第33話 転校生は研究会を作る?

「えっと……異文化、発掘、研究会?」


「はい!そうです!!」


 戸惑いの表情の立華先生と、清々しいまでの笑顔の阿須奈。

 戸惑いの表情の私と、緊張で引きつった笑顔の空。

 放課後の職員室。そんな私たちに周りの先生たちが何事かと見てくる。


「それをあなたたちが作りたい、と?」


「そうです!3人いれば研究会。5人以上で部活動として許可が下りるとお聞きしました!」


 これが阿須奈の思いついた事。

 そして私が考えていた事だ。

 空が部活を辞めたと聞いた時に閃いたんだけど、決して言うまいと口を閉ざしていた。

 こちらから知り合いを誘うには限界がある。なら、向こうから興味をもって来てもらえば良い。

 でも、活動内容を大っぴらにしてしまうと、世間に身バレする可能性が格段に上がる。というよりも確実にバレる。

 そこで――


「活動内容はダンジョンの存在と、その出現理由についての研究です!」


 あくまでも今あるダンジョンの情報を元に、私たちが勝手に考察や研究をするだけというのが建前。

 もちろん人選は慎重に行わなければいけない。入って来た以上はダンジョン探索に付き合ってもらわないといけないんだから。

 口が堅く、度胸があって、私たちと上手くやれそうな人。とりあえず裏方候補なので、それ以上の条件は今のところ考えていない。

 入ってくる時点でそれがどこまで分かるかという問題点はあるけど、巻き込んでしまえば本人も身バレしたくないだろうからね。


「まあ、あなたたちが研究会を作ることに問題は無いのだけれど、研究テーマが…その…あまり女の子がやるような内容じゃないんじゃないかな?っては思うわ」


「私たちダンジョンにとても興味があるんです!ね?」


 振り返って私たちに同意を求めてくる阿須奈。

 少なくとも、私は興味無いんだけどなあ……。


「は、はい!そうです!私たちダンジョンにめちゃめちゃ興味深々なんです!研究会の設立をどうか認めてください!!」


 空。そこまで言うと逆に怪しすぎるぞ。


「……分かりました。私だって生徒の自主性を妨げるような真似はしないわよ。そもそも私に認めるとか認めないとかって権限は無いしね」


 そういうと立華先生は机の上にあった書類入れから一枚の紙を阿須奈へ渡してきた。


「はい。これが申請用紙。今回は部活じゃなくて研究会だから――ここにチェックを入れて、この所属者のところに3人の名前を書いてね。それと、監督者となる顧問の先生のサインも貰ってきてください」


 え?顧問?


「あの……研究会でも顧問の先生が必要なんですか?」


 こいつは盲点だったぜー!


「そりゃそうよ。研究会でも活動拠点としての部屋を決めないといけないし、その部屋に放課後に残ることもあるでしょう?あと、休日とかに研究会として校外活動を行うなら、顧問にちゃんとした申請が必要になるわね。まだ顧問の先生は決まってないのかしら?」


「阿須奈、どうす――」


 る?ここは一旦諦める?と引き上げる気満々の私の言葉を遮るように――


「立華先生が顧問になっていただけないでしょうか?」


 阿須奈のこの物怖じしない性格は見習いたいと常々思う。

 自分以外が全員かぼちゃに見えているんじゃないのかな?


「え?私?ああ、私は無理かな。一応、料理部の顧問をすでにやってるから」


 料理部?立華先生が?

 掴む胃袋の相手もいないのに?


「鈴原さん。私が料理部の顧問だと何かおかしいかな?」


「いえ!!とてもお似合いだと思います!!」


 あれ?今、初めてグリーンキャタピラーに会った時よりも恐怖を感じたぞ……。


「阿須奈。一旦顧問をどうするか考えてから出直そう。別に今すぐ決めなきゃいけないことでもないしな」



「そうね……。でも、誰かやってくれそうな先生いるかなあ?」


 女子高の教師でダンジョンに理解のある人を捜すことには無理があるよね。

 基本的にほとんどの先生が女性だから、引き受けてくれる人を見つけるのは難しいと思うよ。

 このまま規模拡大キャンペーンが終息に向かう事を願……わないよ。

 何故なら!!

 私がネガキャンをする度に逆の方向へ進んで行くから!!

 なので、ここで私の取る選択は――


「大丈夫だよ!先生はいっぱいいるんだから、誰か一人くらいはダンジョンに興味を持ってくれる人がいるって!私も探すの頑張るからさ!!」


 今回は逆張りでいく!!


「鈴原さん……。あの無気力で寝てばかりいて全然授業を聞いていないあなたがそんなにやる気を出すなんて……」


 酷い言われ方だな!

 私にも自己肯定感があるんだぞ!


「分かりました!そこまでやる気があるんだったら、私も手伝いましょう!」


 え?――いやいやいやいや!!


「ダンジョンに興味を持っている、というか詳しい先生に一人心当たりがありますから、その方に私の方から声をかけておきます」


 コラコラコラコラ!!


「明日の放課後にもう一度職員室に来なさい。あなたたちの話を聞いてくれるように伝えておきます」


「本当ですか?!」


「ええ。でも、その先生が引き受けてくれると決まったわけではないですから、そこはあなたたちで説得してね」


「はい!もちろんです!!」


「おお、鈴が突然やる気を出してくれたお陰だな!」


「駄目な時の逆張り…の逆……は表?」


「どうした?何をぶつぶつ言ってんだ?」


 うん。私も何を言ってるんだろうと思ってるよ。



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