第19話 転校生は遠足気分?

「駄目です!!そんなの貰えません!!」


 ぎりぎりのところで意識を保った私が大声で叫ぶ。


「ふわあっ!」


 あ、鏡花ちゃんゴメン!驚いちゃったよね!


「鈴ちゃん急にどうしたの?」


「いや!どうしたもこうしたも山下も無いでしょ!?8000万だよ!?もしかしたらそれ以上かもしれないんだよ!?」


「山下って誰?」


「そこはスルーして…。そんな高価な物貰えるわけないじゃない!?」


 宝くじの当たりを受け取るようなものだよ?

 そんな大金を「あ、ありがとうございます」とか言えるわけないでしょ?


「でも、カメラ買うお金が必要だし……」


「テレビ局のカメラでもそんなにしないから!!簡単な撮影用のカメラなんだから、そんな大金必要ないって!」


「そうなの?私、あんまり世間の物価とかよく分からなくて」


 物価とかの話じゃなくて、一般常識の話をしてるんだけど?


「でも足りなかったら困るんじゃないか?」


「そうよね。うちは全然構わないわよ?」


 お父さん、お母さん。あなたたちは社会経験ありますよね?

 お父さんは営業やってるんですよね?本当に大丈夫な金銭感覚ですか?


「う……ううん……」


 私の声で帰ってこれたのか、空が意識を取り戻したようだ。

 あんたからも言ってくれ!カメラはそんなに高くないって!


「あれ?ここは……ヒイッ!!オーガ!!う…ううう……」


 いい加減慣れてもらっていいか?

 話が進まないんだわ。



「なんだ、そんなに安かったのか」


 それほど詳しくないと言いながらも、大体の値段を空が言ってくれたおかげで何とか理解してもらえたようだ。


「でも、本当にそんな値段ので大丈夫なの?どうせ買うなら性能の良いやつの方が……」


「多分、それでもそんなに高くは無いと思います。それにいろいろな機能があっても、私たちに必要とは限らないですから」


 脳筋の割に、こういう時はちゃんとしている空。

 悔しいが、今回は借りにしておいてやるよ。


「ねえ、ポーションだったらいくらで売れるの?」


 漬物石は辞退するとして、元の目的だったポーションの値段が分からないのでは話が進まない。


「それは私も調べたことが無いから知らないんだ。でも、どんな怪我でも治すっていうんだから、それなりの値段にはなると思うけど……」


「あれ?探索者を目指してたってくらいだから、そういうのを目的なんだと思ってた」


「ん?空ちゃんは将来探索者になりたいのかい?」


「あ…は、はい!」


 大丈夫だ空。喰われたりしないから落ち着け。


「でも、私が探索者になりたい理由は、単純にダンジョンに興味があるからです。その奥に何があるのかとか、何故ダンジョンが出来たのかとか……。そういうのを私の手で解明してみんなに伝えたいんです」


 おい、キャラに似合わない事言うもんじゃない。

 人は殴ったら犯罪になるから、代わりに魔物をぶったおしたいとか言うもんだ。


「お前、何か失礼な事を考えてるだろう?」


 その殺意は魔物に向けてもろて。


「そうか、確かにそういうロマンを持って探索者になる人もいるみたいだしね。ああなるほど、それで撮影をしながらダンジョン探索をしようと言うんだね」


「そうね!私たちでダンジョンの奥を撮影して、みんなに見せてあげれば良いんだね!」


「それがうちの奥なのね……。先に掃除とかしておいた方が良いのかしら…」


 この家族はすぐに路肩にハンドルをきるような事を言うなあ。


 空の将来の目的と小鳥遊さんの短絡的な興味は全然別の話だと思いますよ?

 たまたま繋がってるように見えますけども。


「はい。今回はちょうど良い機会だと思っています」


 お前も繋げようとすんな。


「まあ、ポーションで構わないと言うのだったら、いくらでも持って行って構わないよ。ここにあるので足りないのだったら物置にいくらでもあるから」


「その時は私が取りに行ってあげるね!」


 地下30階にね……。

 そんなお使い気分で行くとこじゃないと思う。


「とりあえず――カメラとかの撮影に必要な機材と、ポーションの値段を確認するのが先かな?」


 それが分からないと、お金が足りないのか余るのかも分からないしね。


「だね。ここはネットが繋がらないから、帰ってから調べてみないと」


 そこら辺は空にお任せという事で。


 あれ?何かおかしい気がする……な。


「多分、戦闘のメインは阿須奈になるとして……。私と鈴がカメラ役しながらたまに出演て感じかな?」


 あ……なんで私、こんなに撮影に乗り気みたいな感じで話してたんだろう……。


「ああ!今から凄く楽しみ!!」


「3人とも怪我しないように気を付けるのよ」


「まあ、40階くらいまでなら、阿須奈がいれば問題ないだろう」


 ――!?

 ヤバい!!どう考えてもヤバい!!


 なんでそんなギネス記録にチャレンジみたいなことに命を賭けなきゃいけないんだ!!


 40階だと!?

 冗談じゃない!!阿須奈が強いんだろうってのは、さすがに理解してるさ!!

 空は筋肉が残っていれば再生するかもしれないけどさ!!

 でも、私はごく普通の高校生女子だよ!?


 100%死ぬ!1000%死ぬ!!10000――


「りんさんのかっこいいとこみるのたのしみです!」


「鏡花ちゃん!お姉ちゃんに任せて!!」


 口があぁぁ!!自分のこの口が憎いぃぃぃ!!




 家に帰って少し経った頃、空からのメッセージがスマホに届いた。


『鈴!!ヤバい!!』


『ポーションの取引かかっく』


『価格』


『ごじぇんまんだって!!』


『五千万』


 ……さて、あとはあの家のゴミ箱でも漁ってゴミを売るしかないな。


 それでも100万くらいするんじゃないの?



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