第36話 転校生は完全にバレた?

 おかしな沈黙が流れた。

 私は悪くない!事実を言ったまでだ!


「鈴ちゃん……」

「鈴……」


 同情した目を向けてこないでくれるかな?

 あなたたち2人も含まれてるんですからね。


「まあ…事情は分かりました。鈴原さんも強く生きてくださいね」


 はい泣きまーす。


「あなたたちがダンジョンですでに活動していて、一定の探索者のレベルにあるのは理解しています。特に小鳥遊さんは目を疑うほどです。呆れるくらいに強い……」


「ありがとうございます!!」


 阿須奈。半分は褒めてないからね。


「でも、これから入ってくるかもしれない人はどうでしょう?完全な素人をつれていって、その人たちの安全をあなたたちは保証できますか?どこから恐ろしい魔物が襲ってくるかもしれないダンジョンの中で、自分たちが戦いながら護れますか?」


 東海林先生の言う事は正しい。

 それは私――私たちも危惧していたことだ。

 でも実際は――


 ――家の中だから安全だよ!!


 そんな阿須奈の言葉に納得してしまっていた。

 改めて考えると意味が分からない。

 家の中だけどダンジョンでしょ?いや、ダンジョンが家なのか?ん?んん?

 まあ、それはさておき。阿須奈の強さをもってすれば、戦いながら護ることは容易いことだと思う。

 でもそんな事を言って東海林先生が納得するとは思えないし、そもそも先生に阿須奈の家のことや、ランキングのことをバラす予定も無かった。ただ黙って活動するつもりだったんだから、今の私たちに先生を説得できるだけの材料はない。


「私の家の中だから大丈夫です!!それに、私こう見えて世界7位らしいんで!!」


 そう。そんなことを言って納得してくれ――

 言った!!全部言った!!

 秘密とか何とかかんとか全部丸ごとひっくるめて言っちゃった!!


「「阿須奈!!」」


 反射的に私と空が叫ぶ。

 阿須奈はその声に可愛らしい……驚いた顔をしていた。


「え?え?何?どうしたの二人とも……」


 私はそおっと先生の方を見ると、先生は額を押さえて溜息をついていた。


「先生……。あの…今のは……」


 私は何とか今のことを冗談だと誤魔化そうと脳みそをフル回転させながら先生に話しかける。

 頑張れ私の灰色の脳細胞!!こんな時の為に普段休ませてやってるんだろう!!

 うおぉぉぉぉ!!


「あなたたち……。どうしてそう素直なのかしらね……」


 いえ違うんです!今の阿須奈は素直に真実を語ったわけではないんです!!

 犯人を庇っての発言、そう!真犯人は別にいるんです!!


「2人がそんな反応したら、小鳥遊さんが言ってるのが本当だって証明しているようなものでしょう」


「そう!真犯人は私たちだ!!」


「鈴ちゃん?!急に何の自白?!」


 使えねーな!!私の脳みそ!!


「分かりました。顧問の件、私が引き受けましょう」


「本当ですか?!」


 なんでそうなった?!

 むしろ引き受けない流れでしょ?!

 ダンジョンに女子高生が素人連れて入ろうって言ってるんだよ?!

 めろめろ!!危ないから絶対に認めないって言って!!


「本当です。それと、活動拠点になる部屋はここを使ってください。許可はすでに申請してありますから」


 ……え?どういうこと?

 許可はすでに申請……してある?――はいい?


「え?それって最初から……」


「勘違いしないでください。申請はしてありますが、引き受けるかどうかは今決めたことです」


 だから何でさっきのやり取りでそうなるの?!

 こいつは何言ってるんだ?!


「鈴原さん。こいつ何を言ってるんだって顔してるわね。――私も、かつては探索者だったのよ」


「――え?!」


 東海林先生が……探索者?

 生まれた時から先生だったんじゃなくて?


