第34話 転校生は顧問を見つける?

「研究会?学園でそれを作ってメンバーを募集するっていうの?」


 今日も私たちの集合場所はみらんの家。

 ここ数日で、すっかり定着してしまった感がある。というのも――


「お嬢様。失礼いたします」


 メイドカフェとかコスプレとかじゃない本物のメイドさんがカートを押して部屋へと入ってきた。

 おやつキター!!

 これが目的で、撮影には後ろ向きダッシュな私が強く推しているからだ。


「そうなの!それで募集したらいっぱい集まってくれるんじゃないかな?って!」


 いっぱい集まるのは困る。メンバーが増えればそれだけ身バレの可能性が上がっちゃう。でも、最初から阿須奈はそのことについて全然何とも思っていない。何なら撮影場所が自宅だとバレることすら気にしていない。

 絶対にバレたくない私にとって、一番の地雷はすでに身内にいるのだ。


「ふん。まあ悪くないアイデアじゃない?外部の人間に頼むよりは、同じ学生の方が共通の意識を持てるだろうし」


 みらんの言う共通意識というのは、私が考えている身バレ等の個人情報の漏洩についてだろう。

 でもお前はそもそも顔出してないからな!


「ああ。一応メンバーの厳選はするつもりでいるから、そのあたりは大丈夫だと思う」


「でも、入ってから騙されたとかって騒がれるのは嫌よ」


「そのへんは慎重にやらないととは思ってるけど、そもそもダンジョンの研究会に入ろうってくる奴はどっかネジが緩んでそうな奴だろうから大丈夫じゃないかな?」


 緩んでるどころか何本も外れてるのが私の目の前に3人ほどいますけど?

 何なら私のネジを緩めようとしてきてますけど?


「私はお前が一番ぶっ飛んでると思ってるけどね」


「ほおいふほほほ!!」


「口の中のケーキを食い終わってから喋れ。何言ってるのか分からないから」


 じゃあ何でその前の心の声は聞き取れたんだよ。


「それに担任の立華先生も協力的で、顧問になってくれそうな先生に声をかけてくれるって言ってくれたの」


「立華先生ね。まあ、あの人は嫌いじゃなかったわ。でも作るのは研究会でしょ?顧問なんて必要なの?」


「研究会でも部室みたいな活動する教室が必要なんだってさ。放課後残ったり、野外活動をするときは申請しないといけないからだって」


「ふうん。結構面倒なのね。じゃあ、その顧問にも全部バラすって事になるわね。ダンジョンに入ることに許可くれるのかしら?」


「――あ」


 空が驚いたような顔で私と阿須奈の顔を見る。

 お前、気付いてなかったのか。この悪魔のトラップに。ケケケ!!

 許可なんて出すわけないよねえ。自分の受け持っている生徒が超超超危険なダンジョンに入るなんて言ったらさあ。むしろ全力で止めにかかるか、最悪研究会の解散だってあり得る。

 私は気付いていたよ。顧問が必要だって言われた時からねえ!!


「うひゃひゃひゃひゃ!!」


「鈴ちゃんどうしたの?急に変な声出して……」


 おっと、歓喜の声が漏れ出してしまった。


「確かに…それは厳しいかもしれない……」


「普通は許可出すなんて真似はしないと思うわ。生徒が怪我でもしたら大変だしね」


 ダンジョンは怪我で済むようなところじゃないけどね。阿須奈の異常な強さと、理不尽な武器があるからこそ成立してるようなもんだ。


「まあ、そこは誤魔化してやるしかないね。表向きは普通にダンジョンについて調べてるって感じにしてさ」


 そんな嘘はいつか必ずバレる。そして全ては私の思い通りに!!


「もし先生が許可してくれなかったら、今まで通り私たちだけでやれば良いよ!メンバーは何とかして探そう!」


 ん?阿須奈さん?そこは諦めるところじゃないのかい?


「そうだね。研究会が駄目でもカレンダーズが解散するわけじゃないんだし」


 いや、そこは全てを諦めてですね…。


「で、その学園の研究会の活動に、すでに退学している部外者の私が入っても大丈夫なのかしら?」


「「――あ」」


 みらん……短い付き合いだったね。




 あれから話し合った結果、どうせ許可は下りないだろうという予測から決まったことは、学園側にはダンジョンの研究をしているという偽装を行うこと。ダンジョン内の活動や配信活動については秘密裏に行う事。増やすメンバーは多くても3人までにするということ。

 ざっとまとめればこの3点だった。

 それでも私の「学園にバレてカレンダーズ活動停止大作戦!!」は一歩前進したといえる。

 絶対にいつかバレるさ。そして大人たちの説得が始まるに決まっている。


 そして次の日の放課後。

 昨日言われたとおりに職員室へ向かう私たち3人。阿須奈と空は緊張した表情をしている。

 私はどっちに転んでも構わないので気楽なもんだ。


 職員室に入り、立華先生の席へと向かう。そこでは立華先生と仁王様――東海林先生が話をしていた。


「あ、待ってたわよ」


 近づいてくる私たちに気付いた立華先生が手招きをして呼んでいる。


「お話し中でしたら後で構いませんよ」


 仁王様の鋭い視線を感じて私はそう言った。


「良いのよ。今ちょうど東海林先生にあなたたちのことを話していたところなの」


 ???

 何故に仁王様に私たちのことを?


「あなたたちがダンジョンの研究をしたいと?」


 常に怒っているように見える仁王様なので、普通に話しかけられるだけでも威圧感を感じる。


「はい……。そう……です」


 たまたま仁王様の真正面に立つことになってしまっていた空が返事をした。

 お前のそれは怖がってるのか人見知りが発動してるのか分からんな。


「分かりました。詳しい話を聞きましょう。3人ともついてきなさい」


「え?それはどういう……」


 何故東海林先生が話を聞くことに?


「鈴原さんどうかした?」


 戸惑っている私に立華先生が不思議そうに声をかけてくる。


「いや、どうして東海林先生が話を?」


「え?昨日言ったじゃない。顧問になってくれそうな先生に声をかけておくからって。東海林先生はこう見えてもダンジョンのことについては学園一詳しいのよ」


「立華先生。こう見えてもとはどういう意味でしょう?」


「あ…すいません。失言でした……」


 ……仁王様が顧問?ダンジョンに詳しい?


 嘘でしょう……。



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