第30話 転校生は料理を習う?

「とりあえずスライムはもう良いんじゃない?」


 空はスライム切断作業に飽きたようで、黒剣をくるくると回しながらそう言った。

 それどうやってるんだ?

 お前の方が絶対に器用だろ?


 秘密特訓したみらんまでとはいかないまでも、もともと探索者を目指していたという空のレベルは高い。

 この家?に来る度に積極的にスライム退治をしていたからだ。

 ずっと阿須奈の背中に隠れていた私とは段違いの動きを見せている。


「じゃあ次はグリーンキャタピラーのとこ行く?」


 1、2階にいる魔物は全部スライムばかり。

 そのスライムにしたって今はこうやって簡単に倒してはいるが、本来なら殺傷能力の高い魔物で、普通の人間なら簡単に飲み込まれて溶かされてしまうのだそう。

 へえ、そうなんだ。

 じゃあ、私が放置された芋虫たちってもっとヤバいんだよね?

 改めて考えてみると結構酷くない?私殺されかけたんじゃない?

 すっかり慣れちゃってたけど、やっぱり阿須奈の感性って世間一般のものとは天地ほどの開きがあるよね。


「えっと、あの芋虫も私たちだけで倒すの?」


 そんなことを考えていると、あれに一人で立ち向かうのはかなり怖い。

 あの時のトラウマが蘇ってくる。


「そりゃそうでしょ?じゃないと意味ないじゃない」


 何言ってるんだコイツってな目で見てくる空。

 いや、お前が何言ってんだコラ。


「鈴ちゃん。心配しなくても大丈夫よ!あんなのはただの虫だから!」


 そんなことを言えるのは貴女たちだけでございますよ。

 どうにかして私だけでも帰ることは出来ないかと脳みそフル回転させていると――


「わたしもさっきからおトイレいきたかったんです」


「芋虫がなんぼのもんじゃい!!さあ、阿須奈!空!3階へ行くよ!!」


 鏡花ちゃんがおもらししちゃう前に早く行かないとね!




 先日の撮影以来となるグリーンキャタピラーはやっぱり気持ち悪かった。

 大きな体をうにょうにょとさせながら迫ってくる様子は、前に5階で見たスケルトンよりも生理的に受け付けない。

 ただ、その時よりも動きは明らかに鈍く感じた。これがレベルが上がっているということなのかな?


「とりゃー!!」


 空はやはり何のためらいもなくグリーンキャタピラーへと向かっていく。

 口から吐き出す粘着性のある糸も簡単にステップで避けて、一気にその懐へ入り込む。

 そして黒剣を一閃。

 上下に真っ二つになったグリーンキャタピラー。

 その無数にある手?足?はしばらくの間うにょうにょ動いていたが、やがて床に吸い込まれるように消えていった。


 キモッ!!

 見た目も動きも消え方も全部がキモッ!!


「うん。十分にここでも戦えるだけのレベルにはなってるね」


 そんな戦闘狂みたいな台詞を言うお前もキモイぞ?


「あ、次のが出てきたから、あれは鈴ちゃんのね!」


「えっと、パスで」


「パスは3回までだって言ったろ?」


「さっきので鈴ちゃんは3回パスを使い切りましたー!」


 ぬぬぬぬ……5回までにしとけば良かった……。


「りんおねえちゃん……おトイレ……」


「この芋虫があぁぁぁ!!鏡花ちゃんの邪魔をするんじゃねぇぇぇ!!」


 瞬間移動したかのようにグリーンキャタピラーの正面に立ち、フルスイングで剣を叩きつけた。

 そしてグリーンキャタピラーを真っ二つに――ならずに、スライムと同じようにやはり消滅した。

 はてな?


「鈴……お前とは長い付き合いだけど、今ほど怖いと思ったことはないわ……」


 空?どうしてそんなドン引きしたような目で私を見るの?

 あ、鏡花ちゃん。おトイレ空いたよー。




 あっという間にお昼が来た。

 一度やってしまえば後は慣れてしまったのか、私も芋虫駆除に抵抗は無くなっていた。


「やっぱり阿須奈のお母さんの作る料理は美味しいな」


 サンドイッチをぱくぱくと頬張りながら満足そうな空。

 阿須奈母の用意してくれたお弁当はベーコンレタスのサンドイッチメインで、唐揚げとか卵焼きとかが入ったおかずセットだ。


「特にこの唐揚げが絶品!!」


 表面がカリカリで、噛むと柔らかい肉の中からじゅわっと肉汁が溢れてきて口の中に得の知れぬ美味さが広がってくる。

 冷めているのにこんなことが出来るなんて、余程良い鶏肉を使ってるんだろうか?


「でしょ!お母さんは本当に料理が上手なの!」


「ママのりょうりおいしいです!」


 母親を褒められたことでご機嫌な姉妹。

 私にとってはその笑顔が一番美味しいよ。


「このマイティフロッグからドロップしたお肉で作った唐揚げとか最高なの!!私もたまに習ってるんだけど全然上達しなくて……今日もお肉とれたら練習することになってるんだけど……」


 なんて?今なんて言った?


「へえ、これがマイティフロッグの肉なんだ。めちゃめちゃ美味しいじゃん」


 いや、お前もすっと受け入れるなよ。

 マイティフロッグ?

 新種の鳥かな?どっかの有名地鶏とか?


「鈴。あの5階にいたでっかい蛙のことだぞ?」


 そんなの分かってるわ!!

 少しは現実逃避させてくれ!!


「あれって……食べられるんだ……」


「あれ自体が食べられるわけじゃないのよ。魔物は倒したら消えちゃうから」


「だからドロップしたって言ったろ?ポーションとかのアイテムだけじゃなくて、こういった食料もドロップされるんだよ」


 蛙の肉は鶏肉みたいだってテレビで観たことがあるような気はするけど……。


「わたしもからあげだいすきですー!!」


「鏡花ちゃん、あーん。お姉ちゃんの唐揚げもどうぞー」


「わーい!!」


 よし!次の私の獲物は蛙だ!!

 肉が落ちるまで帰らないからなー!!


 阿須奈の料理の練習と、鏡花ちゃんの笑顔の為に!!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る