第28話 転校生はアニメになる?

 公開されたカレンダーズ3本目の動画はそれまで以上の反響を呼んでいた。

 賛否両論、悲喜交々、質実剛健、反復横跳。

 様々なコメントが動画のコメント欄に書き込まれていたが、その再生数は後悔――いや、公開数時間で10万再生を超えて、日を追う毎どころか分を追う毎に恐ろしい速さで増えていく。

 それに巻き込まれ事故――いや、興味を持った新しいリスナーが前の2本も観てやがる…観ていやがられるご様子で、そちらの再生数も悪夢の様に増加しておられましたでございます。



「……………」


 しかし――公開前にみらんが編集し終えた動画を観た私のリアクションは無。

 完全な無。

 未経験の衝撃で言葉も出ない。

 公開先に立たず。みらんの馬鹿広い部屋の中に私たち4人の沈黙の空気が流れた。


「……カオス」


 最初に、空がPC画面を見ながらそう呟いた。

 確かにカオスだ。ガラパゴス大カオスだ。

 新種発見!でも、絶対に世間に発表したくない!!


「どう?私の完璧な編集は?」


 みらんはそんな私たちの空気を全く読まない?読めない?読む気のない?発言をする。

 どこからその自信が湧いてくるのか。

 私たちとは違う感性を持っているのか?それかお前は違う慣性の法則の中に生きてるのか?


「凄い!!みらんちゃん!凄い!!」


 あ、もう一人違う世界の人がいたわ。

 確かに凄いけども、凄いのベクトルが違うんだわ。


 3本目にして早くも新メンバー発表と銘打った今回の動画のオープニング。それまでと変わらない恰好で並ぶ私たち3人。しかし、阿須奈と空の間に問題の新メンバーである畑野みらんこと『永遠ノヒカリ』の姿があった。

 単色の地味な恰好の私たちの間に、フリフリの純白の衣装を纏った『永遠ノヒカリ』。背中には羽なんて生えていやがる。


 いやいや、撮影の時は本人だったじゃん?

 永遠ノヒカリでーす!!とかって挨拶してたから、てっきり素顔バラシていくんだと――私たちはみんな思ってたわけよ?

 何でこうなった???


「一人だけCGとかってありなの?」


 実写の私たちに混ざって動いて喋る『永遠ノヒカリ』……。

 その動きも言葉も、確かに私の記憶の中にあるもののように思う。

 それをCG加工したのか?


「鈴原。これはモデルって言ってもらいたいわね。CGで後から加工したんじゃなくて、最初からそう映るようになってるのよ」


 そう言うと机の横にある、これまた馬鹿デカい棚に置いてある機材を持ってきた。

 腕時計くらいのサイズで、ピンクの桃の形をした文字盤のようなものにゴムバンド。

 それには3人とも見覚えがある。

 あの撮影の時に、みらんが秘密兵器だといって持ってきていたものだ。

 ずっと秘密のままだったけどね。


「これはモバイルモーションキャプチャーの『モモぴ』よ。これを全身に装着して撮影することで、あらかじめ設定しておいたモデルの動きを動画に反映することが出来るのよ」


「お前、最初からそのつもりでカメラの設定とか任せろって言ってたのか?」


「あの場でどうこう言って反対されて揉めるより、撮ったものを見せて納得させた方が早いでしょ?」


 黙っていたのは当然と言わんばかりのみらん。

 確かに、こうなることが分かっているなら、空は大反対したと思う。

 私は今揉めてお蔵入りにならないかと祈っているけども。


「これで納得させられるとでも?」


 睨む空。


「これで納得しないとでも?」


 睨み返すみらん。


「私はこれで良いと思う!これ凄いカッコいいよ!まるで私がアニメの世界に入っちゃったみたい!!」


 阿須奈は2人が睨み合っている間も進んでいく動画に釘付けになっていた。

 アニメの世界…ねえ……。


 向かってくる巨大なグリーンキャタピラー。

 颯爽と迎え撃つアスナ。

 そして、羽をパタパタと華麗にジャンプしてトドメを刺すヒカリ。

 少し阿須奈の言っている意味が分かる気がする。

 幼い頃に憧れた魔法少女と一緒に戦っているような錯覚。

 いつか自分もなれると信じていた頃の幼い私が顔を覗かせた。


「……まあ、こういうのもありなんじゃない?カレンダーズって名前っぽくてさ」


 私は、ついそんな失言をしてしまった。


「鈴。お前までそんなやる気を……」


 あ、違う違う!別にこれからもやりたいて意味じゃないの!!


「分かったよ。3人がそれで良いんなら、私だって無理に反対する気はないよ。それに、どう評価するかは観た人が決めることだしね」


「やったー!!」


「でも!今回はこれで良いけど、公開してみて批判が多いようだったら考え直さないとだよ?」


 両手を上げて喜んだ阿須奈に空が釘をぶっ刺した。


「絶対に大丈夫!!みんな楽しんで観てくれるよ!!」


「私の天才的な感性を信じなさい!」


 ピーナッツ。お前の感性が信じられないからこんな話をしてるんだろうよ?


「まあ、畑野は信じられないとしても――」


「おい!!」


「阿須奈がこんなに喜んでるんだったら、少なくとも子供受けはすると思うしね」


「空ちゃん酷い!!」


 いいや、どっちも酷くはないよ。

 正当な評価だよ。


「それに――畑野だってモデル映えさせる為に頑張ってたんだろ?」


 空の言葉に、みらんの顔は一気に真っ赤になった。

 熟れたぞ。みんな収穫じゃー!!

 いや、みかんは赤くならんね。


「あっ!そうか!それでみらんちゃん、あんなにレベル上げしようとしてたのね!」


 阿須奈。それ以上はみらんが熟れ過ぎて腐るからやめてあげて。


 みらんはこの撮影数日前から、阿須奈と二人でダンジョンという名の小鳥遊家の廊下を徘徊していた。

 それは撮影の為にダンジョンに慣れるという名目だったが、その実はレベルアップによる身体能力の強化にあったようだ。

 それもモデルを華麗に動かす為だったのか……。


 ちなみに私は初日にグリーンキャタピラーを倒して以来、一匹の魔物も倒してはいない。

 だってカメラマンだもーん。


「違うわよ!私はそんな陰で努力なんてしなくたって天才なんだから!」


「でもみらんちゃん。あんなに一人で一生懸命にスライムとか倒してたじゃない?」


「……………」


 みらん。隠れるならベッドの布団とかにしてもらえる?


 私のスカートの中は違うと思うなあ。


「……くまさん?――ゴッ!!」


 あ、ゴメン。

 肘置きかと思っちゃった。



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