「私にも幼少期はありましたけれども?」


「で、ですよねー」


 やばっ!石にされるかと思った……。


「大学時代にダンジョンに興味があった私が入ったのがそういうサークルだったのよ。だからサークル活動としてやっていただけ。そしてその時の最高到達階層は7階層。それも強い仲間に護られながら。それが当時の私の限界だったわ」


 7階層……。

 大学のサークル活動としてなら十分に凄すぎる記録だと思う。

 何人で潜ったのかは分からないけれど、弱い人たちがたくさん集まったところで行けるような場所じゃない。少なくとも阿須奈と借りた武器ありきで戦っている今の私たちじゃ敵わないくらいの強い人たちだったはずだ。

 東海林先生がそのメンバー?

 そんな昔だったら、まだそれほどダンジョンが解明されてない頃でしょ?いや、もしかしらたダンジョンが出来てすぐとか……。


「鈴原さん。私はまだ32歳ですよ?活動していたのは10年ほど前までです」


 鈴原鈴は石になった。

 誰か私を教会に連れていってくれー!!


「え?さんじゅう――」


「私の歳の事はどうでもいいです」


 阿比留空も石になった。

 こいつはその辺に置いておけば誰かがお供え物でもしてくれるだろう。


「そんな私ですが、その時に仲間たちの戦っている姿をたくさん見てきています。ですから小鳥遊さんが異常なくらいの強さだというのも、ほんの僅かですが理解することができます」


 ああ……それで最初から阿須奈が強いって言ってたのか。


「そして先ほどの小鳥遊さんの発言で私の中の推測が全て繋がって確信になりました」


「え?私の?」


「ええ。あなたたちの動画は3本とも観させてもらっています。あなたたち以外、誰も探索者のいない謎のダンジョン。異常なまでの強さを見せる小鳥遊さん。最初は素人の動きだったのに、あっという間にレベルが上がっている事が分かる動きを見せる阿比留さん。態度がおどおどしてるのに怖がっているというより映ることを嫌がっているだけに思える鈴原さん」


 だって本当に映りたくなかったんだもん。

 怖さだって当然あったよ。魔物怖いんだからさ。

 ……でも、阿須奈がいるし、家の中だしってどこかで安心していたのも事実。

 そうか、最初は怖いからやりたくなかったんだけど、いつの間にか身バレしたくないって気持ちの方が強くなってたんだ。


「決定的だったのは、あなたたちの使っていた武器ね。あんな業物はベテランの上級者でも持っていないし、いくらお金があっても市場に流れてくることもないような代物なのよ。おそらくは動画を観た政府の関係者あたりがあなたたちを探している頃でしょうね」


「うぴょお!?」


 噛んだー!!

 驚きすぎて、たった3文字を噛んだ―!!


「あんなの振り回してる女子高生がいたら、国としては早めに身元を押さえておきたいと考えるのが普通でしょう。もう少し自重するべきだったわね」


 阿須奈が何気なく貸してくれた武器だったから……。

 そりゃあ私たちだって派手な事したらマズいのは分かってましたよ。だから最初から阿須奈には力を押さえて、普通に戦ってる風に見せてって言ってたんですよ?

 じゃないと阿須奈の姿がカメラじゃ捉え切れないから。


「まあ、そんなわけで、小鳥遊さんが特殊な環境で育っているんだろうと考えたのよ。例えば――生まれた時からダンジョンに住んでいる、とかね」


「そんな無茶苦茶な推測……」


 立つはずがない。

 ダンジョンに住んでいるなんて話は聞いたことがないし、もし思いついたとしても――


「私も自分で何を馬鹿な事をと思ったわ。でも他に思いつかなかった。そして思い出したのよ。『 UNKNOWN』のランカー3人の事を。そして小鳥遊さんの言葉でそれが真実だったんだって思ったのよ」


 ……凄いな。

 本当に自力で阿須奈の秘密に辿り着いたんだ……。


 ……ん?考えたらどれも秘密じゃないんじゃない?

 ランキングのことは阿須奈もこの間まで知らなかっただけだし、家がダンジョンだってことは前の学校も含めて自分から言ってることだし……。カレンダーズの正体に関してなんて、阿須奈は全然バレることとか気にしてないみたいだし……あれ?秘密にしたかったのは私の方なの?


「あなたたち――本当に正体を隠したいんだったら、畑野さんみたいに、せめて名前は偽名を使いなさいね」



 おっしゃる通りでございます!!



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