第29話 転校生は初めてのものを見た?
さて、新メンバーを加えて不本意ながらも本格活動を開始したカレンダーズであります。
今後の活動方針としては、動画3本につき1階層進むということになりました。
それでも女子高生探索者が進むには異常すぎるだろうとの意見もありまして、ちゃんとレベル上げもして強くなってるんだよってなシーンを挟みながら撮っていこうと。
そうじゃないと、阿須奈の異常な強さばっかりが目に付くようになってしまうだろうと。
それでも私は構わない。
いや、むしろそうであって欲しいし、そのつもりで最初からいた。
私が前面に立って魔物と戦うなんていうことは想定の範囲外も範囲外。大気圏を遥か超えて銀河の彼方の壮大な物語。
「私たちはみんなでカレンダーズよね!!ね!!」
阿須奈のお父さんは営業マンだったな。
この押しの強さは遺伝しているんだと思った。
そして日曜だというのに朝から小鳥遊家にいる私と空。
可憐に微笑む阿須奈を添えて。
「みらんはある程度レベルアップしてるから、私たちもあいつくらいまでは強くなっておかないとな」
指の骨を「ゴキッ!ゴキッ!」と鳴らしながらやる気満々の空。
お前はもう素手でやれよ。スライムの秘孔とか突いて倒せよ。
「りんおねえちゃん!がんばってー!」
「鏡花ちゃん!お姉ちゃん頑張るからね!!」
日曜なのだから当然鏡花ちゃんもいる。
やふー!!スライムかかってこいやー!!
レベルアップとはいうものの、特にそのレベルが数字で表示されるということはないらしい。
ゲームとかであるステータスなんてものも見えない。
あるのは魔物を倒した時に得られる謎のポイント。これが経験値みたいなものらしいけど、具体的にいくつでどれだけ強くなるとかは個人差があるらしく、これまでも憶測的な情報しか世には出回っていなかった。
そしてそのレベルアップで強くなった能力というのはダンジョン内に限定されるらしく、どれだけ強い人であっても、ダンジョンを出てしまえばただの人なのだとか。
そういえば、学校での阿須奈の運動神経はどちらかというと良くない。ずっと帰宅部の私の方が体育では動けていると思う。あれはわざと実力を隠していたのだと思っていたんだけど、どうやら違ったらしい。
でも、一度ダンジョンに入ればというか、家に帰れば世界ランキング7位相当の実力者。いや、この家族の攻略した階層を考えれば――蓄積ポイントは7位でも、その強さは3位だと言えるんじゃないだろうか?父、母、阿須奈の順でさ。そのうち鏡花ちゃんも……あんな可愛らしいのに。
つまり、この家に誤って強盗にでも入ろうもんなら、スライムよりも悲惨な目に遭いますよって話。
「じゃあ、これが鈴ちゃんのね!」
阿須奈が渡してくれたのは、前に私が柄代わりにされた時と同じ剣。こうやってあらためてじっくりと見ると、その豪華な装飾の施された鍔だけでも、この剣が普通に手に入るような物じゃないということが理解出来る。
「で、これが空ちゃんの!」
空が渡されたのも前と同じ、刀身が黒い艶のある光を放っている剣だった。
どこか妖艶な雰囲気を漂わせている黒剣は、ファンタジーものに出てくる魔剣を想像してしまう。
「あ、空ちゃんのはあんまり長い時間使ってるとテンションが上がって振り回したくなってくるから気を付けてね!」
リアル魔剣だった。
でも空なら、放っておいても振り回しそうだけどね。
「その時は傍にお前がいるのを確認してからにするわ」
くそっ!敵は魔物じゃなくて味方にいたのか!
「はあ…つまんないこと言ってないで行くよ」
くそっ!また全部口に出てたのか!
「鈴ちゃんて本当に面白くて可愛らしい!」
「りんおねえちゃん、おもしろーい」
天使の姉妹を味方につけたので、魔剣使いの脳筋悪魔なぞ敵ではないわー!!
――1時間後。
「はい、スライムー。はい、またスライム―。はい、またまたまたまた……」
すっかりスライムと戦うことに慣れた私は、完全にだれきっていた。
魔物は怖い。でも、スライムと芋虫は何か見慣れちゃった。
そもそも、借りている剣が凄すぎる。
グリーンキャタピラーを豆腐を切るみたいに倒した時は、阿須奈のとんでもない力に驚きすぎて剣の切れ味とか気にする余裕がなかったけど、こうやって自分で使ってみると、その凄さが尋常じゃないことを実感する。
素人の私が適当に振り回しただけで、スライムは跡形もなく消えていくんだもの。
え?真っ二つじゃないのかって?
うん。何故か私が切ったやつは二つに斬れないで消えていくのよ。
剣を振りますー。剣がスライムに当たりますー。スライムが消えますー。
なんで???
空が斬ったスライムは両断された後に消えていくのに……。
「鈴……お前、それどうやってんだ?」
知らん!私が教えて欲しいわ!!
「鈴ちゃんて器用?だよね!」
阿須奈にも私が何をやっているのか分からないご様子。
どうやら私の剣技は世界ランカーすらも唸らせるものらしいぞ。
だから、この秘密は誰にも解き明かせないらしいぞ。
「こう?こうかなー?もっとあしをこう――」
後ろで鏡花ちゃんがちょこちょこと私の動きを真似しようとしている。
ねえ鏡花ちゃん。
私ってそんな動きで剣振ってるかな?
違うよねー?
お姉ちゃん。そんなガニ股じゃないよねー?
ねー?
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