第32話 転校生は閃いた?

 カレンダーズが3本目の動画を上げてから1週間。

 再生数は80万再生を超えていた。

 そして、その余波を受けてなのか、最初の動画に関しては100万再生を突破するという大惨事になっている。

 これを大惨事と言わずしてなんと言おうか!!


「大人気じゃない?」


「その意見は却下する!!」


 睨み合う私と空。

 特にそんな私たちに興味を向けることも無いクラスメイトたち。

 今日も穏やかな朝の時間が流れていく。


「良いから二人とも早く席に着きなさい」


「イエス!サー!!」


 立華先生。いつもご迷惑をおかけして申し訳ありません!!



「で、どうするよ」


 昼ご飯のおにぎりを一気に平らげた空がぶっきらぼうに話を切り出してくる。

 別に機嫌が悪いわけじゃない。口が悪いだけだ。


「私は…まだ2人以外に親友と呼べる人がいないから……」


 阿須奈は前段階の友達を飛ばすからそうなるんだよ?

 休み時間になったら話しかけてくるクラスメイトがたくさんいるじゃん。

 名前は覚えてないから誰か知らないけど。


「私も誘えるような友達はなあ…。鈴は元々問題外だろうし」


「はあ?お前私の何を知ってるって言うの?」


「じゃあ、誰かいるのか?」


「いません!!よく知ってらっしゃる!!」


 私たちがコントをしている理由は――


「コントじゃない。話し合いだ」


 話し合いをしている理由は、みらんの提案によるものである。


「人手が足りない!前にも少し言ったけど、私たち4人が表に立つんだとしたら、どうやったってスタッフが足りない!交代でカメラ役をやってたら、4人が一度に映るシーンが全部固定カメラになっちゃるじゃない。そんなの勿体なさすぎる!」


 私はずっとカメラで良いと提案したのだが、3人の脊髄反射的な反対を受けた。

 せっかく戦えるようになったのが意味ないとのこと。

 撮影の為にレベル上げしたんじゃないよ?鏡花ちゃんのお肉の為だよ?


「あんたたちは学園に通ってるんだから友達の1人や2人や10人くらいいるでしょ?その人たちをスタッフに誘ってきたら良いのよ!」


 じゃあ、お前も友達に声かけろよと言ったところ、


「私に友達がいると思ってるの?」


 そんな自信満々に言う事じゃないよ。


 そして私、空、阿須奈の3人が人を集めることになった。

 仕事内容的に、女子高生を誘う案件じゃないと思うのだけれど……。


 基本的にぼっちの私、人見知りの激しい空、転校したての阿須奈の3人にはハードルが高すぎた。むしろ下を潜れるくらい高い。


「空の部活の人とかは誘えないの?」


 サボりまくってはいるが、これでも一応ソフトボール部のエースだ。


「あ、ああ……それは無理かなあ……」


 脳筋ゴリラにしては歯切れが悪い。

 どうした?盲腸でも落としてきたか?


「私、辞めたからなあ……」


「はあ!?」


「え!?空ちゃん、部活辞めちゃったの?」


「サボりすぎてクビになったの?」


「違うわ!ちゃんと自分から辞めたんだよ。もう部活やってる意味がなくなったから…」


 ああ……そうか。

 もともと空が部活で鍛えていたのは卒業したら探索者になる為だった。

 それなのに阿須奈の家でそれが叶った今となっては、わざわざ外で体を鍛える必要が無くなったのか。


「じゃあ、これからは毎日一緒にいられるね!」


 阿須奈。今はそうじゃない。


「ああ、これで撮影に集中出来る」


 そうだったみたいだ。

 あれ?もっとこう……しんみりとする流れじゃないの?


「でも、それなら部活の子には声かけずらいよね」


「まあ、な。いきなり辞めちゃったから、怒ってる奴もいるだろうし」


「じゃあ、みらんはああ言ってたけど、この4人でしばらくやる方が良いんじゃない?」


 これ以上規模を大きくして注目を集めたくない。

 手遅れ?知らんがな。

 私は常に逆張りを続けていくのだ。


「阿須奈はどう思う?外部の専門家を雇うっていう方法もあるにはあるけど」


 外部だと!?

 冗談じゃない!!そんなのは自分たちの情報を漏らすようなもんじゃないか!!

 ネットリテラシーって言葉を知らんのか?

 ねっとりテラシ―じゃないよ?


「私は……知らない人が家に来るのは嫌だなあ」


 つい忘れがちになるが、そうだ、撮影するのは阿須奈の家の中だった。

 そりゃ嫌だよね。誰か分からない人がぞろぞろと家の中に入ってくるのはさ。

 いや、私たちだって入り浸ってたら嫌でしょ?

 だから撮影自体をそろそろ――


「でも、それが学園のお友達だったら嬉しい!だからみんなで頑張って集めよう?」


 こういう子だったよ……。


「でも、それが難しいからって話をしてるんだよね?」


 だから素直に諦めなさいって。

 動画を辞めたってなっても、私たちが友達なのは変わらないよ。

 もしろそれが健全な友人関係だと思うの。間にダンジョンが挟まってる方が異常なの。


「それは分かってるんだけど……」


 ちょっと落ち込んでる風の阿須奈。

 可哀そうだとは思うけど、何としても規模拡大の方向へ舵を切らず訳にはいかないのだ!


「まあ……現状だと手づまりではあるわな……」


 空も良い案が浮かばない様子。

 あと一押しで、この話は一旦は保留になりそうだ。


 実は私には1つだけ思い浮かんでいる事があった。

 この学園で人を集めることが出来そうな方法を。


 でも、そんな自爆は絶対にするわけにはいかない。

 私は勝手にしゃべり出す口を両手で必死に押さえた。

 あと少しだけ我慢しろ!


「もが!もががが!」


「お前、何やってんだ?」


「――あ!私、良い事思いついた!」


「え!?」

「もが!?」


「あのね――」


 阿須奈の思いついた事は、私が思いついて封印しようと激闘を繰り広げていた内容と同じだった。


 あれ?漏れてました?



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