだ……。


「じゃあ、さっき言った『UNKOWN』の3人はあなたたちご家族で間違いないのね?」


「えっと、私が7位だと言うのは確認したんですけど、他の2人はちょっと分かりません」


 いや分かるよ。

 後から産まれた阿須奈が7位なんだから、その上にいる2人はどう考えても――


「まあ、間違いなくあなたのご両親でしょうね」


 そうなるよね。

 2位がお父さんで、4位がお母さん。


「おそらく2位の人がお母様で、4位がお父様。まったくとんでもない家族がいたものだわ」


「え?!逆じゃないんですか?!お母さんの方が上って……」


 普通、先頭に立って戦ってそうなのは男の人じゃないの?

 しかもあのオーガみたいな見た目だし。


「鈴原さん。そんなにお母様の方がランキングが上なのが不思議ですか?」


「……はい。不思議です」


「あ、私も逆だと思ってました」


 空もやはり私と同じように考えていたようだ。

 あれだけビビり散らかした相手だけに、鬼のような強さを想像していたんだろうねえ。


「阿比留さんもですか。――小鳥遊さん。あなたはどう思いますか?」


「私は東海林先生の意見に賛成です」


 え?!阿須奈、あんたは一番二人の強さを理解しているはずでしょ?!それが何で?!


「小鳥遊さんは理解していたようですね」


「阿須奈……どういうこと?」


 ほんの少し前に自分のランキングの事を知った阿須奈。その阿須奈だけが理解していること?


「鈴ちゃん、空ちゃん。2人は私にランキングって何で決められてるって教えてくれた?」


「それは累計のポイントだろ?魔物を倒した時に自動で加算されていって、どういう理屈なのかまでは知らないけど、国連にある集計システムで計測されてランキングが発表されてる」


「私も…今の空が言った事と同じようなことしか知らない」

 だからこそ、子供の頃からダンジョンで生活している阿須奈が、世界中の猛者を押しのけて、世界第7位なんてシングルランカーの座にいるわけだ。


「2人はお父さんの方がお母さんよりもいっぱい魔物を倒していると思っているんだね」


「え……そりゃそうなんじゃ……」


「鈴原さん。小鳥遊さんの家がダンジョンなのよ?普段、家には誰がいるのかしら?」


「――あ!!」


 そうか……やっと2人の言っている意味が分かった。


「どうやら分かったようね」


 東海林先生は私が初めて見る笑顔を見せた。

 こうして見たら年相応に見えなくも――


「あら?何か他にも分かったことでもありましたか?」


「いえ!特筆すべきようなことはございません!!」


 笑顔って、一定のレベルを超えると恐怖を与えられるものなんだな……。


「阿須奈のお父さんは昼間仕事で家を出ているから、その間の家事をやっているお母さんの方が魔物を倒している」


「そうね。私はそう思っているわ。ダンジョンの中で生活しているのなら、家事をする為に普段から家の中?ダンジョンの中?を動き回っているはずね。トップ10に入るような実力をもつ小鳥遊さんのお母様にしてみれば気にも留めないレベルの魔物しか生活圏には出ないでしょう」


 それは阿須奈にしてみても同じだけどね。

 あ、鏡花ちゃんはどうなんだろう?幼過ぎて魔物と戦っているとか思ったこともなかったけど、あの子もあの家の中を移動してるんだよね……。もし、1人でトイレに行けるのなら3階のグリーンキャタピラー。お風呂に行けるなら5階のスケルトンや、あのデカい蛙なんかも倒せるということになる……わずか7歳で。


「先生のおっしゃる通り。お母さんの趣味は掃除ですから、毎日10階まではきちんとやってるみたいです」


「――じゅ!?」


 まあ驚くよね。

 先制だって阿須奈一家が強い強いって理解して話してても、それが実際にどんなもんかは分からないからねえ。

 特に世界ランカーのレベルなんて、軽く先生の想像の上をいったんだろうね。


「……家の掃除で地下10階……ですか?」


 これで物置が30階にあって、阿須奈が1人でポーション取りに行ってるとか聞いたら気絶するんじゃなかろうか?


「あ、あの、先生。阿須奈の家のことは、また日を改めて聞いた方が良いかと……」


 じゃないと先生の精神衛生上よくないと思う。

 普通の人なら驚くだけで済むだろうけど、元探索者でダンジョンの厳しさを経験している先生にとっては、その凄さがリアルに伝わってしまうのだろう。

 これで物置が30階にあって、阿須奈が1人でポーション取りに行ってるとか聞いたら気絶するんじゃなかろうか?


「そ、そうね…。顧問になるのだから、これから訊ける時間はいくらでもあるでしょう」


 その時は覚悟を決め――


「あ!!」


「どうしました?!」


「鈴ちゃん、びっくりしたよお」


 あることに気付いた私は、つい大声を出してしまった。


「先生。もしかしてですけど……阿須奈の家に行ったりとかする感じですか?」


「そうですね。顧問になった以上、受け持った生徒がどのようなところで撮影をするのか確認する必要がありますからね。それに小鳥遊さんのご両親にもご挨拶をしないといけないでしょうし」


「そう、ですか……」


「それが何か?」



 私の脳裏に浮かんでいたのは小鳥遊父の姿。

 あれに挨拶に行くのか……。


 お母さんの方も世間と感覚がズレてるから、とんでもない事を言いそうだしなあ。

 先生大丈夫かな?


「なあ、鈴」


 さっきから本当に石になったのかと思うくらい黙りこくっていた空が、私の袖を引っ張りながら声をかけてきた。


「何?今は先生の精神が今後崩壊するかどうかの瀬戸際を行ったり来たりしている大事なところなんだけど」


「鈴原さん。私の精神はちゃんとしてますよ」


「結局、何で阿須奈のお母さんの方がランキングが上なんだ?」



 お前はそのまま石になってしまえ。



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